紙の本
虚勢を張って、猥雑で、カッコ付けで、弱さを抱えて生きている。
2012/01/31 17:55
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アヴォカド - この投稿者のレビュー一覧を見る
この人は一体何歳なんだ、どういう暮しをしてきたんだ…と思ってしまう。
この著者の略歴は目にしたこともあるので年齢も知っているし、第一、作家の勝負は作品のみと信じ、常日頃経歴など気にかけないで読むことにしているのだけれど。
それなのに。
なんなんだ、この生活感のディープさは。
なんで、こんなおやじの会話や、夜の店の世界や、どこかはじかれた者たちの感覚がここまで描けるのか。
中上健次を連想する。「軽蔑」や「鳩どもの家」を思い出してしまう。
虚勢を張って、猥雑で、カッコ付けで、でも優しくて、弱さを抱えている。向上心とか前向きとかそういう言葉には見向きもしないで、小さなつながりにすがっている。
吉田とみさをの「地下の鳩」1本ではなく、ミミィの「タイムカプセル」とを併せて、完結する。
ミミィかっこいい!と思ったシーンあり。
生きているよね、と思う。
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西加奈子さんの作品はすべて読んでますが、また違った西加奈子さんに触れられた。以下、ネタバレ含みます。
大阪で夜の仕事をする男女の物語。昔はモテた、暴力的だったとイキリのある吉田。左右の目の大きさが違い素朴っぽさをだしたそれっぽくないみさを。そして巨漢だが心は女のゲイバーで働くリリィ。
前編地下の鳩では吉田とみさをの目線で物語が進む。だらだらと交際と呼べるかわからないものを続けるふたり。みさをには一銭も出させたくない吉田が、もう金がないと涙したところはぐっときた。リリィの暴力事件に巻き込まれ目を怪我した吉田。ゲップをしたみさををみたくない。恥かかせたみさをが嫌いだ、みさをを嫌いになりたくない、いや、もう嫌いだと葛藤している吉田は可愛い。そしてあんなによく食べていたみさをが吐き続ける。それでもよく食べよく吐く。だがふっくらしていた、という記述をみてみさを妊娠したのかなと思ったんだけどどうだろう。どうおもう?
最後、『でも吉田は、みさをのことが、まだ好きだった』がいい。そこで終わらせるのもいいよ。
そして後編はリリィの目線で物語は進んでく。虐められていた過去。自分の立ち位置、相手がなにを求めてるかを読み取るうまさが切ない。タテノを刺したときのリリィが切ない。あの怒りが、怖さが、切ない。怖いくらいに。
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闇を抱えて生きる、夜の街。
それぞれの想いがとても重くて、
それぞれの過去がとても哀しい。
それでも、生きるんですよね。
強がって、いきがって、嘘ついて、生きていく。
その姿に、じんわりと胸が痛くなりました。
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大阪ミナミのキャバレー呼び込みとチーママの出会うべくして出会った2人の純愛。お互い相手のあるがままを受け入れ、不器用で惨めで情けない姿を夜の暗い街を舞台に描いてる。オカマバーのミミィのエピソードは痛いくらいに切ない。でも、登場人物の3人はこんな悲惨な状況でもなんだかんだ半歩前進してるんだよな。息が詰まるような物語だった。
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まったく好みのタイプではない小説ですが、著者のインタビュートークをテレビで見たのがきっかけで読んでみた。
中編「地下の鳩」「タイムカプセル」の2編を収める。いずれも大阪の夜の街が舞台。前者は40歳になったキャバレーの呼び込みの男の話、後者はオカマ・バーのママの話。客引きの通りで2人は出会い、同じ事件に遭遇しているが、話は独立した別もの。
前者は主人公の男の内面がいまいち理解できず、どう味わえばいいのかわからなかった。後者は、客とホステスの軽妙なやりとりに笑い、バーのママの気配りに唸らされたりしながら、やがてミミィの悲しさが胸に迫った。
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「目」は悪く無い。
目に魂が映った人達の話。
アングラでも生きるコトに差は無いよね。生きるコトに直面してる人達は好きだ。
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+++
大阪、ミナミの繁華街―。夜の街に棲息する人々の、懸命で不恰好な生き様に、胸を熱くする力作誕生。
+++
大阪・ミナミでキャバレーの呼び込みをする男・吉田の物語である表題作と、同じ街のオカマバーのママ・ミミィの物語である「タイムカプセル」から成る。
何者かに成り、何事かを成したかったが、何者にも成れず何事も成し得ずに、それでも日々を生きている人たちの痛々しいような一生懸命さが胸に迫る。吉田もミミィも、ほかの人々も、誰もが在るがままの自分を認めてほしいのだ、いまここに自分がいていいのだと思いたいのである。人は誰でも傷つけられるために生きているのではない。人が生きる意味について考えさせられる一冊である。
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夜の大阪・ミナミに吹き寄せられた男・女・そして・・・。何が欲しくて、何が欲しくないのか、怖いものなんてホントにあるのか。西加奈子さんには珍しい閉塞感が悲しい物語でした。
今年のマイベスト5には入ると思う「円卓」の西加奈子さんの新作。
大阪育ちを存分に活かしたしゃべり言葉としての大阪弁が、夜の街に生きる人々の閉塞感を巧みにあぶり出していたように思います。
お話は二つ。繋がりは緩く、“ここにいるはずではない”キャバレーの客引き男と素人臭さが売り物と言えるチーママの話「地下の鳩」と、自称オカマのミミィの話「タイムカプセル」。
どちらにもこの三人は出てくるし、分量からいったらミミィの話は付けたしのような位置に置かれているのだけど、こちらの方が断然面白い。ミミィの目線で語られる2人の人となりには、とてもストンとくるものがあったし。
テーマは、本当の自分、なんでしょうね。特にミミィは、自分の性への違和感や苛めをやり過ごす手段として、子どものころから自分を偽ってきた、という思いが強くて、女装・男装という言い方も、彼の“嘘”の大事なパーツになっている。(でも、女装が嘘なのか、男装が嘘なのか、曖昧なところがまたよかった。)
巨体のミミィは、どうしてもマツコ・デラックスを連想させてしまうのだけど、こんなママのいるトークバー(ショーや美貌を売り物にしないお店だからなんだって)だったら、私も行ってみたいなぁ。
自分の身を守るために備わってしまった、相手が何を求めているのか察知する能力を駆使して、ミミィはお店を巧みに回していく。
年配のサラリーマンや更年期障害の主婦には
「あんた今まで苦労してきたわねぇ」
若い女には
「言いたいこと、我慢しているんでしょ」
若い男には
「本当の実力がまだ認められてない」
そして、とうのたった女には
「あんたとは話が合いそう」と耳打ちするなんて。
身内扱いして、水割りを作らせたりすると喜ぶ客や、
「なんか雰囲気あるわぁ、他の男とは違う感じ」と言って喜ばせ、武勇伝の一つもさせてやればもっと喜ぶ、なんて値踏みされた客。
基本は、その人の話を聞いてやること。
オカマの話は面白いけど、自分がしゃべるだけではなく、とにかく客の話を聞くこと。
話すことがなくて誰も話を聞いてくれない女には、好きな男のタイプを芸能人をたとえに出してしゃべらせてとことん聞いてやる、・・・。
以前、別の本で読んだ占い師のカマシの台詞、「気を使いすぎて疲れてないですか?」に匹敵する常套句だし、こうやって書き出してみると、全然目新しくなんかないんだけど、ミミィの口から語られると、うんうん、なんて素直になっちゃいそうな自分がいるんだよね。
誰にでも言ってる台詞だとしても、見透かされているよ、あんた、って思ったとしても、ミミィと時間を過ごしてみたい。
そして、きっとまた来るよ、あの客は・・なんても言われてみたいです。
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思いの外単調だった(特に「タイムカプセル」) 。今まで読んだ「あおい」「さくら」「窓の魚」のどれよりも細かく人物が書き込まれているのに、みさを以外は立体的になる瞬間が殆どなかった。
どうにも類型的過ぎる気がする。
みさをと吉田の恋愛模様はよかった。
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西さんの作品で大人の主人公のものは初めてで
しかもこういうドス黒い夜の世界。
意表を突かれたが「地下の鳩」は吉田にもみさをにも
イマイチ感情移入できず読むのがしんどかった。
でも「タイムカプセル」がよかった。
ミミィの恐ろしいまでの人間観察力、
そうならざるを得なかった生い立ち
一気に読みながらこみ上げるものがあった。
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なんなんだ、なんなんだ、この生活感のディープさは。
この著者の略歴は目にしたこともあるので年齢も知っているし、第一、作家の勝負は作品のみと信じ、常日頃経歴など気にかけないで読むことにしているのだけれど。
それなのに、この人は一体何歳なんだ、どういう暮しをしてきたんだ…と思ってしまう。
なんで、こんなおやじの会話や、夜の店の世界や、どこかはじかれた者たちの感覚がここまで描けるのか。
中上健次を連想する。「軽蔑」や「鳩どもの家」を思い出してしまう。
虚勢を張って、猥雑で、カッコ付けで、でも優しくて。弱さを抱えながら。向上心とか前向きとかそういう言葉には無関係で、小さなつながりにすがる、なんとか生きながらえる。
吉田とみさをの「地下の鳩」1本ではなく、ミミィの「タイムカプセル」を併せて1冊にしたことは成功だ。完結している感じがする。
ミミィかっこいい!と思うシーンあり。
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ゲラゲラと笑わされることが多かった、西加奈子作品。
今回はまたガラリと違った内容に。
吉田の“イキリ”で思い出すのは昔、好きだった男の子。
彼も“イキリ癖”があったなと。
あーまたイキってるわー、と感じながらも彼好みの反応に合わせる。
でも不意に見せる弱さや脆さにまたこちらの心を鷲掴まれてしまう。
結局、手のひらで転がされていたのはどっちなんだろう。
色んな過去を抱えながらも結局は人間、
生きていくことが基本だと感想。
「タイムトリップ」も良かった。
ミミィが可哀想で可哀想で、でもどうしてあげることもできなかった。
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ピースの又吉さんがTVで紹介してて。図書館の返却かなり待ったー。
大阪のキャバレーが舞台。呼び込みをやっている40歳の男と、近くの店のチーママの話。文章の主観がころころ変わるので、ちょっと読みづらかったかな。
個人的には、ミミィさん主人公のサイドストーリー「タイムカプセル」のほうが好みだったな~。
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表題作「地下の鳩」と「タイムカプセル」の二編収録。
どちらも過去を、自分を乗り越えていくためのお話。
「地下の鳩」は意味不明。
自分を認められるかってところだとは思うけど、なんだか表面的でちょっと共感できない。
「タイムカプセル」の伏線というか、結末への導き方は上手いと思う。
違う可能性を示唆しつつ、臨場感があった。
こういうのが文学っぽい。
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奥まった、大きくて暗い目を持つ男・吉田と
左右の目の大きさがまったく違う女・みさをを軸に
大阪なんばの夜の街を舞台に描かれる物語。
どの登場人物も、なんらかの心の傷を抱えていて
本当の自分を見失っている
あるいは、あえて目をそらし続けて生きてるように見える。
そんな、ちょっと触れば崩れてしまいそうな彼らが
次第に自分の心の奥にある本来の姿に気付き
見いだしていく姿は、胸を締め付けられるような思いがした。
とても主観的な感じ方かもしれないけど
『丸薬のような目』と表現される、鳩のあの目は
じっと見ていると、心の奥の奥まで見透かされてるような
そんなぞっとするものを感じる事がある。
地下鉄で吉田が見続けた鳩の目も
みさをに糞をひっかけた鳩の目も
彼らのそんな姿を、見透かしてたんじゃないかと感じる。
そして、読後にあらためて表紙を眺めると
地下鉄から地上に上がってきたときみたいに
目を背けたくなるくらい、眩しさを感じる
あの感覚を覚えました。