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- カテゴリ:一般
- 取扱開始日:2012/05/12
- 出版社: 研究社
- サイズ:20cm/380p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-327-37731-1
- 国内送料無料
紙の本
『マルタの鷹』講義
著者 諏訪部 浩一 (著)
【日本推理作家協会賞評論その他の部門(第66回)】ハードボイルド探偵小説「マルタの鷹」を精読するための手引書。偶然と不条理、アメリカ的イノセンス、ファルスといったキーワー...
『マルタの鷹』講義
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商品説明
【日本推理作家協会賞評論その他の部門(第66回)】ハードボイルド探偵小説「マルタの鷹」を精読するための手引書。偶然と不条理、アメリカ的イノセンス、ファルスといったキーワードを足がかりとして、講義形式で読み進める。「マルタの鷹」本文への詳細な語注を巻末に付す。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
諏訪部 浩一
- 略歴
- 〈諏訪部浩一〉1970年生まれ。ニューヨーク州立大学バッファロー校大学院博士課程修了(Ph.D.)。東京大学文学部・大学院人文社会系研究科准教授。著書に「ウィリアム・フォークナーの詩学」など。
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面白い!
2021/07/29 22:27
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルの通り『マルタの鷹』を精読し読み解いていくものであり、優れた文学批評はそれ自体が文学的快楽を与えてくれるものだということがよくわかるものとなっている。
紙の本
現代批評理論を駆使した「講義」というかたちで迫るハメットの再読
2012/05/31 12:00
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:abraxas - この投稿者のレビュー一覧を見る
『マルタの鷹』は、ダシール・ハメットの代表作であるだけでなく、ハードボイルド探偵小説というジャンルは、ここからはじまったというべき作品で、ジョン・ヒューストン監督、ハンフリー・ボガード主演で映画化されていることもあり、評者などもテクストをしっかり読むこともなく、映画を見て内容を知ったつもりで済ませてきた。
惜しむらくは、ハードボイルド探偵小説というジャンルを創出した結果、エンタテインメント小説のジャンルに括られることになってしまい、その後大量に配給される傍系小説と同じように消費されることになった。村上春樹が、『ロング・グッドバイ』のあとがきに書いているように、チャンドラーをフィッツジェラルドと同世代の都市小説作家として読むことが可能ならば、ハメットもまた、ヘミングウェイやフォークナーと同時代のモダニスム作家として読むことができるのではないか。この本は、その疑問に答えるべくして書かれたともいえる。
村上春樹は翻訳を通して、チャンドラーを読み直す機会を与えてくれたが、諏訪部浩一は、現代批評理論を駆使した「講義」というかたちでハメットの再読を迫る。正直、純然たるハードボイルド探偵小説ファンには耳慣れない批評用語が頻出し、面食らう部分もある。ただ、しつこいくらい繰り返して解釈されるので、はじめはとっつきにくいかもしれないが、次第に筆者の言わんとするところが分かってくる。なにしろ二十章もある作品を一章ずつに区切っての講義である。講義を聞いた後で、小説『マルタの鷹』の同じ章を再読して確かめる。そのリズムがつかめれば、後は一気に『マルタの鷹』という小説が、単なる「ハードボイルド探偵小説」として、済ませることのできない多面的な相貌を持つ、モダニズム小説であったかを知ることに困難はない。
『マルタの鷹』は、黄金の鷹像をめぐる「冒険小説」であり、ブリジッドとスペードの「恋愛小説」でもある。しかも。歴とした「探偵小説」であるとともに「ハードボイルド探偵小説」の嚆矢でさえある。ここまでは、誰にでも理解できる。筆者の眼目は、スペードを取り巻く三人の女、依頼人であるブリジッド、サムの愛人であるアイヴァ、それに探偵事務所の秘書エフィを、それぞれファム・ファタール(運命の女)、ビッチ(牝犬)、母と考えることで、小説の中で、スペードがハードボイルド探偵としての自己をいかに全うできるか、そしてハメットが、どのようにしてジャンルとしての予定調和を阻んだかを論証して見せるところにある。その帰結として、『マルタの鷹』は、「ハードボイルド探偵小説」というジャンルの先駆的作品でありながら、それを脱構築した作品であったことが明らかになる。この論証過程が読みどころで、特に最終章の秘書エフィとスペードのやりとりの読解には、よくできたミステリにも似た「どんでん返し」の醍醐味が味わえる。
人類が始めて大量死というものを経験した両大戦間という時代背景や、禁酒法時代のアメリカにおける警察の腐敗という状況説明も親切で、ドロシー・セイヤーズから笠井潔に至るまで、数多の探偵小説論を引っ張り出し、必要とあれば長文の英語原文の引用もはばかることなく、まこと「講義」の名に相応しい充実した内容である。なにしろ、ものが探偵小説であるので、解説には慎重を要する。ハードボイルド探偵小説は、本格ものと比べれば謎解き興味は薄いと考えられるが、そこは、綿密に構成されており、初めて読む読者なら、一章ずつ読んでいくことで、謎解きの感興がそがれる心配はない。小鷹信光訳『マルタの鷹』との併読がお勧めだが、村上啓夫訳でも問題はない。