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商品説明
誰も、気づかぬうちに、女は心に変調をきたす。幸せに見捨てられた女。偽りの幸せにすがる女…。緩慢な日常の流れの中に身をまかせる女たちが、決意する一瞬を描く。円熟味あふれる9つの物語。『週刊小説』等掲載を単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
友と豆腐とベーゼンドルファー | 5-28 | |
---|---|---|
パラサイト | 29-60 | |
手帳 | 61-102 |
著者紹介
篠田 節子
- 略歴
- 〈篠田節子〉東京生まれ。東京学芸大学卒業。「絹の変容」で小説すばる新人賞、「ゴサインタン」で山本周五郎賞、「女たちのジハード」で直木賞を受賞。著書に「静かな黄昏の国」など。
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紙の本
私が長い間捜し求めていた作品が収められているのが、この本。こんな所で北村大膳である、今まで本になってなかったんだ、それって凄くない?(若い人風に)
2003/11/08 21:09
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
篠田節子の短編で、未だに忘れることが出来ないものがある。読んだのは数年前。カッパ・ノベルスの『最新「珠玉推理」大全(下)』に出ていた「野犬狩り」である。いい加減な読者だから、内容は殆ど覚えていないけれど、ただ、中年の女性が自分の体を鍛え、夜の渋谷を疾駆する、そんなイメージだけが記憶に残っていた。でも、篠田ファンがあまり騒いだ記憶がない。
でも私は、その女性の凛とした、汗が匂いとならず、どちらかと言うと月の雫(飲み屋じゃあないよ)と化す怜悧な表現、そしてそこに込められた怒りに共感を覚え、黒武洋『そして粛清の扉を』の、落ちこぼれ生徒の吹き溜まりの高校に完全武装で立て篭もる近藤亜矢子や、篠田自身の『コンタクトゾーン』に出てくる外務省に勤める公務員でキャリアウーマン内山真央子の姿を読むたびに、タイトルこそ曖昧だった「野犬狩り」を想起した。この本は、その幻の作品を含む、篠田の傑作短編集である。
夫が妻にも知らせず自ら会社を辞職。日々の暮らしに追われる、自宅でピアノを教える妻有子の心「友と豆腐とベーゼンドルファー」。裕福な家庭に生まれ、気が向いたときにOLをし、それ以外は作家の真似という友人奈美と、専業作家の祥子の奇妙な友情「パラサイト」。夫にも子供にも愛人にも仕事にも恵まれた美香の、成功の秘訣は気持ちの切り替え。そんな彼女の記憶が「手帳」。スタートは似ていたけれど、今は歯科医の妻となって裕福に暮らす香、片やおばさんと呼ばれ、職場では疎まれる離婚暦のある秀子。そんな二人の家は「天窓のある家」。
29歳になった女性を襲う急激な老化。日本を滅ぼしかねない病気の蔓延に男たちの思いは様々だが、はたして、その原因は「世紀頭の病」。仕事に生きる高岡直子は会社創立以来最年少の課長。そんな彼女を激しい腹痛が襲い掛かる「誕生」。会社を退職して気ままに過ごす夫は家庭を顧みようとしない。60を過ぎた澄香が長男に励まされて夫に言い出したのは「果実」。寛子と同じような道を歩む小山田レイ。30半ばを過ぎた彼女から漂う妖しい魅力は「野犬狩り」。勝則が遅く帰る夜は、決まって水曜日。その日に決まって定時に帰る会社の女性。妻の脳裏にひらめく「密会」。
どの作品も面白い。特に巻頭の「友と豆腐とベーゼンドルファー」のラストには、思わず快哉の声を上げた。しかし、私にとってのメモリアルは、やっぱりこの一作、「野犬狩り」だ。最初に読んだ時の、こんな凄い作家が居るのか思った衝撃を思い出す。ともかく、ここに登場する女性が本当に格好いいのだ。しかし、こんなにも性的なイメージが溢れていたとは。読み返しながら、今度は、古川日出男『サウンドトラック』のカナを思い出した。『推理大全』に掲載されたせいで、推理ファンではない純粋な篠田の読者は見落としていたかもしれない。そんな人にはお薦め、この一作を読むだけでも価値がある本だ。
ついでに書いておくと、作品は古いもので1994年のもの、最新で2002年発表が収められているが、殆どが1990年後半の短編である。どうして、今まで本にならなかったのか、不思議になるくらい面白い。篠田特有の男性観もだが、「世紀頭の病」のSF風なところ、「誕生」のホラー、「密会」の切ないような想いなど、内容も多岐にわたる。お買い得である。
装幀は多田和博、写真はorion pressのもの。多田といえば、なんと先日、谷甲州『紫苑の絆 上下』のところでそのデザイン感覚を褒めたばかり。特に、小杉小二郎の静物画を思わせる色合いの小粋な写真を、斜めに置いてカバーを引き締めるセンスなんざあ、流石だね、といいたくなる。鈴木成一デザイン室、新潮社装幀室の強力なライバル現るとでもいったところだろうか。
紙の本
篠田さんの作品って人間の奥底に潜む真の姿を的確に読者に提供してくれる。
2004/04/24 23:47
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トラキチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
いろんな雑誌に掲載されたもので単行本化されてない作品を集めた全9篇からなる短編集であるが作品それぞれの密度はとっても濃い。
どの作品もスパイスが効いていて読者も思わず背筋を伸ばしてしまう。
篠田さんの作品って“現実的”というよりむしろ“日常的”という形容がピッタシだ。
読者が男女問わずにどの作品の主人公に対しても思わず共感してします所が凄い点である。
短編集であるがやはり“作品集としてのコンセプトは弱い”かもしれない。
ホラーというジャンルに分類は出来ないのであろうが、全体を通して篠田さんが筆を取るととっても文章が小気味良く感じる。
多少辛辣な描写も目につくところであるが他の作家と比べて嫌味がないような気がする。
きっと的を得た女性の偽らざる心理の吐露がファンにとってはたまらないのだろう。
まず冒頭の「友と豆腐とベーゼンドルファー」が強烈である。
再就職して収入が減った夫に代わって一家を支える妻の気持ちが滲み出た秀作である。
個人的にはラストの一風風変わりな「密会」が面白かったかな。
男性の心理を意外に(?)上手く描写してる点には驚いた。
あとは表題作の「天窓のある家」も印象的だ。
女同志の友人であるがゆえの異常な関係に酔いしれることが出来る。
ひとつ残念なのは読後“希望が見えない”ところかな。
気軽に読めそうだと思われた方もちょっと面食らうかもしれない。
それだけ“人生って厳しい”ということなんでしょうか?
ただ、女性読者がエンターテイメントとして割り切って読まれたらかなり楽しめる作品である事は間違いないところだと思う。
トラキチのブックレビュー