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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2001.3
- 出版社: 現代企画室
- サイズ:20cm/220p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-7738-0100-X
紙の本
ハバナへの旅
著者が自由を求めて亡命した国=米国は、すべてが金次第の魂のない国だった。幼く、若い日々を過ごした故国=キューバの首都ハバナへの、哀切きわまる幻想旅行。【「TRC MARC...
ハバナへの旅
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商品説明
著者が自由を求めて亡命した国=米国は、すべてが金次第の魂のない国だった。幼く、若い日々を過ごした故国=キューバの首都ハバナへの、哀切きわまる幻想旅行。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
レイナルド・アレナス
- 略歴
- 〈アレナス〉1943〜90年。キューバ生まれ。「夜明け前のセレスティーノ」で文芸家協会賞受賞。キューバで激しい弾圧を受け、80年アメリカに亡命。著書に「めくるめく世界」ほか。
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紙の本
地球の上に朝が来る
2002/07/08 06:30
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あおい - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者のこれまで邦訳の出た作品の中で僕はこの本が一番好きだ。
なるほど、「めくるめく世界」は荒唐無稽で抜群に面白いし、「夜になるまえに」は迫力があってじっくり考えさせられるし、「夜明け前のセレスティーノ」は、処女作ならではのほとばしるような<書く>ことの至福に充たされていて感動的なのものには違いない。けれどもそれらの大作が、どうしても大作であるがゆえに抱え込んでしまう巨大さに、どうにも疲れてしまうのも読者としての偽らざる印象なのだった。
この本は、旅の主題による三つの物語を精緻に配列して構成したこの本自体で一つの小説でもあるような体裁の小説である。起こってしまったことはもう変えようがない、とりかえしがつかない、というような絶望的な悔悟を通奏低音に、同性愛や死のモチーフが、アレナスの小説ではほとんど例外的とも思えるようなささやくような調子で浮かび上がるように綴られていく。この繊細さ、<小ささ>は、いわゆる「物語の復権」を楽天的に謳う<ラテンアメリカ文学>とはまったく異質な感動を憶えさせてくれるものだ。
多くの読者に触れてもらいたい傑作。
紙の本
海辺のあまやかな記憶に彩られた故国へのノスタルジー
2001/06/05 18:17
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:井上真希 - この投稿者のレビュー一覧を見る
フロリダ海峡をはさんで、自由の国アメリカの領土まで数百キロのキューバ島の周囲には、高い青空の下に波の泡立つ透明な海が広がっていて、首都ハバナにも、美しい松林をそなえた陽光あふれる海岸があった。心惹かれる若者たちも、海から現われるかのようだった——。
木々の光り輝く大通りの中央に設えられた散歩道を抜けて、青年は浜辺に出ると、砂の上に寝転んだり、沖まで泳ぎに出たりしながら考えた。「ここから出られたら、ここから出られたら……」。
カストロ体制化で閉塞したキューバのひとびとは、海の壁によって隔てられた自由の国への亡命を企てた。著者アレナスは、政府に異議を唱える人々に対してカストロがマリエル港を開放した際に出国した12万5千人のひとりであった。1980年5月、乗り込んだ聖ラザロ号が途中でコースを外れ、燃料切れでメキシコ湾流のなかで漂流したものの、2日後に救出されてキーウェストに到着したのだという。
この中篇集『ハバナへの旅』には、まったく雰囲気の異なる、しかし、ハバナへと回帰する心、青年期を過ごしたハバナへのノスタルジーを共通のモチーフにした3篇が収められている。著者はそれらを〈三つの旅からなる小説〉として1冊にまとめた。
「エバ、怒って」は、1960年代の物資の統制のなかで、ひとびとの注目を集めるためにサイケデリックな衣装を次々に編み上げ、遂にはキューバ島じゅうをめぐる旅をするエバがハバナへと帰還するまでの物語であり、「モナ」は、著者と同様、1980年にマリエル港から亡命し、ニューヨークで夜勤の警備員として働く若者ラモンが、1986年に謎めいた事件を起こし、収容された拘置所内で書いた手記を、直後の1987年に発表しようとした男、1999年の初版の編集者、2025年の改訂版の編集者という3者の註入りで綴る形式がとられている。その註のなかで、「作家レイナルド・アレナスが1987年夏にニューヨークでエイズで死亡した」と記されているのは、この作品が、著者がエイズの進行に脅かされて死を予感した1986年秋に書かれたものだからである。
そして表題作「ハバナへの旅」では、ホモセクシュアルであることを当局に偽るために結婚して子供をもうけたが、陥れられて刑務所に収監され、そのまま妻子の元へは戻らずに亡命してニューヨークで暮らす50歳のイスマイルが、1994年のクリスマスに15年ぶりに故国へと里帰りをし、昔とはすっかり様変わりしたハバナの浜辺や街並みに、自らの原風景、人生の一部を喪ったことに気づかされるなかで、23歳に成長した息子と、予期せぬかたちで絶望的ともいえる再会を果たす。
自叙伝『夜になるまえに』(国書刊行会刊)をも手がけた訳者も指摘するとおり、「ハバナへの旅」を脱稿した後の1987年冬に、著者は浜辺での自殺を考えたというが、それは、どの海であれ、キューバとつながっているからのことだっただろう。自由を求めて渡った先は、彼のなかに息づく潮の香の漂う熱帯の、冬も暖かなハバナとはまったく異質な土地で、ニューヨークの雪景色はかえって、二度と取り戻せない青春時代のあまやかな記憶、故国への帰還という叶わぬ願いをかきたてるものだったに違いない。それだけに、ここに描かれたハバナは、強烈な太陽とは無縁のはずの美しい陰翳にも彩られている。 (bk1ブックナビゲーター:井上真希/翻訳・評論 2001.06.05)