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「なぜ、所得が上がらいのか?」、22名の気鋭が日本の労働市場のからくりを解き明かしてくれます!
2018/01/09 15:43
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、標題にもありますように、「人手不足なのに、なぜ、賃金が上がらいのか?」という私たちが最も気になる疑問を、学術的に解き明かした書です。本書では、高等教育機関などでその面での研究を続けられている22名の気鋭によって、日本の労働市場の構造とそのからくりが見事に解き明かされ、上記の疑問に対する回答が分かりやすく行われています。ぜひとも、皆さんに読んでいただきたいビジネス書の一冊です。
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一読の価値はあり
2019/01/07 22:50
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投稿者:しょひょう - この投稿者のレビュー一覧を見る
書店で見つけて面白そうだったので購入して通読。
書名の通り「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」についての、大学や官公庁の研究者による16の論文集と、編者による総括。
一部を記すと以下のような感じ。
・正規労働者も非正規労働者も賃金は上がっているのだが、賃金の低い非正規労働者の割合が増加しているので、全体平均としては賃金が上がらない。
・高齢化による60歳以上の労働者が非正規労働者化が正規労働の増加を抑制を招いている。
・人材需要が伸びている福祉・介護分野では規制により賃金が上がらない。
・賃金の下方硬直性の裏返しとして上方硬直性が働いている。
・40代に差し掛かってきた就職氷河期世代の賃金がバブル世代比で低い。
・社会保障費負担が増加しており、企業側の人件費負担は高まっている。
さまざまな論者によるさまざまな観点からの分析が並記されており、中には???という論もあるが、少なくともいろんな見方・要因があるんだな、ということは分かる。
もう少し踏み込んだ分析が欲しい気もするが、アンソロジーのような論文集なので、それは仕方がないところか。
全般的に読みやすく、一部を除き経済学についての深い知識は不要。
よく話題にあがるテーマでもあり、一読の価値はあると思う。
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心の問題
2017/06/21 10:41
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投稿者:KKキング - この投稿者のレビュー一覧を見る
有効求人倍率がどうの、と喧伝するアベノミクスだが、賃金は上がらない。その原因を探る一冊だが、心の問題が大きいのでは、とする。若者や女性への就業促進もいいが、就職氷河期世代をどうにかした方がよいのでは。
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本書のテーマは今やエコノミストや経済学者のみではなく国民的関心事ではないだろうか。本書の「原因は一つではない」との視点に納得する思いをもった。
賃金を上げようとしない経団連の圧力は眼に見えるからわかりやすい。大手企業は内部留保をひたすら増やしながら賃金に回さないのだから財務大臣から「守銭奴」と言われても仕方がない。
しかし原因が「制度」や「規制」などの社会システムの場合、変革することは一朝一夕には難しそう。
本書の専門家による多角的な検証は、それぞれ胸にストンとおちると同時に「日本を賃金が上がる社会にする」ことの困難さも理解できた。
また、本書の考察のように原因が複合的ならば一つや二つの対策では不十分だろうし、日本の縦割り行政の下では実効ある政策の実施は難しいのではないかとも思えた。
本書を日本の現状を的確に分析した実にタイムリーな本であると高く評価したい。硬い経済書にもかかわらず一気に夢中で読んでしまった。
2017年7月読了。
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賃金の情報硬直性。構造的な問題があるか?
医療福祉分野は、介護報酬制度による賃金抑制。
人手不足だが賃金をあげると採算がとれない。
名目賃金の下方硬直性の裏返し。
賃上げの不可逆性のため、下方に硬直的だと上方も硬直的になる。
成果主義の普及。
企業は誰のものか=従来の主要なステークホルダーだった従業員は、今はコスト要因として見られるようになった。
バス運転手の時間あたり賃金は下落傾向。生産性が上昇しない。新規参入障壁が低い=値上げができない=運転手の賃金を上げられない。
就職氷河期世代の生産性が上昇していない。
欲しい人材と働きたい人材のズレ。
企業内OJTが減った=即戦力を求める傾向。
off-JTは効率が悪い。しかし、OJTの余裕がない。
構成バイアスによって平均賃金があがらない。
女性の割合が増えた、パートタイムが増えた。高齢者再雇用が増えた。
高齢化、非正規化の影響。
保険、税金などの非消費支出の上昇。
国際競争によって、国内産業の介護医療などの賃金も引きずられる。賃金の伸縮性。
氷河期世代の能力開発の遅れ。
正規社員と非正規社員が同一労働で賃金の違いが見られる。正規社員が既得権層となり、正社員の留保賃金が低下し組合の賃上げ要求も抑制気味となる。
給与の資格給制度。
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2000年代前半、「仕事のなかの曖昧な不安」で若年層の"こぼれ落ちる人々"研究の第一人者となった玄田さんが、この本のタイトルとなっている「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか?」という極めて太い問いを行って、その1問のみの答えを巡って21名の研究者や実務家がその回答を披露、批評するという極めてユニークで知的な書。
この問いの回答は当然に複数あるし、多面的である。特に印象に残っている論考は、「給与の下方硬直性による上方硬直性」説、「(2000年以降で最も雇用を増やした)介護・医療分野での昇給規制」説、「団塊世代の再雇用および女性の就業率向上に伴う雇用弾力性の充実」説、「コーポレートガバナンス強化およびグローバル経済の不確実性の高まり対策」説などである。おそらくどれもが賃金の上がらない明確な理由であり、かつ複雑に絡み合っているのだろう。
このうち、会社を経営していてもっとも身近に感じる説は、「給与の下方硬直性による上方硬直性」と「コーポレートガバナンス強化およびグローバル経済対策」なのではないだろうか。行動経済学の原理として、人は得る喜びよりも失う悲しみの方が大きく、強く感じる(損失回避特性)。また、通常、人は現在の給与水準に生活をアジャストさせているので、給与が上がるよりかは下がるほうが実生活へのインパクトが大きい。給与が下がると給与を上げた時のモチベーション上昇以上のダウンが生じる。他方、コーポレートガバナンスの強化に伴い経営者は、株主還元や短期利益確保に対する配慮が以前よりもせねばならい。またリーマンショック的な世界経済の影響を受けやすくなって、結果として、給与以外での出費(や貯蓄)を余儀なくされており、人件費が上昇することに対して抑圧的なバイアスがかかることになる。
この本は、それぞれの研究者がそれぞれの角度や手法で1つの問いの答えを得ようとするので、「知の武道会」と見えなくもない。他方、導かれる答えは同じものだったりすることも多いので、総括編集の玄田さんが序文で書いているように「読者の関心の近い層から自由に読む」ことをオススメする。また実は骨太の問いは2問あり、「賃金を上げることが今後可能だとすれば、いかにして実現できるのか?」という2問目の問いについての解答があまり言及がなかったり、「当面は難しそうだ」、「***についてより議論の高まりが待たれる」的な結論で終わってしまっているものが散見されたように感じ、これは残念であった。唯一、「団塊世代の再雇用、女性の就業率向上」主犯説は、明確にそれらの雇用の吸収が終わった後に真の人手不足が生じて賃金上方がある、と言っていたが、マクロで賃金を上昇させるとはそれほど難しいということなのだろう。。
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本書では様々な観点から経済学者陣が本書のタイトルについて論じている。
中でも就職氷河期世代の影響が昨今の賃金へ影響を与えているという説は面白い。感覚的には企業が悪いと短絡的になってしまうが、この問題では日本の労働慣行(新卒一括採用)が問題であると感じた。
その他には非正規社員の増加により、入社間もない新卒社員にやらせるべき簡単な業務がなくなるという、経験の不足にはとても良く理解できる。
これほどにも厚みのある本は、一つに様々な学者に割り当てた枚数の少なさが功を奏したのであろう。みな結論を明確に示し、詳細な論拠に関しては論文に席を譲っている。
なんとなく分かったつもりになって、賃上げ問題を論ずる前にまずは本書を熟読すべき!
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少子高齢化の進展による生産年齢人口の自然減少。それでいて一部の産業や職種を除いて幅広く妥当する給料の上げ止まり感。経済学の基本が教えるところの需給バランスが成り立たなくなっているように見えるのはなぜか。本書の表題は、好むと好まざるとに関わらず、社会人の誰しもが関心を抱かざるを得ない一大トピックを体現している。
福祉・介護分野で働く人間にとっては、特に第1章、第3章、第13章が参考になると思われる。このうち第1章はまさにこの分野を念頭に表題の理由を探る内容となっており、介護労働市場が一般の労働市場における需給曲線の例外的ケースに陥っている可能性を指摘している。また、第3章におけるバス運転手の賃金プロファイルの推移については福祉・介護分野にとっても興味深い項目である。あくまで私見だが、両章を勘案すると、介護報酬の価格決定過程において賃金プロファイルがほとんど考慮されていないことが、この業界の昇給制度が十分に機能していない原因の一つになっているのかもしれない。いずれにしても、読者に対して多角的に考える材料を提供してくれる良書である。
なお、本書は編著であり、幅広い読者層を想定している性格上、いずれの章も紙幅の制約がある。そのため各章の末尾に掲げられた参考文献をあわせて読むと、理解が一層深まるだろう。充実した内容の割に価格が良心的なのも魅力的である。
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賃金が上がらない構造的な理由についての検証を行っている。
非正規雇用の増加、労働生産性の低下、企業の人材投資の低下(労働分配率低下)。
団塊ジュニア世代は就職氷河期で、賃金が他の世代に比べて低い。
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賃金の下方硬直性ゆえの上方硬直性とか、世代間格差とか、統計的誤謬の可能性とか、非常に示唆に富む内容だった。個人的には産業の新陳代謝を高め、生産性の低い産業から高い産業への労働力の移動があるべきだと思う。
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賃金が上がらない理由を、複数の経済学者が書いた16の論文をまとめている。だが、いずれもこれだと言う内容もなく、一部を除き目新しさもない。
理由は様々あると思うが、労組の組織力の低下に伴う労働分配率の低下が大きな要素だと思う。
役員の報酬は上がり続けているのに、労働分配率は低下を続けているが、労組は経営参加と言われてその気になって(もしくはそのフリをして)、戦うことを恐れる組織になってしまった。その辺りをもっと問題提起する人が居ないのが残念。
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旬の本だから早めに読まねばと思いつつ、途中で放りだしてながらく積読にしてしまっていた。でもおかげで本書の論考が執筆されたであろう時点から概ね3年が経過した(2019年11月)ので、その後の実質賃金推移を振り返ってみると。。。
・毎月勤労統計調査 「きまって支給する給与」
2018年は2015年比で1.6%増、ただし2019年にはいって微減ないし横ばい傾向
・消費者物価指数 「総合」
2018年は2015年比で単年値を掛け算すれば1.4%増
以上より実質賃金は3年がかりで0.2%増くらいと相変わらずほぼ横ばい。ますます人手不足は言われているように感じるのですがこの状況。なお毎月勤労統計調査は調査方法の誤謬が問題になっているやつ
オムニバス形式でいろいろな論考がならんでいるが、響いたのは第1章と第15章。
第1章での、労働需要の賃金弾力性が非常に大きいため「人手不足=労働力に対する超過需要ではない」可能性、との指摘は納得できる。はたらきたい人はいるのだが給料が安すぎて集まってこないために人手不足「感」が生じてしまうというもの。企業に対するアンケートでも、人手不足の理由として事業の拡大よりも離職の増加を上げている企業が多いという裏付けもあるそう。本章で他にも指摘されている介護報酬制度による介護職の賃金抑制も、給与が抑制されてることからくる人手不足ということでは同様の構図になり、人手不足でも好況感がまったくないことになる。
第15章はあらたな発見はないが現実世界の感覚として強烈に腹落ちする。まさに身分としての正規/非正規。もともとの正規/非正規格差は「男性稼ぎ主モデル」による生活保証を日本では企業が担ったことが原点だろうと示唆するが、それが時代とともに変容しつつ、都合の良いロジックで正当化されている。解決の妙案はない感じ。
あと第6章、第7章の人材育成力の低下という指摘も重たい。
全体として賃金の伸び悩みに対する「これぞ」といった処方箋はないのだが、一つありそうなのは第7章で触れられている、女性や高齢者の労働市場への新規参入が落ち着いて現代版「ルイスの転換点」を迎えるかも、というもの。
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タイトルの通りだけど、12人あまりの人がそれぞれの切り口で自説を述べるオムニバス方式。色んな切り口があるので面白い。
でもほとんどは忘れてしまった。
実は結構難しくて、用語を調べたり、別のページのグラフと見比べたりする必要があり、電車内で読むには向かない。
わかりやすいのは、失業率も下がっているし、正社員、非正規労働者の給料はそれぞれ上がっているけど、正社員→非正規への人口シフトが起こり、トータル平均だと給料が下がって見える、というもの。
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自分はトラックドライバーなのでバス運転手を例えに賃金が上がらない理由(スキルの勤続年数による向上がない、など)を考察した章が印象に残った。
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人手不足なのになぜ賃金があがらないのかという問いに対して、様々な角度から解明を試みる。編者は七つのポイントから整理している。
【需給】労働市場の需給変動からの考察
・市場メカニズムが働いていたとしても、弾力性の高さから、人手不足は主に雇用者数で柔軟に調整される結果、賃金は上がりにくくなる
・需給に応じて賃金がすぐには反応しないことを主張する論文が多かった半面、…継続就業している雇用者に限定し個別に追跡していくと、賃金が上昇している場合も少なくない。
【行動】行動経済学等の観点からの考察
・賃金の下方硬直性が情報硬直性を生み出す
【制度】賃金制度などの諸制度の影響
・賃金に関する制度だけでなく、社会保障に関する諸制度も、賃金が上がらない背景となっている
【規制】賃金に対する規制などの影響
・現在の成長産業である医療・福祉産業では、どんなに人手不足になっても、すぐには賃金が上がりにくい仕組みがある
【正規】正規・非正規問題への注目
・正規雇用に比べて賃金の低い非正規雇用の割合が増えれば、雇用者全体の平均賃金には、明らかに低下圧力が生まれる。2000年代を中心とする非正規雇用割合の増大が賃金を抑制していた
【能開】能力開発・人材育成への注目
・人的資源管理論の立場からすれば、人手不足なのに賃金が上がらないのは、一つには企業が高く評価する技能を持つ労働者が少ないから
【年齢】高齢問題や世代問題への注目
・働き盛りの年齢にある(30代から40代)人々の置くが、まさに賃金停滞の中心にある