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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2000.10
- 出版社: 現代企画室
- サイズ:20cm/140p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-7738-0011-9
紙の本
船の救世主
模範的な軍人の海軍大将が義務づけられている精神鑑定を受けることになったことから、彼の頭の中の歯車が狂い始める…。ファナティックな人物や組織が陥りやすい狂気の世界を描く。【...
船の救世主
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商品説明
模範的な軍人の海軍大将が義務づけられている精神鑑定を受けることになったことから、彼の頭の中の歯車が狂い始める…。ファナティックな人物や組織が陥りやすい狂気の世界を描く。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
ロドリゴ・レイローサ
- 略歴
- 〈レイローサ〉1958年グアテマラ生まれ。作家。モロッコでポール・ボウルズに師事。
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紙の本
静かに、そして巧みに描き出される<狂気>の物語
2000/11/28 18:15
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投稿者:赤塚若樹 - この投稿者のレビュー一覧を見る
どこかの国では、英語圏の作家、とりわけアメリカやイギリスの作家なら、たいした作品を書いていなくてもわりと簡単に紹介されるようだが、そこに属さない作家となると、はるかに上をいく力量をもっていても、ほとんど眼を向けてもらえないという状況があるようだ。その背景にいろいろな事情があるのはわからないでもないが、文学作品は読めないことにはどうにもならないのだから、やはりそうした偏りはできるだけなくしてもらいたいと思う。
たとえば、ロドリゴ・レイローサのような作家でも、作品が翻訳されないかぎりは──どんなに良質の紹介記事があったとしても──、わたしたち読者には本当の意味でそのよさというのは伝わってこない。だから『その時は殺され……』につづいて、本書までもが日本語で読めるようになったことについては、なによりまもず、よろこばしい出来事であるといわなければならないだろう。
さて、この『船の救世主』、いったいどんな小説なのだろうか。──海軍大将オルドーニェスは、施行された「屈辱的な法律」にしたがって心理検査を受けなければならない。不安でならない大将が、検査についてしらべるために国立図書館を訪れると、そこで得体の知れない男に話しかけられる。その男は、大将には「大きな使命」があるといい、ぜひ読んでもらいたいと、自分が書いた小冊子を渡す。それを読むと、大将は「ある不思議な感慨」にとらわれるが、内容は「支離滅裂な」ものでしかない。
翌日、大将は、旧友フェルナンデス博士のもとで検査を受けるが、黒い大きな染みからなるテスト用カードをみたとき、小冊子で読んだ《インクと紙がわれわれの住処です。そこからあなた方を見ております》という言葉を思い出して、検査がつづけられなくなる。博士はひとまず検査が終わったことにして、大将を食事に誘うが、レストランのテーブルに着いたときふたたび問題のカードをさしだす。すると、大将はなんと失神してしまうのだ。やがて正気を取りもどした大将は問われるままに、博士に図書館での出来事を話してしまう。──
まもなく読者は、小冊子の男の正体が大将の幻であることを知るが、そのとき浮かび上がってくるのが<狂気>というテーマであることはいうまでもない。小冊子の男を恐れる大将。疑いを抱く博士。夫の失職を恐れる大将の妻アマリア。この3人を中心に物語は進展していくが、おどろくべきことに、大将は最後に、海軍大臣の親友であり、フェルナンデス博士の恩師でもあるポンセ博士を殺してしまうにもかかわらず、大臣からは、「適性は抜群」という検査結果をフェルナンデスが出していると聞かされることになるのだ。何があったというのだろうか……
1958年、グアテマラ生まれのレイローサ。けっして多くを書き込んでいくタイプではないが、ひとつひとつのモチーフをうまく配置しながら、じつに巧みに物語を組み立てていく作家のようだ。まだ比較的若いこの作家には、多くを期待していいのではないだろうか。そして、その作品がもっとたくさん日本語で読めるようになることも。ところで、タイトルにある「救世主」という言葉だが、これが小説のなかに出てくるのが、フェルナンデスと不適切な関係にある患者テオデリーナの口をとおしてだという点を最後につけくわえておこう。 (bk1ブックナビゲーター:赤塚若樹/翻訳・著述業 2000.11.29)