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- カテゴリ:一般
- 発売日:2012/06/01
- 出版社: 東京創元社
- サイズ:19cm/343p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-488-01343-1
紙の本
湿地
著者 アーナルデュル・インドリダソン (著),柳沢 由実子 (訳)
雨交じりの風が吹く、十月のレイキャヴィク。北の湿地にあるアパートで、老人の死体が発見された。被害者によって招き入れられた何者かが、突発的に殺害し、そのまま逃走したものと思...
湿地
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商品説明
雨交じりの風が吹く、十月のレイキャヴィク。北の湿地にあるアパートで、老人の死体が発見された。被害者によって招き入れられた何者かが、突発的に殺害し、そのまま逃走したものと思われた。ずさんで不器用、典型的なアイスランドの殺人。だが、現場に残された三つの単語からなるメッセージが事件の様相を変えた。計画的な殺人なのか?しだいに明らかになる被害者の老人の隠された過去。レイキャヴィク警察犯罪捜査官エーレンデュルがたどり着いた衝撃の犯人、そして肺腑をえぐる真相とは。世界40ヵ国で紹介され、シリーズ全体で700万部突破。ガラスの鍵賞を2年連続受賞、CWAゴールドダガー賞を受賞した、いま世界のミステリ読者が最も注目する北欧の巨人、ついに日本上陸。【「BOOK」データベースの商品解説】
【ガラスの鍵賞(2002年)】10月のレイキャヴィク。北の湿地にあるアパートで、老人の死体が発見された。突発的な殺人か。だが、現場に遺された謎のメッセージが事件の様相を変えた。犯罪捜査官エーレンデュルが辿り着いた衝撃の犯人、そして真相とは?【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
アーナルデュル・インドリダソン
- 略歴
- 〈アーナルデュル・インドリダソン〉1961年アイスランド生まれ。父親は作家インドリディ・G・トーステンソン。アイスランド大学で歴史学と映画を専攻。新聞社を経て映画評論家に。ガラスの鍵賞、CWAゴールドダガー賞受賞。
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紙の本
読みやすい文体の奥に、深い広がりが感じられる。犯罪捜査官の生活と仕事を通し、アイスランドの地理的条件、歴史、結婚と葬式、社会の病理、科学技術の受容等が書かれた警察ミステリ。
2012/10/22 14:31
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
帯の文句に堂場瞬一氏が「警察小説」、大森望氏が「警察ミステリ」という言葉を使っている。
そういや、犯罪捜査の立場で書かれていたと思い、ふっと「函館水上警察」が浮かんだ。と言っても、読んだのは『墓標なき墓場』だけ。だが、「ああ、インドリダソンと高城高の世界は似ている」と、何やら陶然とした。
寒さ厳しい北の荒涼の中、叩き上げの犯罪捜査官が身を粉にし動き回る。はじめは、どこかであったような事件にしか思えないものが、小さな糸口からこつこつ調べ上げられていく。捜査官独特の勘がよりどころ。忘れてならないのは、その勘が生得のものではなく、不断の姿勢で積み上げてきた能力のたまものだということ。
糸口はやがて手ごたえ強いロープのごとく彼らをみちびく。辿り着けた事実の前に、それが大がかりな組織的たくらみの一角に過ぎないことを知らしめす。後ろ盾のない一捜査官だが、一つの解決で区切りをつけず、巨大なものへ臆せず挑んでいく。
『湿地』の読後、「あばく」という動詞が頭にひびいた。「あばく」には、ピラミッドのような墓をあばく場合と、正体や陰謀をあばく場合がある。前者は目に見えるブツで、後者は目では見えない。読み終えれば、この語が本書を象徴するのにふさわしいものだと分かっていただけよう。
『湿地』も高城高作品も、現場の人間がこつこつ働き、手を抜かず、注目すべきものを見過ごさないから成果がもたらされる。すなわち、真相があばかれる。
おそらく読み手が警察小説に魅了されるのは、内外の作品を問わず、このポイントだ。地道に積み上げた捜査が、犯罪の真実を「あばく」。それも大がかりな犯罪の首ねっこを押さえ、不当な利益を得ていた権威を失墜させる。『湿地』は、しかしそのパターンには収めきれない真相に到達する。
いたし方ないと納得すらできてしまう犯罪をどう受け止めれば良いのか。「殺人」の加害者と被害者の罪の重さが反転して書かれ、人の内面の複雑さに心を千々に乱しながら、読み手たる自分の内面の複雑さにも気づかされる。
レイキャヴィクにあるアパートで老齢の男性が殺されている。意味をなさないメッセージが残されている点が変わってはいたが、現場の痕跡を隠そうともせず、部屋の扉も開けっ放しにされていた不器用な殺人。
被害者はなぜ殺されたのか、被害者がどういう人物だったのかを探ろうとすると、殺人のあったアパートから、人目に触れないよう、ひっそりと隠された古い写真が出てくる。人物ではなく、ある場所を写したものだ。
そして、被害者が過去に、ある罪を犯したかもしれないという可能性が浮かび上がってくる。
読みやすく、手に取れば「どうなるか、これから先、どうなるか」と一気に進んでいく読書だが、プロットが分かっていくだけの消費じみた時間にならないのは、読みやすい文体の奥に、深い広がりが感じられるからだ。
犯罪捜査に並行し、捜査官の私生活が描かれる。彼自身が抱える問題、子どもの問題などが、アイスランド社会全体が倦む問題の一例として挙げられる。主人公の生活と仕事を通し、アイスランドの地理的条件、歴史、結婚と葬式、社会の病理、科学技術の受容等が表される。
本来、からりと乾いているべき場所が湿り気を帯び、不快な害虫や地盤沈下などの問題の原因となってしまう。そういう土地は、人の暮らしに影を落とすに違いない。
揺るぎない大地で悠々と暮らす人びとに憧れながら、置かれた場所の不安定さに、気と生活を蝕まれ、吐息つく人の哀しみを、インドリダソンはミステリ・ジャンルの中で、こつこつ地道に表しているのだろう。彼の作品をまた読みたい。
紙の本
アイスランドの成り立ちに隠された事件の深層
2012/09/06 11:22
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
北欧ミステリーがブームだという。このところスティーグ・ラーソン 『ミレニアム』、ヨハン・テオリン『黄昏に眠る秋』とスウェーデンのミステリーを楽しませてもらったが、今回はアイスランドである。2~3年前に火山が噴火して国際航空線が大混乱したのはたしかあの島だった。「国」というよりも、火山と氷河、寒々とした不毛の「島」というイメージである。
2001年、雨が降り続く暗い町。首都レイキャヴィクのノルデュルミリ(北部の湿地を埋め立てた住宅街)。物語の人間関係を象徴するかのようにジメジメとして陰鬱な情景描写は印象的だ。そこにある半地下室のアパートで69歳の老人の撲殺死体が発見される。犯人が残したと思われるメモには意味不明の単語。行きずりの犯行とみられたが、引き出しの奥から、1964-1968と刻まれた墓石の写真が発見されたことから、事件は40年前にさかのぼる。
レイプ、家庭内の倒錯した性、暴力、薬物中毒、親子の愛憎。事件の周囲はどの国でも変わらないものだ。
「俺についてこい」と勘と経験で突っ走るベテラン捜査官。合理的な判断で冷静、ちょっと生意気な若手。豊かな感受性で二人のバランスをとる女性捜査官。こういう組み合わせで、角を突き合わせ、試行錯誤の地道な捜査活動の結果に真実にたどり着くというのも最近の警察小説にはよくある。
物語の横軸にベテラン捜査官・エーレンデュルの家庭内事情が描かれる。薬物中毒で暴力団から借金し、しかも妊娠中である娘と壮絶な対立がある。日本であればこれでは警察官として社会的地位はないと思うが、それは程度の差であって、警察官のホームドラマを織り込んでストーリーに膨らみをもたせているパターンである。
同情を誘う犯行動機の悲劇性だってテレビ放映のミステリードラマでは定番になっている。
読者はレイキャヴィクの特異な雰囲気に飲み込まれるだろうし、ほぼ納得性のある謎の構築であり、ストーリー展開も丁寧さとスピードのバランスは良い。ただし、これだけであれば万国共通の平板な作品にとどまるところだ。
知らない国の小説は、読んでそのお国柄を垣間見ることができれば、ストーリーそのものよりものめり込めることがある。実はこの作品の肝心なところはアイスランド国の成立ちそのものにあるのだ。「なるほどそういうことなの」と得心できる謎の核心がある。だから、アイスランド国の成立ちの特性とはなにか?をここで述べることはしない。
巻末に柳沢由実子氏の「訳者あとがき」と川出正樹氏の書評「灰色の物語― 節義と血讐を描くアイスランド生まれの警察小説」の二つの解説があるが、本編を読み終えるまで絶対に読んではならないとだけは言っておこう。わたしは途中でうっかり読んでしまったので、それ以降、謎解きの興味は半減してしまった。
ミステリー用には過剰な説明であり、あまり出くわしたことのない特殊ケースだった。ただ、この解説がなかったなら、小説本文だけでは読み取れない。欧米人はある程度、常識なのかもしれないが………。おそらく作品の魅力は理解できず、平板な印象のままで終わっただろう。お国柄を知りたいと思っていたものだから、謎の部分にとどまらずにアイスランドの諸般事情におよんだこの解説はそのものに価値があった。
先に読まれるとネタバレになるリスクがあるとしても、全く知識のない国の作品にはこういう特別な配慮が必要なのだろう。
蛇足だが、犯人のこの状況は殺人を実行する強い動機を生むものなのだろうか?殺人犯にメモ書きを残させたものは?………日本人の感覚からすると疑問が残るのだが、これもアイスランドの国柄なのか。