紙の本
読書メーターで密かなブームのミステリー
2015/05/10 21:30
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:れいんぼう - この投稿者のレビュー一覧を見る
丸山正樹さんは第18回松本清張賞の最終候補となった本作でデビュー。ミステリーとしてなかなか面白かったが、それ以上に「聴者」(耳が聞こえる者)の私が知らない「ろう者」の世界を知ることができたのは大きな収穫であった。
ろう者家族の中にいる聴者の子をコーダと呼ぶこと、手話には「日本語対応手話」と「日本手話」があることなど、この本を通じて知ることができた。無知であることは差別につながる。この本を通じて一人でも多くの人がろう者のリアルを知ってほしいと思う。
紙の本
色々とおしえてくれる
2023/05/25 23:41
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投稿者:kochimi - この投稿者のレビュー一覧を見る
権利という概念を知らない、
ということがショックだった。
聞こえないと不自由だな、危険だな、
くらいにしか考えていたなかった
自分が恥ずかしかった。
聴者であれば、自然に身についてくるはずの
あたりまえのことが、
聾者の場合は、適切なケアがなければ
言葉を得ることすら難しく、
言葉がなければ
何かを知ることを考えることも
伝えることもできないということを、
聾者が事件に巻き込まれる、という流れの中だからこそ
身に迫る迫力で感じた。
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コーダの手話通訳士が主人公。
地方在住の通訳者としては、東京だったらこういう事もあるのかも、と思って設定にはあまり違和感を感じずに読んだ。
時代設定がないとは言え、通訳士試験に読み取り筆記の描写があったのが少し取材不足?と感じる。
登場人物の中に普通にろう者が出てくるのは画期的だが、その部分を除けばミステリーとしては一般的なものという印象。
普通のミステリーなだけに、ろう者の語り口が実際のろう者像とは少し違っている(ように感じられる)のが残念。実際のろう者、コーダにもっと近かったら、本当の「普通」を描いた「普通ではない」作品として読めたかもしれない。
手話の世界を知ってもらうには良本。
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2018/4/2
『龍の耳を君に』にあわせ再読
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8月だったか、新聞でこの小説についてちょろっと紹介が出ていた。「手話通訳士」が絡むらしいというのと、そもそも「デフ・ヴォイス」(聾者の声)というタイトルが気になって、図書館にリクエストしてみたら、わりとすぐ届く。
伊丹の「地域生活支援のあり方を、当事者・行政・事業者・市民で考えるフォーラム」に出て、手話通訳さんたちの"伝える"力のすごさを見て、帰ってきてから『デフ・ヴォイス』を読みはじめたら、そのまま最後まで読んでしまった。
「コーダ」「デフファミリー」「日本手話」「対応手話」「刑法40条」「ろう文化宣言」「聴覚口話法」「バイリンガル教育」――そういう話が出てくる。タイトルの「デフ・ヴォイス」にはいくつもの意味が込められていると思える。この小説に出てくるある事件は、聾者の声がひとつの手がかりとなって、事実関係を明らかにする糸口がみつかるのだ。
小説の最初は、手話通訳士の試験場面から始まる。主人公の荒井尚人は試験を受けている。読み取り・筆記通訳の試験、聞き取り通訳の試験、読み取り・口話通訳の試験と順にあって、それが二次試験らしい。荒井は学科試験と二次試験とも一発で合格し、通訳として順調に仕事をスタートする。そして、ある障害者支援のNPOから専属的に通訳をしてくれないかと依頼をうけ、聾者が被告となった事件に関わるようになる。そのなかで、森本事件(『生涯被告「おっちゃん」の裁判』で出てくる森本さんは、手話もできない、字も読めない、もちろん口話も無理という聾者で、600円の窃盗で20年近くを「被告」として過ごした)のこともふれられる。
かつては、警察に勤め、事務をしていた荒井がその仕事を辞めたわけも、離婚したわけも、聾者から「あんたは俺たちの仲間」だと言われるわけも、小説の半ばあたりで明らかになる。
荒井はコーダだった。CODA、Children Of Deaf Adults、聾の大人のもとにうまれた子ども。両親も兄も聾者で、家族のなかで聴者は荒井だけだった。幼いころから、聞こえる世界との通訳として荒井はずっと過ごしてきた。
▼親からすれば、「聴こえる」荒井については心配いらない、その分「聴こえない」兄を庇護しなければ、と思うのは当然だったかもしれない。だが幼い荒井にとって、親の態度の違いは、「自分が愛されていない」と感じるのに十分だった。
両親は、兄のことがすべて分かった。兄は両親の世界の一部であり、兄にとってもまた、両親は世界の一部だった。
そして、自分は彼らの世界の一部ではなかった。両親は、「聴こえる」自分のことを分からなかった。そして自分も、「聴こえない」両親の、兄のことを、分かることはなかったのだ。(p.104)
NPOスタッフの片貝は、荒井とは逆に、家族のなかで一人、自分だけが聴こえなかった。普通の子、聴こえる子になってほしいという両親の思い、聴者の子どもたちに負けたくなかったという片貝の思い。
▼〈両親がありのままの私を受け入れてくれることは〉〈ついにありませんでした〉〈両親が手話を覚えることも〉〈なかった〉
〈私たちは〉〈結局��度も〉〈まともに会話したことさえなかったんです〉 (p.103)
荒井が個人的にこだわり、謎を解こうとした事件の鍵を握る人物もまた、コーダだった。
小説の単行本には珍しく、本の終わりには著者の「あとがき」があった。身内にろう者がいるわけでも、手話を学んだことがあるわけでもない人だという。取材によって、聾の世界やコーダの思いをこんな風に書けるのかと思った。
(2011/9/11了)
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聴覚障がい(障がい者ではなくろう者と表現した方が適切と知った)の人々がコミュニケーションの手段として使う手話には、古くから使い習わされてきた「日本手話」と「日本語対応手話」があることは、なんとなく知っていた。
先天性失聴、後天的なもの・・。そして環境(両親共にろうあ)によっても表現の手段は少し違ってくる。
主人公は、両親と兄がろう者で、自分のみ健聴者。家庭内の「通訳」は彼の役目。自在に日本手話が使えるけれど聴こえる人を「コーダ」という。
人は自分のアイデンティティを模索し、苦しむ。
難しい問題を「小説」という形で表現した秀作。
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第18回松本清張賞最終候補作を加筆修正。ろう者(著者によれば、聴覚障害者は自らをこう呼ぶのだそうです)が犯罪者となるミステリーで、主役は特異な生い立ちの手話通訳士。今まで全く知らなかったろう者の世界が興味深く描かれています。ミステリーとしてもなかなかよく出来てはいるのですが、親切すぎる伏線でかなり早い段階で仕掛けが読めるにもかかわらず、わざと目をつむっているかのように真相になかなかたどり着かない主人公にイライラさせられるので★一つ減点。
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ミステリーとしても、社会小説としても良質。
良質どころじゃない。素晴らしいと思う。
難しいテーマを取り上げていて、しっかりと著者のメッセージが響いてくる。
読み終わると、少し世界が違ってみえる。
この障害を持つ方々に対しての認識が変わる。
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聾の文化(手話文化)の氷山の一角を、いえ氷山の一角からこぼれ落ちたひとしずくを見てきたと思っていた私だけれど、このミステリー小説の中でつまびらかにされる聾文化に目からウロコの思いがした。 はじめのうち、もしかしたら聾文化への興味が強くない場合は、まどろこしく感じるかもしれない。しかしそこを乗り越えれば優秀な一本のミステリー小説だと誰もが思うだろう。そしてまどろこしく感じた部分も全てがなるほどと思えるのではないか。 たなぞうに感想を載せられるのもこれが最後かもしれない。まだ分からないけどね。最後には何を読んで何を載せることになるのかなぁと、漠然と思っていたけれど、とってもいい本と出合い、いい本の感想が載せられて良かった。素晴らしい“たなぞう人生”のしめくくりになった!! (^▽^喜)
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「ろう者」「手話通訳」「コーダ」などのテーマも丁寧に描かれているが、
ミステリーとしても読み応えあり。
途中に置かれた謎や、人物の造形が、物語の最後に心地よくおさまって行く感じ。
はじめての著作(?)で、まだ他に本が出ていないようだが、ぜひ次の作品も読みたくなった。
あとテレビドラマでこの作品やってほしいなあ。
手話の部分が、文章より映像の方が、心にくると思うので。
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本から、知識を得ることがある。
この小説は、手話の世界がこんなにも細分化されていると
いうことをワタシに教えてくれた。
読みやすいのに、読み応えのある小説だった。
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世の中に知らないことは数多くあることは認識していたが,この本を読んで次のことには驚いた.
[1]先天的失聴者の多くは誇りを持って自らを「ろう者」と称する.[2]手話には「日本手話」と「日本語対応手話」の2つがある.
「日本手話」だとかなり複雑なことも伝達することができる由.調べてみよう!
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内容(「BOOK」データベースより)
時を隔てた二つの殺人。謎は解け、愛だけがそこに残った―。生活のため手話通訳士になった荒井は、刑事事件に問われたろう者の法廷通訳を引き受け、そこで運命の女性・手塚瑠美に出会う。第十八回松本清張賞最終候補作に加筆修正。感動の社会派ミステリー
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手話を「日本語を手で言い換えたもの」と誤解している人は多いだろう。
その認識は、手話の可能性をもぎとる、単なる無理解でしかない。
手話を用いる人々、その人々を支える人たちをめぐるミステリー小説だが、手話について正しい理解を深めるための入門書にもなる良書。
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聴覚障害者という言葉より
ろう者という言葉を使う方が
彼らにとって良いということを初めてしった
聞こえる親から生まれた子供をコーダということも
何かあれば泣き叫んで親に伝えることが普通だけど
そうじゃない、声をだしたって伝わらない世界
子ども心に悲しい思いをたくさんしてきて、
やりきれない気持ちを抱えたまま
就職のために手話通訳士になり、事件を解決していく
聞こえない親から生まれた聞こえる子供
だけど、ろう者と同じ言葉を使えるコーダたちの位置
敵?味方?と子供が聞く部分があって
切ない気持とともに、自分たちの違いを主張することは
同時に誰かを排除することにもなりかねない
仲間意識も権利も大事だけど・・・
同じ環境に育っても、コーダは別扱いされてる感じに
なんだかモヤモヤが残った
事件としては、なんとなーく読める展開ではあったけど
同じ傷を抱えてない私にはまだ深く読み込めなかった
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17年前、男性が一人殺害される事件が起きた。今回殺害されたのはその息子だという。疑われているのは17年前に過失致死の容疑で逮捕された「ろう者」の男性。一方、警察の事務係を辞め、手話通訳士として働いている主人公はある男性のアパートに仕事のため赴くと、同じ階に警察に追われている「ろう者」の男性が住んでいた――。
主人公の生い立ちに胸を痛めました。ラストシーンに涙すること必至です。