「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
紙の本
ゲルニカ ピカソが描いた不安と予感 (光文社新書)
著者 宮下 誠 (著)
20世紀の西洋美術を代表する「ゲルニカ」の制作過程を丹念に追いながら、美術史、歴史画、戦争画などの観点からピカソが直感した「予感」に迫る。さらに、一枚の絵を見つめるという...
ゲルニカ ピカソが描いた不安と予感 (光文社新書)
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
商品説明
20世紀の西洋美術を代表する「ゲルニカ」の制作過程を丹念に追いながら、美術史、歴史画、戦争画などの観点からピカソが直感した「予感」に迫る。さらに、一枚の絵を見つめるということの本質にまで思いを巡らす。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
宮下 誠
- 略歴
- 〈宮下誠〉1961年東京都生まれ。早稲田大学大学院博士後期課程単位取得退学。國學院大学文学部教授。専攻は、20世紀西洋美術史、美術史学史、画像解釈学、一般芸術学。著書に「逸脱する絵画」など。
関連キーワード
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
「ゲルニカ論」に留まらない、秀逸な芸術論。
2008/09/23 16:45
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
名作の展覧会に行って、ただ「見た!」で終わらず、ぜひ「なにを見た」のか「何をみたかった自分がいた」のか、自分に対峙してみよう。読み終わればそう思わずにはいられなくなる一冊である。
なかなか整った「論文」という感じの新書である。ピカソの様式の変遷、絵画の様式の分類、他の画家の作品との比較、戦争画としての位置づけ、描かれた時期、動機などの説明もきちんとまとめられている。
圧巻は沢山の関係した習作や創作過程の写真を使った制作の分析であろう。あれこれと模索しながら描かれた様がよく伝わってくる。主題である「ゲルニカ」の写真を4つ折の差込ページとして入れてあるのは、この変遷を見るのにはなかなかよいアイデアである。広げると、絵の部分が丁度本体の左側に出る(本体内部に残る部分は空白)。絵を広げたまま本文が読めるので、本文中の「製作途中の写真」などと比較がしやすい。ありがたい心遣いである。惜しむらくは、「机の上の鳥」がトーンが暗いためにあまりよくみえないことだろうか。
実際にピカソがどう考え、どう表現しようとしたか、はどうしても推測の域を出ない。解説・分析が丁寧であるだけ、「結局どのようにみるのか、は観る者に任せるしかないのではないか。」との思いは読み進むほどに強くなっていった。しかし、その戸惑いは最後にいい意味でひっくり返された。終章の終りと「おわりに」の文章の言葉に、それが良い形でまとめられていたのである。
「肝心なのは作品を通して新たなあなたを見いだしてゆくことだ」。の一文を含む、この本の最後の数ページは、ひさびさに読んだ「薫り高い文章」でもあった。この部分だけでも是非読んでいただきたいところである。絵画について語られた文章ではあるが、音楽、文芸など、芸術一般に通ずる一級の「芸術論」になっていると思う。
芸術作品、それも名作と呼ばれるものほど、作り手の意図とは無関係に、鑑賞するものそれぞれに深い何かを感じさせるものである。「人は見たいものしか見ない」とも言われる。そこに何を見たか、で自分が見えるともいえるだろうか。それを少しでも容易に行わせてくれるのが名作なのだろう。それは絵画だけでなく、小説にも、音楽にもいえることである。「ゲルニカ」はその意味でも、とても名作なのだ、と改めて納得させられた。
よけいごとであるが、本文中「左」「右」の表記で迷った箇所がある。絵画には疎いのでなにか「お約束事」を知らずに迷っているだけなのかもしれないのだが、「画面左から中央に駆け込む女」(p85など)、という部分である。数行前後にある「牛の方向」「落ちる女」の左右は見たとおりに表記されているので写真の間違いではあるまい。同じ「左から中央」と書かれているところが複数あるので、印刷ミスでもあるまい。どなたかに御教示願いたいところである。
既にこの本にはよい書評が寄せられているので、「ゲルニカ」という作品への感想等は省かせていただいた。この本自体が「一つの作品をこのように読んだ、よみたかった」自分を教えてくれたという点では「私にとっての名作」である、ということを伝えたかったのである。さまざまな芸術に魅かれた事のある方もない方も、是非お読みいただきたい。
紙の本
絵画の見方
2008/04/24 04:18
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:濱本 昇 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ピカソの傑作「ゲルニカ」は、非常に印象的絵画である。私は、本物は見たこと無いが、大塚美術館で実物大の複製画を見た事がある。大塚美術館でも20世紀美術の傑作として、1コーナ設けて展示されていた。このゲルニカの前に佇んだ時に覚える「漠然とした不安」「ユーモアに近い感情」「悲愴」等々が、何故生じるのか?何故、ゲルニカが20世紀美術の最高と呼ばれるのか?本書は、具体的に解説すると同時に美術品の見方にまで言及している。
本書は、ゲルニカに焦点をあて、「創作過程」「美術史の中のゲルニカ」「歴史画として読む」「戦争画」とあらゆる角度からゲルニカを分析する。「創作過程」では、ゲルニカのモチーフとなっているそれぞれの習作を紹介することに拠り、それぞれのモチーフが持つ意味を追求する。「美術史の中のゲルニカ」では、古代からの絵画を紹介しながら、ゲルニカの美術史的意味を追求する。「歴史画」「戦争画」として、ゲルニカを見た時の位置付けもそれぞれの章で語られている。
ピカソは、多種多様な技法で絵画を描いているが、その真骨頂は、キュビズムである。立体を2次元的に描く手法を20世紀初期に彼は、確立した。ゲルニカもキュビズムの影響は見えるが、完全なるキュビズムでは無い。ゲルニカにオリジナル性が見えないと批判する人の根拠は、ここにある。しかし、絵画においては、手法のオリジナリティよりも、その作品から受けるインパクトの方が重要であると思う。その点、ゲルニカは傑作なのである。
「おわりに」で著者は、美術品の見方について語っている。美術品を鑑賞するという行為は、対象の美術品の中に自分を見出し、今の自分を鑑賞・分析する事であると。私は、美術鑑賞が好きだ。無意識の内に、私は、こういう鑑賞の仕方をしていたような気がする。絵画を見て明るい気分になれば、自分の明るい部分に光を当てている。逆であれば、その逆である。
本書は、ゲルニカという1点の傑作を通して、絵画の見方を教えてくれた秀作であったと思う。
紙の本
「肝心なのは作品を通して新たなあなたを見出してゆくこと」(本書「おわりに」より)
2008/08/23 15:55
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
ピカソの大作「ゲルニカ」を取り上げ、その制作過程や美術史における位置づけ、さらには美術にとってのオリジナリティとは何か、また美術というのは何のためにあるのか、といった幅広い視野にたって解析してみせた労作です。新書ですから200頁をわずかに超える程度の紙数ですが、深く歯ごたえのある書物を読んだなという印象が残る一冊です。
私自身は今から6年前に絵画「ゲルニカ」をマドリッドで目にし、そして今年の夏、スペインの街ゲルニカへ旅するにあたって、あらためてこのピカソの作品について深く知りたいと思って手にしたのが本書です。
学生時代に中野孝次の「ブリューゲルへの旅」を読んだときの印象になんとなく近い気がします。本書「ゲルニカ ピカソが描いた不安と予感」も著者自身が自己というフィルターを通しながらひとつの作品を徹底的に味わいつくすプロセスを私たち読者は体験する、そんな読書経験をすることができるといえるかもしれません。
そんなことを強く感じながら巻末にたどりついた時、いみじくも「おわりに」で著者自身がこう綴っているのに出会いました。
「要するに、作品とは、あなた自身を映す鏡なのである。無意識のうちに、あなたはその作品に己の姿を映すことで、悲しい思いをしたり、感動したり、喜んだり、落ち込んだり、愛したり、憎んだりする。それは換言すれば、あなたを愛し、あなたを憎むことである。思惟を積み重ねてゆけばゆくほど、言葉を洗練させてゆけばゆくほど、あなたは新しいあなた自身を作品の中に発見する。」(218頁)
さて、私自身はゲルニカをめぐるスペインへの旅を通して、どんな自分を新たに発見したのでしょうか。