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投稿者:イシカミハサミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
今回もどっぷり物語に浸からせてもらえた。
「物語を必要とするのは、不幸な人間だ」
冒頭に掲げられた詩が全体を貫いている作品。
作中作もあり、作中に実在の人物名も登場し、
本の中の“現実”が曖昧になるし、
本とこちら側との境界線も曖昧になるような。
現実と虚構のあわいにある中盤から、
ラスト一気にミステリーばりの絵解きになる終盤。
物語が閉じた後の読後感も至高。
紙の本
薔薇密室
2016/11/14 09:39
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投稿者:によ - この投稿者のレビュー一覧を見る
第一次大戦から第二次大戦、ドイツとポーランド、美しい劣等体と咲き誇る薔薇、狂気か正気か、事実か物語か。
歴史の間に根を張り巡らせた狂気的な物語、一体どういう物語なのか見えない中ミルカとヨリンゲルの時間を読み進める、この本の世界に没頭できるのはとても素敵なことでした。
休み前日夜からやること放置で読んでしまった…。
最後のページのその向こうで、ミルカとユーリクが会えたら良いのに…というささやかな願いを残しつつ、今回は読了。
また読みたい。
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なんて美しく、退廃的で、歪んだ世界!
「死の泉」同様、どっぷりと皆川ワールドに浸ってしまいました。
美青年を薔薇と結合させ、永遠の美しさを保つ。
「死の泉」で、少年の美声に異常なまでに執着した医師を思い出します。
夢と妄想と現実。読んでいるうちにその境目が曖昧になる。
何冊か読んできましたが、皆川さんの真骨頂はそこなのかな、と。
美しい悪夢のような物語に溺れてしまいそう…
一読しただけでは、とても理解できたとは言えませんが、
幻想的な世界観をたっぷりと堪能できました。
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久しぶりに続きが気になって一気に読んでしまった。
カテゴリー分けがこんなにも難しい作品は珍しい。
ミステリーとして読むと正直言って結末は物足りないと思う。
でも面白かった。
美しくて哀しい。
ミルカとユーリクの章が個人的にツボにはまってしまった。
思わず久しぶりにきゅんとした。
またじっくり読み返したい。
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脱走兵コンラートが逃げ込んだ古い僧院では、ホフマン博士が人間と薔薇を融合させる実験を行なっており・・・
いくつかの物語が交錯しながら、しだいに集約していき、思わず引き込まれる。理屈はともかく、この物語の世界にハマったもん勝ちって感じかな。
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頑張って読み終えた。
私の日常とかけ離れた、濃密で妖しい、美しくねじれた世界。
触れようと手を伸ばせば、容赦なく鋭い棘で傷つけられ、こちら側に来る勇気はあるのか、と静かに詰問される。
私は流れ落ちる血をも忘れ、汝に見とれるばかり。
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ミルカ側の物語が好き。
ユーリクの愛情がまっすぐ過ぎる。せめてミルカが生きてる事を知って欲しかった。
読み終わってから冒頭部分を読み返してさらに切なくなった。
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第1次世界大戦から第2次世界大戦にかけてドイツ・ポーランドの国境近くの修道院で行われた秘密の実験。
脱走兵に、ポーランドの少女、修道院の作男、と、語り手は変動していく。でもって、どれも<信用のならない語り手>なのだ。
なので、翻弄され困惑し、気がつくとがっつり世界に取り込まれている。
にしても、薔薇と人間を融合させるという実験が、あの病気の治療云々につながっていくとは…。
とはいえ、まぁ、どれもこれも共感できない人物のオンパレードで、ある意味、人間の基本的な嫌な部分、というか自分自身が嫌悪していることを凝視させられる気になる。
やっぱ、怖いです、皆川博子。
でも、癖になる面白さ。
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戦時下のドイツ、ポーランド国境近くの古い修道院。その奥で行われている実験。その恐るべき真実とは。
作者の著書は「開かせていただき光栄です」しか読んでないのですが、どちらも独特の雰囲気と世界観にどっぷり沈み、ともすれば溺れそうになります。 濃厚な闇の中を歩くような重い感じもあるのですが、これがまた癖になるというか、怖い物見たさと言うか、ぐいぐい引きこまれ止められない。長めの話なんですが、長さが全く気にならない。 現実と幻想が交差していて、ミステリーなのでラストには謎解きもあるのですが、その後に残る明かされない謎の方が気になる。
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とても良い香りで、味も抜群の料理を食べていると、不意に奥歯で砂利を噛んでしまった。
温かくて手触りの良いストールを巻くと、ちょうど首の後ろの部分にに何かの棘がついていた。
靴に入り込んだ小石。
わずかに漂ってくる悪臭。
そんな決定的に不愉快だとは云えないまでも、落ち着かない気分になる物語。
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幻かそれとも現実か
美しさと醜さが入れ混じり
官能的な物語に浸れる一冊
個人的に好きでしたが好き嫌い分かれると思います
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作中作と作中現実(?)が入り混じる物語。読み解こうと進めば進む程、こんがらがってくる。薔薇と人間の融合、等というモチーフを扱いながらもSFに走ること無くミステリーとして仕上がっていて、本当に素晴らしい小説だと思う。作中の言い回しを借りると、どんなに不幸な人間をも陶酔させる力を持った物語です。
第一次世界大戦が舞台となっていて、最初は取っつきにくいかと思ったけれども、一度世界に引き込まれたらさくさく読めます。
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初皆川作品。圧倒され、惑乱させられた。次々と語り手が交代していくことにより、たった今まで現実と思って読んでいた物語が虚構に切り替わり、そして次に読んだ物語も虚構へと……、現実との境界が分からなくなっていく。どれも完結しない物語。登場人物が感じる混乱が私にも伝播し、酔う。ミステリ作品として、最終的には現実が提示されるわけだが、それでも残されたひと筋の非現実-詳細は伏せる-により、この惑乱は解けずに終わる。
薔薇の僧院。薔薇と人間を合体させる狂気の研究。男娼と黴毒。姉の美しい恋人。美しき劣等体。ナチとSS。重厚な文体。出てくるモチーフは確かに倒錯、耽美なのだが、そこには頽廃のような爛れた空気よりも、「業」という名の毒と閉塞さを感じた。(それにしても、ドイツ語の響きの耽美に聞こえることよ。)
作中で繰り返し唱えられる「物語を必要とするのは、不幸な人間だ」という一文、これが本作品が投げかける「業」の主たる要素だと思う。舞台は第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけてのドイツとポーランド。ドイツ第三帝国というヒトラーの大きな物語、ここを舞台に更なる自分の物語を紡ごうとする登場人物。そして読み手たる私はこれを一つの物語に構築しようと試みる。つまるところ人間は皆不幸なんだな。
確かに見た目は"厚い"けれど、決して"長く"は感じない一冊。
(ちょと苦言、冒頭の小序、これは最後に持ってきて欲しかったなぁ。恐らく救いになっていると思われるが、ほとんど結末を提示しているに等しいので。結末ももうひとひねり欲しい気はした。)
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「死の泉」では読後、というよりは最後の一文でぷんと濃いウイスキーのような悪の匂いが立ち上った。
本作では中井英夫直系の人間=薔薇というオブセッションを受け継ぎながら、なおかつナチスを題材に取りながら、最後にはさわやかな柑橘の香りが。
これはあくまでも良きにつけ悪しきにつけではあるが。
視点の多様性、語ること書くことへの思索、幻想の混入、など真骨頂。
いい気分で酔わせてもらった。
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読み始めると、いつの間にか巨大な迷路に飲み込まれてしまったような感覚。現実なのか夢なのか、はたまた他者に操作された記憶なのか、アイデンティティという物が頼りなくなって来る。過去と今、彼方と此方が離れた点から次第に近づき交差する巧みさ、濃密な香りが纏わりつくような空気感は、皆川さんにしか出せないでしょう。「すごい、すごい、すごい!」だけで既読者の間では意味が通じるかもしれませんw。