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紙の本
心理学で何がわかるか (ちくま新書)
著者 村上 宣寛 (著)
「自由意志は存在するか」などの質問に意味のある答えを出すには科学としてのアプローチが必要。インチキ、俗説、疑似科学を退けて本物の心理学のあり方を提示しつつ、今、心理学がど...
心理学で何がわかるか (ちくま新書)
心理学で何がわかるか
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商品説明
「自由意志は存在するか」などの質問に意味のある答えを出すには科学としてのアプローチが必要。インチキ、俗説、疑似科学を退けて本物の心理学のあり方を提示しつつ、今、心理学がどこまで到達しているかを平易に紹介する。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
村上 宣寛
- 略歴
- 〈村上宣寛〉京都大学大学院修士課程修了。富山大学人間発達科学部教授。認知心理学の研究、統計分析などに従事。著書に「心理テストはウソでした」「心理尺度のつくり方」など。
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紙の本
心理学では何がわからないのか
2010/10/18 23:39
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
一見、入門書のようなタイトルをもつが、やさしい入門書というわけではない。心理学が科学としてどのような方法論をもち、実際にどのような方法で研究がなされているかを概観した書である。そして、遺伝と性格、知能、意識、記憶、対人関係、臨床心理といった心理学の個別研究テーマごとに、具体的にどのような知見が積み重ねられているか、ということが解説されている。こうした書にありがちな、「**の説によれば**である」という引用だらけに陥らず、個々の実験にまでさかのぼって説き起こしている点には好感がもてる。
たとえば、「ホーソン効果」とは、ある実験をもとに見出された定説とされ、とりわけ経営学等では大きな影響を与えてきた。しかし、近年の再検証や調査結果の再検討では、その効果が疑われているという。科学的な議論や検証というものは、定説も常に対象になるものであることを改めて気がつかせてくれる。
本書は、入門書というわけでも、概論書というわけでもない。かといって専門学術書というわけでもない、考えてみれば不思議な立ち位置にある。あえていえば、科学としての心理学の視点からの評論書といえるだろう。読者対象としては、これから心理学に進学しようとする人や、漠然とながら関心があるといった人よりも、「進学してしまった」人が、「私がやっていることは何なのか」を把握するのにふさわしい本かもしれない。
フロイトやユングに影響をされて心理学科に進学した学生が、実際には統計などをガンガン学ぶ必要があってショックを受ける、という小咄は大学内ではよく知られている。その一方で、数多く出されている心理学を冠する書籍の中には、本書の帯でも指摘されているように、「疑似科学」すれすれのもの(いや真っ黒かもしれない)も多い。読者の受け止め方も、「科学」を求めているというより、「占い」に近い扱いになっているかもしれない。
本書は個々の疑似科学を批判しているわけではない。むしろ、(過去の)心理学の知見が、絶対的なものとしてみなされたり、拡大解釈されることによる「誤解」を是正しようとするものといったほうがよいだろう。すなわち、心理学者自身による自己批判・自己点検の書なのである。現在までの心理学ブームを牽引してきた臨床心理学や質的心理学にも批判的である(日本の臨床心理学の現状には特に手厳しい)。
ところで本書のような科学的心理学の姿勢は、自己限定的に見えるので、心理学に「漠然と関心をもっている」人には、物足りない面があるだろう。科学とは何でもできるわけではないから当たり前ではある。一方で、科学としての心理学の難しさは、「心」という研究対象を独占しているわけではないことである。哲学・宗教から脳科学まで、心を扱うアプローチは種々雑多だ。こうした状況の中で「これがわかった」「あれがわかった」式の論文生産そのものが、心理学への誤解と幻想をかえって広げてしまうのではないか。むしろこれからは、「心理学に何ができないか」を明示する作業も必要になってくるのではないだろうか。
紙の本
集団への同調性、または心理学でわかることから導きだされるもの
2009/12/05 12:08
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:風紋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
心理学で何がわかるか。
たとえば、集団の圧力に屈すると、行動にどのような歪みが生じるかがわかる。
1951年、米国のアッシュは、集団における同調性の実験をおこなった(本書pp.211-213)。
7~9人の被験者グループに、2枚のカードを示す。カードAには一本の線が描かれ、カードBには長さの異なる3本の線1、2、3が描かれている。そして、被験者にBの3本のうち、Aと同じ長さの線は1から3のうちどれですか、といった質問をする。
あるグループにおいて、1回目の試行では全員が同じ回答だった。2回目も全員同じ回答だった。3回目、波乱がおきた。6人の回答に、一人が異議をとなえたのである。彼は不信感に満ち、驚愕していた。続く試行も3回目と同じく一人を除いて7人が全員同じ回答をしたが、その一人はだんだん狼狽え、あまり異議をとなえなくなり、最後には当惑の笑みを浮かべて他の者と同じ回答をおこなった。
他のグループにおいても、同様な結果がみられた。
じつは、当惑した人だけが本当の被験者で、他の者はサクラ(実験協力者)なのであった。
要するに、被験者は、サクラの集団的圧力に屈し、同調してしまったのである。
グループの中にサクラがいないとき、誤答は1%未満だが、サクラが7名いると、誤答は36.8%にのぼった。
ちなみに、サクラが1名だと同調性はおこならないが、サクラが2名だと誤答は13.6%、サクラが3名だと31.8%にものぼった。
ただし、サクラが4名以上になっても誤答は増加しなかった。つまり、集団の圧力がもっとも高まるには、サクラが3名いれば十分なのである。
パートナーの影響はどうか。
サクラをパートナーに、そのパートナーは第6回目の試行までは正しい回答を行うようにしたところ、被験者は、多数のサクラが誤答した場合にも、27人中18人の被験者は、多数に抗して、パートナーとともに正しく回答した。しかし、7回目以降、サクラのパートナーが裏切って、他のサクラと同じく誤答をすると、被験者の誤答も急速に増えた。
・・・・内容の紹介が詳しくなりすぎた。
冒頭の設問、心理学で何がわかるか、にたち戻ると、アッシュの実験からは、大衆心理の基礎構造がわかる。
ここから、誤った意見をもつ多数の中で、正しい少数意見を貫くのがいかに難しいか、ということもわかる。
わかったことから、何か事をおこなうにはまず一人の同志を見つけるにしくはない、といった議論を展開することができる。
なお、集団の圧力は、ふつうの人をして、個人ではおこなわないような非人間的行動に駆りたてることもある。それを検証したのが、いわゆるアイヒマン実験である。この実験のさわりは、本書をご覧いただきたい。詳しくは、本書のあげる参考文献を参照していただきたい。
本書全体の特徴を整理して、しめくくろう。
第一、全体として辛口の語りぶりで、新書だからといって気がぬけない。もっとも、どのページにも軽いユーモアが感じられるから、読みやすい。
第二、タイトルは入門書だが、事例が豊富であり、参考文献は最新の文献をふくめて紹介しているから、初級者のみならず中級者も読むに値する。
第三、事例は検証可能な実験が中心であり、かつ、検証可能な実験に即して議論をすすめている。
第四、実験の推計学的厳密さを重視し、推計学的厳密さに耐えない実験についてはその結論の受け入れを保留している。