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商品説明
幕末騒乱のとき卓越した見識を持って、明けの明星のごとくこの国の進むべき道を照らした先覚者の波瀾万丈の生涯。混沌たる現代日本の指針を見出すべく著者が書き下ろした、ドキュメンタリー歴史小説。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
童門 冬二
- 略歴
- 〈童門冬二〉1927年東京生まれ。東京都庁勤務を経て、作家活動に入る。著書に「異聞・新撰組」「柳生宗矩の人生訓」「妖怪といわれた男鳥居耀蔵」など。
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紙の本
信州人以外も必読
2004/04/29 21:21
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:良書普及人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
佐久間象山先生は信濃の国の生んだ英傑として、県民の歌の信濃の国にも名前が登場するほどの方だ。しかし、多くの県人にとって子供の頃から名前だけは知っているものの、実際にどのようなことで偉人なのかが今ひとつはっきりとしないうらみがある。ずいぶんと頭のいい人だったとか、西洋の新たらしいことを大いに取り入れたとか、その程度の認識である。
童門冬二氏の手によるこの本は、佐久間象山という人が、その生涯でどういう人物にであってどういう影響を受けたのかという観点からその人物像を明らかにしようとしている。
真田幸貫という松平定信の息子で外様の真田藩に婿入りし藩主となった殿様との関係が何といっても注目される。父親の影響を受けた幸貫公は藩の頭脳である佐久間象山を愛し庇護した。江戸への藩費遊学を許し、象山の潜在能力を大いに高からしめた。どの時代でも頭脳は一所に集まる傾向がある。集まった頭脳はお互いに影響しあう。ことの本質を見抜く象山の明晰さは、全国の英傑のよく認めるところとなり、名声は幕府、朝廷まで届く。一方で、財政難の藩の重臣には、象山は藩主の寵愛を良いことに好き放題をする身勝手な人物に映り、眉をひそめ、反発を強める。その確執がコントラストをつけ描かれている。
外国文献を翻訳により読むことで良しとせず、自らオランダ語を習得し、原典に当たってこれを紐解く。その探求心は尋常の者のなせる技ではない。
象山の周りには、一流のものが集まり、象山も一流のもの以外は相手にしないという生き方であった。それが孤高狷介、特立して流されざる生き方にも繋がり、周囲から誤解を受けることも甚だしかった。
正しいと思ったことは相手の身分の高さに関係なく建議し、後々その正しさが証明されるに至り益々知識人からの評価を受けるということにもなった。西欧列強が必ず日本の開国を迫るので海防を整え、これに備えよとの早くからの主張は、後にその正しさが証明された。幕府はペリー来航以降あわてて海防策をとるに至る。一方で、傲岸不遜の佐久間が言っていることであればけしからんと感情的に反発する向きもあった。
最後は、天皇の彦根動座を企図したことが尊王攘夷派の逆鱗に触れ、京都で暗殺された。併せて佐久間家は真田藩内の反発も強く、家は断絶された。英傑の末路としては悲劇であった。
明治期まで佐久間が生き抜いていたらその後の歴史はどう変わったか。恐らく、国防の責任者か高等教育の責任者かいずれかになっていた可能性があるのではないか。常人の及ばぬ能力の持ち主であった。ただしその麾下の組織は大いに混乱した可能性がある。佐久間の繰り出すアイデアの連発は、それを支える財政の基盤を食い尽くすものになった可能性がある。
現代に置き換えたら、佐久間象山は誰か。宇沢弘文先生などは、それに近いかもしれない。しかし、象山は尊皇国防強化派で左翼ではない。孤高狷介という観点では、同じ長野で泰阜村に住所を移す移さないでもめている田中康夫に似ているかもしれない。しかし、知的能力の点で大きく異なるし、田中康夫氏が大衆受けを狙った大小取り混ぜた奇抜な自己PR策を駆使し、有識者層の眉をひそめさせているのに対して、佐久間象山は、俗物層の大衆人気はないものの一流の有識者の評価は非常に高い。
佐久間象山先生が現代の日本を見たら何を思うか。今の日本人の矜持のなさ、主体性のなさ、ペリー来航以来続く対米従属路線を何というか。昔と同じで、事なかれ主義で、自分でものを考えられる日本人が増えていない、とおっしゃるのではないか。更に言えば、100年かけてせっかく高めてきた日本の教育が崩壊の危機にあることに憤慨されることは間違いあるまい。そして、日本の知識階層に強い奮起を促すことも間違いあるまい。日本のリーダー達は、今国家国民のために何が必要か、日本再生10策を建議せよ、と。