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生物の「かたち」がどのように形成されるのか、数理的に探る
ものごとの理由を尋ねられたとき、その答え方は一通りではない。
生物、特に進化に関わる疑問でよくあるのは、「なぜ」かを語る、目的論的な答え方だろう。キリンの首がなぜ長いのかと問われたとき、「そうすれば高いところの葉を食べることが出来て有利であるから」といったものだ。
これに対して、「どのようにして」に着目する見方もある。
本書では後者の見方に重点を置き、生物がなぜ今ある形になっているのかを研究する、さまざまな試みを紹介する。
形状を主眼として、生物物理化学の考え方を紹介する本といってよいだろう。
数式はほぼなく、著者もサイエンスライターとのことなので、一般書の括りだと思う。写真や図版も多く、見かけよりは読みやすい本かもしれない。
大きく取り上げられているのが、ダーシー・トムソン(『成長と形』)と計算機科学の父といわれるアラン・テューリングである。また、ヘッケル(『生物の驚異的な形』)の執拗なほどのスケッチについても触れられている。
泡と膜が作り出す形状と微生物骨格の共通点の話や、色が変わる反復反応であるベロウソフ・ジャボチンスキー反応の話など、なるほど、という感じ。
フィボナッチ数列(1つ前と2つ前の数字を足していく数列:例えば1、1、2、3、5、8、13・・・)と黄金比が生物によく取り入れられている(葉の数など)というのは、話としてはおもしろいが、例外も多そうだし、ではそれこそ「なぜ」なのか、という立証には遠そうだ。
個人的には、ゼブラフィッシュとマウスの縞模様や毛色の話が一番おもしろかった。活性因子と抑制因子のせめぎ合いの結果としてパターンが生まれるという話である。形態形成のもとになる何らかの「モルフォゲン」が働くと仮定されている。実際の生物を使っているので、これはわかりやすい。
本書で取り上げられているのは、機能ではなく、文字通り「かたち」の部分である。機能を考えるよりはシンプルであるような気もするのだが、全般として、石鹸膜にしろ、蜂の巣型形状にしろ、比較的単純なパターン形成実験から実際の生物に至るまでは、まだまだ遠い、と感じる。道のりは遥かで、つなぐ糸が細すぎる。
ただ、ものごとの見方はいろいろで、さまざまなアプローチで光を当てていくことで、見えてくることも多いだろう。排他的でなく、いろんなレベルで見ていくのがいいのかもしれないなぁとは思う。
*「自然が創り出す美しいパターン(原題”Nature’s Patterns”)」の副題がついた三部作、『かたち』『流れ』『枝分かれ』の1作目である(2作目まで訳書刊行済み、3作目の訳書は2月23日刊行予定)。
*我ながら、自分はこの本を評するのに適しているとはいえないと思う・・・。まったくおもしろくなかったわけではないのだが、何というか、そもそも、自分の納得する「わかり方」ではこの本は理解しきれないんだと思う。つまりは力不足なのだが。読んだことは記憶に留めておいて、どなたかもっとふさわしい人の評があれば、参考にしたい。
*巻末の実験はちょっとおもしろそう。特にBZ反応。でもこの試薬(フェロインとか臭素酸ナトリウムとか)、一般家庭にいたんじゃ買えなそうだな・・・。高校の文化祭だか学校紹介だかで見たことがあるので、高校レベルなら購入ルートがあるんだろうか・・・?
*六角形を並べただけでは立体にならず、閉曲面にするには、五角形が必要であるという話(何面体でも12個)は、単体でおもしろかった(証明できませんけど(^^;))。オイラーの多面体定理によるとそうなるのだそうで。サッカーボールにも五角形が入っているよな、と思ったり。
<追記2011.2.17>
ゼブラフィッシュ、Scienceに出てました。短いレポートみたいです。
Science 10 February 2012: Vol. 335 no. 6069 p. 677
<追記2011.2.23>
テューリング(=チューリング)は今年、生誕100年だそうです。
Nature Volume: 482, Page: 440
Date published: (23 February 2012)
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【とても自然が創り出したとは思えない美しいパターンの数々】
・硬派です。
「知的で博覧強記、いかなる教条主義にも与さない」
の言葉通りですね!
・ハチの巣、蝶や動物の模様、草花の葉、果物・野菜のヒダ、
さらには、生き物のボディがどのように形成されるのか
(遺伝子だけでは説明不十分)、
そのプロセスについてここまで迫った本はないでしょう!
それまで何とも思わなかった果物・野菜の外観を見て
感動を覚えるようにすらなりました。
・ただし、読むのがとてもしんどかったです、、(^^;)
いまだかつて、読むのがたいへんだった本のベスト5に入るでしょう。
これが3部作の第1作で、残りまだ2冊あるかと思うとしり込みするのですが、
しかし、こんなことがわかってしまうなら、読まないわけにはいかないですね。
・挫折する可能性も高いのですが
でも、写真が非常に豊富に掲載されており、文章を読まなくても、
それら自然が創り出す美しいパターンの写真を見ているだけでも、
感動ですし、言わんとすることが伝わってきます。
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1 ものの形
2 ハチの巣の教訓
3 波を起こす
4 体に書かれたもの
5 野生のリズム
6 庭の草花はどう育つか
7 胚を展開する
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自然にある「かたち」がいかに作られるかがテーマ。様々な事例を挙げて、自然にある「かたち」は創造説のように神か創ったものでも、自然選択だけで創られたものでもなく、物理的な現象で作られていることを解説している。写真やイラストが多く、ビジュアルで判りやすく説明する意図は感じられる。読んでみて、提示された図や写真の例は判りやすいのだが、できるだけ数式を使わないで説明するという著者の説明の文章が難解で、頭の中に入っていかなかった。これは翻訳者の理解の問題もあるかもしれない。(原文が難しいのかもしれません)読み手にもある程度、科学的な素養が無いと完全に理解するのは難しいと思う。一般人向けの読み物・ポピュラーサイエンスというのであれば、文章にもう一工夫欲しい気もしました。
とはいえ、科学に詳しくない自分には、取り上げた事象に初めて聞くような名前や法則があって、科学者というのは誰も気にしない些細な世界でも深く研究し業績を残していることがよく判った。こういう本の楽しみ方は、知らない世界を知ることにあるのだから、たとえ理論が理解できなくても、先人達の業績や事象の名前を覚えるだけでも読む価値はあると思います。
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所在:展示架
請求番号:463.7/B16
資料ID:1200693
数学、物理、の法則の定めるままに、そういった美しいタペストリーはひとりでに織りあがるそうです。
自然に潜むパターンの数理を、豊なヴィジュアルを楽しみながら明かしていく本です。
選書担当:平口 咲綺
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これは素晴らしい良著に出会ったという直感。
自然界の生み出す多様なパターンの生成原理を、数学的・力学的観点からわかりやすく解説する。
生気論と進化論という生命の誕生を巡る基本的な理念の対立から、進化論における自然淘汰説の抱える問題の提起、経験論的手法による進化の過程の限界を提示し、よりシンプルで明快な自然界の造形の原理に迫る。
自然界に共通する幾多ものパターンの発見に至る歴史的な過程や主要な人物を振り返りながら、無機物から有機物、生物の骨格・組織・巣、地形、自然現象まで、緻密で精巧な自然の造形を科学的に説明する本書は、第1部のみでも十分読みごたえがある。
数学嫌いの人でもこの本を読めば、難解でいまいち目的のわからない数式や公式が“見える”ようになるかもしれない。
蜂の巣の構造と炭素の構造の類似点は?オウムガイとカタツムリは全く違う生物なのに、なんで似たような殻のデザインをしてるのか?
一見関係のないように見えるさまざまなものが、ある共通するパターンを持っている理由を説明するための武器として、そのパターンの持つ物理的特性や数学的・力学的特性に着目しているのが非常に面白い。
色々な分野の知識が混ぜ込まれていて、でもあまり難しい言葉を使っていないので、着実に読み進めてゆける。
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なかなか手にしないジャンルなので新鮮で面白かった。作者か翻訳者かわからないけど文章がもっと洗練されてたらいいなと思った。
写真も美しく、この世の全てのものの見方が変わったようだ。流れ、枝分れも読んでみたい。
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[ 内容 ]
自然のなかの目を見張る造形は数理法則にのっとってひとりでにできる。
事物に潜むパターンの数理を、豊富なヴィジュアルを楽しみながら明かす3部作、開幕。
[ 目次 ]
1 ものの形―パターンと形態
2 ハチの巣の教訓―泡で築く
3 波を起こす―試験管の中の縞模様
4 体に書かれたもの―隠れる、警告する、擬態する
5 野生のリズム―結晶化する「群れ」
6 庭の草花はどう育つか―ヒナギクの数学
7 胚を展開する―ボディー・プランの形成
[ 問題提起 ]
[ 結論 ]
[ コメント ]
[ 読了した日 ]
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面白いです。小石の定義に噴出すとともに、すごいと思いました。
本文中に掲載された本
・成長と形 ダーシー・ウィンとワース・トムソン 1917 P24
・シンメトリー ヘルマン・ワイル
・対称性の破れが世界を創る イアン・スチュアート、マーティン・ゴルビツキー
・驚異的な対称性 エルンスト・ヘッケル
・放散虫についてのモノグラフ 同上
・宇宙の謎 同上 1899
・結晶の塊―無機的生命体についての研究 1917
・修飾的スケッチ ルネ・ビネ
・微視地理学 クリスティアン・ゴットフリート・エーレンベルグ 1854
・千夜一夜物語
・ロリータ ヴラジーミル・ナボコフ 1955
・人工の原理 トマス・ロバート・マルサス
物理・化学・熱力・生物・植物・遺伝・細胞・医・進化論・幾何・形態等の各学問知識をフルに使って読み込んでいる。読むのに骨が折れるが、おもおしろい。難しい話が続くと思うが、時々著者が入れる俗世的な揶揄が出るたび、“なんでそこで、この文句なんだ!!”と笑みがこぼれた。各専門分野の話にも触れながらも最終的に『かたち』にまとまる構成になっていて、興味深く読んでいる(“かたち”のためにどうしても必要な専門内容は解説されていたが、それは全体から見たら小枝程度のものだった)。
また、難しい事象を擬態化――それは一滴のインクだったり、山から落ちる石だったり、細菌とアリだったり――しているのも面白いと思う(日本語的に?と思う点もあるが・・・)
専門的な視点と一歩下がった見方を交互に織り込んでいる点に脱帽。(この、一歩下がった視点での表現がなかったら、多くの人が読み切れないと思う)。また、繊細なものを描写するのに、単純な例として表現するのではなく、より印象的な繊細な例で表現している点も・・・(私なら、口絵4を『ボタン花ののような模様』と例えるところを著者はP217 で、“イスラム世界のもっとも創意に富む芸術家が盾や申に描いたような模様を”と表現している)。
このような表現も含めてや文章の端々に著者の“かたち”に対する畏怖や尊敬の念が見て取れて面白いと思った。
【以下読みながら書いた感想です】
P90から展開される、なぜミツバチの巣は6角形なのかをめぐる議論の進展が面白い。
シャボン玉の石鹸の分子で内面には「水に解けない尻帯を表面から突き出している」(P96図2.17解説)とあ
るが、いったい誰が確認したのだろうか?数学的に実証したのか?それとも誰かが見たのか??面白い。
泡についてのプラトーの情熱がすごい。三次元での泡についての考察を読んでとても高揚した。
豆の鞘の間の角度は116度とか、このケルビィン卿・・・豆・・・豆(-_-;)
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★科学道100 / 導かれたルール
【所在・貸出状況を見る】
http://sistlb.sist.ac.jp/mylimedio/search/search.do?target=local&mode=comp&materialid=11200693
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自然のかたちにはどうしてパターンがあるのか?生命が作り出すユニークなかたちは、すべて遺伝子に書き込まれているのか?
などなどの疑問を一つひとつ丁寧に解説していく。文系の私はやや難しいところもあるが、かなり包括的によくまとまっている感じ。
こういうのって、フラクタルとか、複雑系とか、そっちにいくことが多いと思うし、私もその辺を期待して読み始めたのだが、著者の視点は、いわゆる自己組織化という便利なところにはそんなに逃げずに、色々な可能性をしっかりと追っかけていく。
その誠実さが、この本の魅力かな?
この3部作の1作目で、この後に、「流れ」と「枝分かれ」が続く。ちょっと一息入れてから、読み進めよう。
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この三部作を数年前から図書館で読み始めて、今回ようやく読み終えた。 自然界に存在するさまざまな「パターン」を物理、化学、生物、情報の区別を超え統合的に考察する。このような視点でここまで一般的にわかりやすく書かれた本は案外少ない気がする。 各部で取り上げられた事象や理論はどれもとても深く面白い。最後のエピローグの章で全体を統括していて、世界の事象に対する新しい見方を提示してくれる。
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何故この形になってるか、何故この模様になってるか、こういった疑問は頭によぎったこともなかったが、難解な化学的パターンを上手に説明していて非常に勉強になる。 一般人には、自然淘汰と自然選択の結果こうなってます、というダーウィニズム的な思想で満足してしまうところだが、フィリップ・ボールが紹介する数々のモデルは深淵な科学の賜物であり、作者自身各テーマの結論を出すことに慎重な姿勢を取っている。
界面活性剤の周期的極小曲面形成や、共重合体の化学的作用など、ちょっと眠くなってしまうテーマもある。ほかに化学的なアプローチとして興奮性媒質やBZ反応に関する説明は興味深かった。鉱物の模様や心臓の鼓動、細菌の活性などに繋がる普遍性を持っていることに驚かされる。渦巻き銀河の形状までが反応=拡散系と見なすことができるアイデアも驚嘆的。
アラン・チューリングの存在感も際立っている。自己触媒的な活性因子と、長い距離で作用する抑制因子によるメカニズムが、様々な動物のパターンに見られるのはとても興味深い。 スペースの限られる尻尾先端では縞模様が現れるだとか、臨界点を超えた体格を持つ動物は模様がないなど、凡人には気づかないような点を説明されると目から鱗な気分になる。
黄金比については今では有名だが、言われてみれば、フィボナッチ数でもその倍数でもない数字は21までに4つしかなく、何でもかんでもフィボナッチ数列に結びつけてしまうのは軽薄に思えた。
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ロマネスコを見てうっとりする、息子向けに。
化学や物理が好きなんですね、彼。
かーさんは、難しいけれど、こういうの好きなひとには
かなり良書なんだと思います。
あるだけでわくわくするって、素敵な本。