捏造される歴史

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現代アメリカに蔓延る薄汚い擬似歴史の一覧。偽史が生まれる原因、利用する政治勢力などの話が不十分だったが、山形浩生の解説がその辺をフォローしていた。

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ロナルド・H. フリッツェ (著), Ronald H. Fritze (原著), 尾澤 和幸 (翻訳)
アトランティス伝説、ダ・ヴィンチ・コード、出エジプト記の謎、失われた聖櫃、新大陸発見、マウンド・ビルダー、黒いアテナ…。擬似歴史はどのように作られるのか。偽りの歴史の源泉と問題に迫る衝撃の書。

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――自説と相容れない考え方をする学者や研究者にたいして、バナールはつねに、それが過去の人物であれ、現存する人物であれ、人種差別的な考え方に囚われているのではないかとほのめかす――

マーティン・バナールは、その著書「黒いアテナ」で、ギリシア文明のルーツを、フェニキアとエジプトに重きを置く説を唱えた。すなわち、それまで当然のものとして存在してきたアーリア史観に対して異を唱えたのである。
個人的にはその心意気や良しと感じる。しかし、問題はその中身だ。アーリア史観は、もしかしたら、ヨーロッパ中心主義が生んだ歪んだ世界観かもしれない。しかし、それ以上に、バナールの主張は、恐ろしく根拠の薄いものだったのである（さらに状況を悪化させることに、この書物の中には、「黒いアテナ」というタイトルから受け取る印象、「アフロルーツ」的描写は――ほのめかしはあっても――具体的な描写は存在しないとのことで、この恣意的なタイトルに対する批判も巻き起こった）

これは原理主義化した思考の悪しき失敗例なわけだが、対して、「ブリティッシュ・イスラエリズム～クリスチャン・アイデンティティ」の流れは、20世紀アメリカの「親イスラエル・反共・反ユダヤ」と繋がっており、結局、先鋭化した思想が――たとえ誤ったものだったとしても――歴史を動かすこともあるわけで、やはり一人ひとりが思考の強度を上げていく必要性を感じずにはおれない。

何をかいわんや、である。

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帯文："疑似歴史はどのように作られるのか" "アトランティスから黒いアテナまで"

目次：序章、第1章 アトランティス 疑似歴史の母、第2章 「新大陸」は誰のものか？ 第3章 天地創造説のなかの人種差別と疑似歴史　I 、第4章 天地創造説のなかの人種差別と疑似歴史　II 、第5章 疑似歴史家の共謀、第6章 「黒いアテナ」論争、解説―山形浩生

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アトランティスや超古代科学文明・・・・
世間には様々な¨奇説¨が溢れています。
本書はこの様な疑似歴史を真っ向から取り上げたもので、その真贋のみならず、それらの社会的影響などについても解説しています。
構成は６章からなり、それぞれ

１章：アトランティス 疑似歴史の母

かつては知識人の間だけのアトランティス論争が、教育の普及と大衆文学、特にジュール・ヴェルヌの「海底２万海里」を切っ掛けとして世間に知られるようになった。
科学調査がほとんど行われなかった時代には、アトランティスの実在論はそれなりの根拠があったが、時が流れるにつれ、科学的根拠に基づき実在論の根拠が覆され、それに伴い知識人層はこの実在を否定し始めた。
しかし、大衆は知識人が否定し始めた同時期にその実在を信じ始めた。

２章：「新大陸」は誰のものか

コロンブス以前に旧世界の住民が新大陸にたどり着いていたと言う主張について解説
コロンブスの新大陸発見の分け前にありつけなかった国々が自国に都合のよい疑似歴史（自国の歴史上の人物がかつて新大陸を発見した）を唱え、またその主張はアメリカ先住民を弾圧する口実としても利用された。
また現在では、アメリカ先住民も自分達の利益を主張する為、疑似歴史を主張し、政治的影響力を発揮。
その結果、科学的調査の妨げともなっている。


３章：天地創造説のなかの人種差別と疑似歴史 １

聖書を文字通りに受けとらえる白人人種差別主義者、クリスチャン・アイデンティティーの主張について、その主張の変遷なども含めて解説
彼らの主張によれば、イギリス人、そして北米在住の白人である自分達は旧約聖書に出てくる失われたイスラエルの１０部族の末裔であり、それ以外の人間すべては悪魔と密接な関係のある存在との事。
そしてこの主張に基づき、己の人種差別を正当化。
またそればかりではなく、現在のユダヤ人も旧約聖書にあるユダヤ人の末裔ではないとし、ユダヤ人差別をも正当化


４章：天地創造説のなかの人種差別と疑似歴史 ２

白人に迫害されてきた北米の黒人の中から発生したネーション・オブ・イスラムについて、その成立過程を含めて解説。
彼らが主張する疑似歴史によれば、すべての有色人種を広義の黒人とし、元々は彼らが世界を率いていたが、その中のマッドサイエンティストが人種改良実験により劣等人種である白人を産み出し、その過ちにより現在、黒人たちは苦難の時を過ごしているとの事。
またネーション・オブ・イスラムNo2に登りつめながらも、その主張の欺瞞を見抜き、後に脱退したマルコムXについて解説。
これら以外に、第２次世界大戦前にはネーション・オブ・イスラムが日本と接近し、この動きがアメリカ政府の警戒心を引き起こしていたことも紹介。


５章：疑似歴史家の共謀

火星や金星の接近によって聖書に記載されている天変地異が引き起こされた主張する、つまり聖書を文字通りに解釈する書籍「衝突する宇宙」を執筆したイマニエル・ヴェリコフスキーに始まる疑似歴史の変遷の経緯について解説。

この書籍に対する学者の乱暴な反論がかえってヴェリコフスキーに有利な状況を作り上げた様や彼以降の疑似歴史家、例えばヨーロッパの探検家が南極大陸に到達する前に書かれた「ピリ・レイスの地図」が氷におおわれる前の南極大陸の地形を正確に描いていると主張したチャールズ・H・ハプグッドなどを取り上げている。

「衝突する宇宙」においてヴェリコフスキーは自説に合わせて歴史的事実が起きた時代を５００年前後シフトさせていたが、放射性炭素年代測定法により歴史的事実が起きた年代が正確に測定され、彼の主張の根拠が覆った経緯や資料としてきた古代資料の解釈に誤りを指摘されて、それに対する反論ができなかった事などを解説。

また「ピリ・レイスの地図」に対しては、現在の地図と比較してその正確さを主張している事について、全長約１４５０キロのパーマーランドが載っていない等を始めとする”正確さ”についての反論や、そもそも南極大陸の氷が溶けると海面上昇により（南極大陸に限らず）その海岸線は大幅に変わると言った指摘がなされている。

６章：「黒いアテナ」論争

現在考えられている古代史は人類の歴史はヨーロッパを中心に発展してきたと見なすヨーロッパ中心主義の影響を受けたものとし、その人種差別を激しく糾弾した元コーネル大学教授マーティン・バナールと彼の著作「黒いアテナ」が引き起こした激しい論争について解説。

バナールの主張はヨーロッパ文明のルーツはアフリカ起源とするアフリカ中心主義者に歓迎されている事や、またその具体的内容の無さ、そしてそれによって如何様にでも言い逃れできる様子、自説を裏付ける証拠が存在しないことを意に介さないバナールの様子に苛立ちを感じている学者の姿などが紹介されている。


となっています。


疑似歴史は単なるフィクション的に楽しむ分には害がないのですが、本書には、現実には様々な勢力が自らの利益を主張するために疑似歴史を活用し、それによって迫害を受けた人々が発生した事が紹介されています。
また優勢な勢力による弱者への迫害のみならず、弱者が自らのアイデンティティーを確立するため、疑似歴史を産み出した経緯も解説されており、「捏造された歴史」の社会に与える影響力の強さが示されていました。

結局、疑似歴史が世間に受け入れられるのは、それが面白かったり、自らの利益確保に都合がよかったり、あるいは傷ついた心を癒すからと言うことになるのでしょう。
しかし、本書を読んでいて、少なくとも上３つの内「面白さ」については、疑似歴史の詳説や反論を通してこれらの言わば”解体ショー”を行っている本書の方により面白さを感じました。

深刻な内容も記載されている本書ではありますが、同時に知的好奇心も満たしてくれる本となっていますので、興味をお感じになられれば一読されてみては如何でしょうか。

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ロナルド・Ｈ・フリッツェ『捏造される歴史』原書房、読了。「アトランティス大陸」から「天地創造説のなかの人種差別」まで－－。本書はアメリカにおける疑似歴史、疑似科学隆盛の歴史と現在、そしてその受容心象を明らかにする一冊。http://www.harashobo.co.jp/new/shinkan.cgi?mode=2&isbn=04764-2


ロナルド・Ｈ・フリッツェ『捏造される歴史』原書房。荒唐無稽と退け、信者を相対化させることも簡単だが、問題は、それが政治的に利用され人種差別や狂信の道具となったり、極端な相対主義が蔓延し、真摯な学問的探究が無視されてしまうこと。本書の報告は日本にも当てはまる。易きへの阿りを排したい

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歴史学者の本がこうやってつまらないから擬似歴史がうまれるのでは、の見本のような本です

権威ある学者はみんな否定している、とか、複雑だ、とかいって擬似歴史とされるようなものを延々とあげていくだけ

それのどこがどうダメなのか、とかの大事なところが足りない

定式化する勇気のないものが歴史で、勇敢に自説を定式化できる勇気があるものが擬似歴史なのでは、という気もしてくる

けども、ポストモダンは受け入れない
どうやら歴史があると信じてるような記述もある

むしろ、擬似科学は擬似科学として楽しむくらいの余裕があってよいのでは
魔術や錬金術がなければ、ガリレオはうまれなかった

アリストテレスの提唱した説は、その方法論含めてほとんどすべて否定されてるけども、その克服を通して近代科学が芽生えた

ジョルダーノ ・ブルーノが16世紀にいった、中心がなく無限に続き、であれば宇宙人もいるであろうという宇宙像は、極めて今日的な宇宙に近いのに、火あぶりになった

人は科学的方法論のみによって考えるにあらず。
いつ古くなるかわからない方法論を人よりも上位概念におくと、生きることが退屈になるよね

序章が一番面白かった