紙の本
進化型“伊吹有喜”デビュー!
2017/12/13 22:40
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投稿者:タンポポ旦那 - この投稿者のレビュー一覧を見る
新たな分野に挑んだ力作。ファンにとっては、お馴染みの人物造詣の“面影”を残しつつ、終戦前後を中心に、出版業界と当時の女性の生き方に焦点を当て、今までの作品と異なる魅力を醸し出していると思う。
参考文献の多さと種類からも、綿密な取材と構成への拘りを感じる気がする。朝ドラから広く知られるようになった「暮らしの手帖」の物語に似て思えるかもしれないが、少女雑誌のそれは、理念も理想も違い、しかも経済主体の出版社における、その位置付けとは、想像すらしたことのない新鮮な世界であり、読書体験だった。
「少女の友」や中原淳一は知っていても、親しんだことは無かっただけに、一冊の本としても興味深く、そして最後まで面白く読ませてもらった。タイトルもテーマを良く表現している、ここはファンに馴染みの“らしい”好タイトルと思う。
ただ、「ジェイド」が出て来た処で、北村薫の「街の灯」を彷彿とさせられただけに、その後のジェイドの所在はどうなった? 有賀主筆は何をさせられていた?…等々というのが、心残りというか、強いて言えば残念なところではある。
紙の本
朝ドラを見ているようでした
2020/09/29 14:23
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投稿者:なのはな - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦時下の女編集者を描いた感動長編。主人公の女性を初めとして、周りの人物も生き生きと描かれ、まるで朝ドラを見ているようなスリリングでコミカルで感動的な物語でした。戦争のシーンもあったりで、哀しく悲惨な場面もありますが、全編に暖かさと希望があふれる素晴らしい作品です。物書きなら是非読んで欲しい小説。
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ぜひ朝ドラにしませんか
2018/05/19 09:17
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第158回直木賞候補作。
老人施設に暮らすハツのもとに届いた昭和13年の「乙女の友」の新年号の付録。花の絵と思わせぶりな言葉が綴られたカードの束。
それをきっかけにして主人公佐藤ハツの昭和12年、同じく15年、18年、20年の姿が描かれる長編小説である。
ハツは見習いのようにして就職した雑誌「乙女の友」でこれらの年代をたくましく生きていく。戦前戦中の「お仕事小説」ではあるが、ハツがほのかに心を寄せる雑誌の主筆である有賀や乙女チックな絵で多くの少女を虜にする長谷川画伯などハツをめぐる人間関係も巧みに仕組まれている。
私はとても面白く読んだ。
ところが、直木賞の選評ではほとんど評が集まらなかった。
直木賞の候補になるということは、厳しい批評も受けることがあるということだろうが、それでもこうして選評が聞けるというのは著者にとってはきっとありがたいことだろう。
選評で面白かったのが、東野圭吾委員のもので「完全に朝の連続テレビ小説の世界」とある。同じような評価が宮部みゆき委員で「このまま即NHKの朝ドラになりそうな仕上がり」とある。
それを「お行儀が良すぎた」と宮部みゆきは優しく書いているが、つまりは東野圭吾がいう「既視感」だろう。
しかし、直木賞には至らなかったにしても、朝ドラ仕立てになっていようが、この物語は面白かった。
できれば本気で朝ドラになればいいのに。
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投稿者:hid - この投稿者のレビュー一覧を見る
他の方たちが書かれているように、朝ドラっぽいですねー。
似たようなの、やってなかったでしたっけ?
女性向け雑誌のやつ。
気のせいかな。
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伊吹有喜先生らしい、読後感が清々しいご本でした。
三省堂書店の内田さんだったか「朝の連続テレビ小説で見てみたい」
とおっしゃってたと見た覚えがあるけど、まさにそれ。
直木賞とってほしい。来い!(祈)
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ここにレビューを書こうと思うだけで涙が出る。
間違いなく今年いや近年でも一番良かった作品。
小さい頃「なかよし」「りぼん」の付録や切抜きをきれいなクッキー缶に大事にしまってた。女の子だもの。きれいでかわいいもの大好き。
「友よ、最上のものを」
このことばは一生大切なことばになると思う。
わたしの大切な友にこの本を贈ろう。
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素晴らしかった、とにかく素晴らしくて素晴らしくてしばらくは言葉にならなかったです。
溢れる涙をぬぐいもせず、ひたすら読みました。
読み終わった後、この涙の意味はなんだろう、と考えてました。悲しいとかうれしいとか感動したとか悔しいとか。そういう「ことば」を全て超えた、これは多分、命の涙なんだと、そう思いました。
たとえば、人は本がなくても生きてはいけます。でも、人生に、自分のそばに本があればその人生は何倍も何十倍も豊かになります。言葉を読み、絵を眺めるだけでなく、それを手に取り胸に抱きその世界に浸る時間、その全てが私たちの命の源となるのですね。あぁ、生きるって素晴らしい。
有賀主筆は私の祖父より少し年上で、波津子は祖母より少し年下。つまりこれは私の祖父母が懸命に生き抜いた時代の物語でした。
美しいものにうっとりとする乙女たち。雑誌の小さなイラストを切り抜き丁寧に紙に貼り自分だけのノートを作る。その時間と心の豊かさ。
父親の外套をほどいて娘たちのコートを作る。カーテンをリボンにし、毛布をスカートにする。そういう生活の(今とはちがう)豊かさ。
言葉を丁寧に話すこと。気に入らない上司であってもウイットに富んだニックネームに様をつけて呼ぶ品の良さ。
そんな豊かで美しい時代が、戦争という狂気によって踏みにじられていく。悲しい。悲しくて苦しくて悔しくて。
美しいものを美しいと言えること、好きなものを好きだと言えること、そんな当たり前の幸せを私たちはもう少し大切にしなければならないのでは。
もう二度とこんな哀しい思いをする乙女を生まないために考えなければならないのでは。
有賀主筆の孤高の信念、純司様の優しさと美意識、波津子の泥臭いけれど地に足着いた豊かさ、そんなたくさんの宝を私たちは守っていかねばならぬのですね。
この世に生きる全ての友へ、私も一冊の本を届けて生きたい。元乙女として、いや、今も心に乙女を抱いて生きる一人の書店員として。
あぁ、もどかしい。この想いをどう伝えればいいのか。うまい言葉が浮かびませんワ。
ただ、一言言えるのは、この物語は宝です。この世界の光となり人を導く宝デス。
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愛と知性と感性が、情熱によってカタチになって、時代を越えて受け継がれていく。
本物とは、そういうものなのでしょうね。
映像化して欲しい
ハッちゃんは、松岡茉優さんかなぁ
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1969年生まれ、伊吹有喜さん「彼方(かなた)の友へ」、2017.11発行です。大作です。力作です。感動しました。直木賞ではないかと期待しています。昭和12年から昭和20年までを主たる時代背景にし、「乙女の友」という雑誌の編集に関わる人たちを描いた作品です。佐倉ハツと有賀憲一郎の愛の物語です。
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戦争の足音が忍び寄る中でも懸命に、読み手の「友」の少女達に向けて雑誌を作り続けた人達の物語。
少女雑誌を読んで、その文章に憧れ美しい絵に夢を見る。そんなささやかな自由さえ満足に叶わず、規制されていく世の中。
やるせなさや、どうにもならない歯痒さを感じながらも物語の中に終始流れるのは人々の希望と、願い、そして祈り。
思いが届きますように。
どうか無事で帰ってきますように。
どこかでその雑誌を心から待っている人達に。
戦地へ赴く大切な人達に。
どうかどうか届きますように。
読んでいてそんな切実な思いが伝わってきて、何度も涙が出そうになった。
「ディア波津子、シンシアリテイ、ユアズ」の有賀の言葉には、やられた。
胸がいっぱいになる。最後の最後にそれはずるいよ。
波津子の秘めた思いは、確かに彼に届いてたんだ。
出来れば再会して、電話口で言った「ずっと伝えられずにいたこと」のその先を聞きたかったけど。
でもそう思ってしまうのは野暮なんだろうな。
最短の恋文。これ以上に彼の思いを伝える言葉は、きっと存在しないから。
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「友よ、最上のものを」
戦中の東京、雑誌づくりに夢と情熱を抱いて――
平成の老人施設でひとりまどろむ佐倉波津子に、赤いリボンで結ばれた小さな箱が手渡された。
「乙女の友・昭和十三年 新年号附録 長谷川純司 作」。
そう印刷された可憐な箱は、70余年の歳月をかけて届けられたものだった――
戦前、戦中、戦後という激動の時代に、情熱を胸に生きる波津子とそのまわりの人々を、あたたかく、生き生きとした筆致で描く、著者の圧倒的飛躍作。
実業之日本社創業120周年記念作品
本作は、竹久夢二や中原淳一が活躍した少女雑誌「少女の友」(実業之日本社刊)の存在に、著者が心を動かされたことから生まれました。
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現在の佐倉波津子は高齢者施設で夢と現を行き来するような日々を送っている。傍からは、何も考えていないように見えるかもしれないが、頭の中には、来し方のあれこれが渦巻いていて忙しい。そんな波津子が駆け抜けてきた人生が彼女の目線で繰り広げられている。時折現在の様子に立ち戻るとき、そのギャップは人の老いというものを思い知らされるが、頭の中は存外誰でも活き活きしているのかもしれないとも思わされて、勇気づけられもする。そんな波津子の元へ、あのころの思い出の品とともに、関わって来た人たちとゆかりのある若い人たちが訪れ、話を聴きたいと言いう。積年の想いも報われ、波津子と「乙女の友」に関わった人たちの生き様が語り継がれることになるのである。ラスト三分の一は、ことに、涙が止めどなく、あふれるままに読み進んだ。外で読むには向かないが、中味がぎっしり詰まった読み応えのある一冊である。
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これまでの伊吹有喜さんの著作もとても好きですが、それらとは一線を画す現時点での代表作だと思います。著者のご経験が、またとない題材に巡り合い、最高の形で昇華し、この物語に結実したのでしょう。映像や音が浮かぶよう、 軽やかなのに力強い! ワクワクと読み進みました♪ 伊吹ファンにはぜひ! 少女雑誌ファン、少女漫画ファンだった方にもぜひぜひ!
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時代に翻弄されながらも「友へ、最上のものを」届けようとする雑誌編集者。主筆がかっこいい。熱い思いに、胸の中がふつふつとしてくる。読み終えてすぐ、人に興奮を伝えたくなる。
一方的な憧れから、二人の思いが重なっていくのが追えなかった。あと、書籍の天面(?)の裁断が不揃いなのは仕様ですか?
2021/08/05 ↑天アンカットを知らない馬鹿な私でした。
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昭和初期の少女向け雑誌の編集者たちの物語。
戦局が進むに連れ、散り散りになるメンバーと衰退していく紙面。
編集者たちの情熱と、70年かけて明らかになる真実。
直木賞候補作ですが、個人的には受賞作よりこちらのほうが面白かった。
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個人的に、現時点で今年読んだ本のベスト。
明治の終わりから昭和30年にかけて刊行された月刊誌「少女の友」をモチーフに、戦前~戦後の混乱期に「乙女の友」の編集者が出版にかけた情熱を描く。
「友よ、最上のものを」という標語は、そのまま編集に携わった者の姿勢であり、困難な時代を生き抜くよりどころだった。
こんな雑誌が70年以上も前の我が国にあったことを奇跡といわずしてなんと言えば良いのか。
本書の出版が「少女の友」の出版元である実業之日本社であり、本書がその創業120周年記念作品であることは、本書をさらに味わい深くしている。