紙の本
彼女が過去を連れてやってくる。
2011/11/20 21:18
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投稿者:アヴォカド - この投稿者のレビュー一覧を見る
20年ぶりに再会したローラ。
彼女と話していくうちに、「わたし」は忘れようとしていた過去と対峙することになる。。。
『記憶』ものを書かせたら、この人の右に出る者はたぶんいない。
「死の記憶」「夏草の記憶」「緋色の記憶」「夜の記憶」「沼地の記憶」と、邦題に『記憶』を配したシリーズはどれも、読みやすさ、魅惑的な(時には何層もの)謎、単純ではない後味とで、常に読者の期待を裏切らない。
現在時に立って、過去のある時点に「あの時…」と思いを巡らせ、その時は気づかなかった事柄や、今になってわかる本音を少しずつ浮かび上がらせていく。
そして、本当は○○だったのではないか…と、一度は片付いているはずの過去の別の角度、別の姿を鮮やかに見せてくれる。
それが彼の作品の醍醐味と言っていいと思う。
行きつ戻りつ、記憶の澱みを点検していく過程は、時にまだるっこしさと紙一重だけれど、登場人物の記憶を洗い直していくその作業に付き合ううちに、読者は深みにはまっていく。
あれこれ出てくる引用句とそれにまつわる話や、ローラの口から出てくる映画やテレビ番組の話題が、キャラクターに色を添える。
ローラには、「白いドレスの女」の時のキャサリン・ターナーをイメージしながら読んだけれど、どうだろうか?
しかし、本作はこれまでの『記憶』シリーズと後味が大きく違う。
それが一番の驚きだった。
それは彼の年齢故なのか、経験故なのか、何か心境の変化なのか。
是非また次作で確認したい、と、またしても期待を抱かされながら、今までと違う余韻に浸るのも、また心地よいものであった。
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『記憶』ものを書かせたら、この人の右に出る者はたぶんいない。
「死の記憶」「夏草の記憶」「緋色の記憶」「夜の記憶」「沼地の記憶」と、邦題に『記憶』を配したシリーズはどれも、読みやすさ、魅惑的な(時には何層もの)謎、単純ではない後味とで、常に読者の期待を裏切らない。
現在時に立って、過去のある時点に「あの時…」と思いを巡らせ、その時は気づかなかった事柄や、今になってわかる本音を少しずつ浮かび上がらせていく。
そして、本当は○○だったのではないか…と、一度は片付いているはずの過去の別の角度、別の姿を鮮やかに見せてくれる。
それが彼の作品の醍醐味と言っていいと思う。
行きつ戻りつ、記憶の澱みを点検していく過程は、時にまだるっこしさと紙一重だけれど、記憶を洗い直していくには必要な作業で、登場人物のその作業に付き合ううちに、読者は深みにはまっていく。
20年ぶりに再会したローラ。
彼女と話していくうちに、「わたし」は忘れようとしていた過去と対峙することになる。。。
あれこれ出てくる引用句とそれにまつわる話や、ローラの口から出てくる映画やテレビ番組の話題が、キャラクターに色を添える。
ローラには、「白いドレスの女」の時のキャサリン・ターナーをイメージしながら読んだけれど、どうだろうか?
しかし、本作はこれまでの『記憶』シリーズと後味が大きく違う。
それが一番の驚きだった。
それは彼の年齢故なのか、経験故なのか、何か心境の変化なのか。
是非また次作で確認したい、と、またしても期待を抱かされながら、今までと違う余韻に浸るのも、また心地よいものであった。
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主人公ルークのもとに突然訪れた人物ローラ・フェイ。彼女は、20年前にルークの家族に起きた悲劇の発端を作った女性だった。
ローラ・フェイの目的とは一体…。
過去と向き合うことがどのような意味を持っているのか、特にそれが自分にとって思い出したくもない過去の場合には、そこにどれほど重大な意味があるのか。
レストラン。1つのテーブルを挟んで、向かい合わせになったローラ・フェイとの対話によって、ルークの過去が次第に明らかにされていきます。
ルークの主観により過去を紐解く…ルークの職業が歴史学者であり、彼の妻が口にした『エディプス・コンプレックス』という言葉は、今にして思えば非常に大きな伏線でした。
ローラ・フェイとの会話によりルークが信じて続けてきた過去の前提が崩れ去ると、物語はいよいよ核心へと近づいていくのですが…。
ローラ・フェイがルークを訪ねてきた本当の理由に、込み上げてくるものを感じました。
レストランで行われた会話という形式を取りながら、回想や対話によって過去の情景を鮮明に描き出す作者の筆力は言うまでもありません。
---『気が滅入ることもあるけど、ほんとうは人は過去のことを考えるべき』
この作品を読んで、過去とはどこまでも未来のためにある、という言葉を思い出しました。
物語のラストに、ルークが見いだした『人生の最終的で最大の希望』には、とても共感を覚えたものです。
2人の会話が真実をあぶり出す本作は、とても静かなミステリでした。
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アラバマの田舎町で一番の秀才と目され、ハーバードに進んだルーク。歴史書の傑作をものするつもりだった彼は、しかし、三流大学の退屈な教授にしかなれなかった。彼の人生に常に暗い影を落としてきたのは、田舎を出る直前、家族に起きた重大事件だった。ある日、彼の前に、かつての事件の鍵を握る女、ローラ・フェイが現れる。
ホテルのバーで語り合う2人。ローラ・フェイとの会話は、ルークを若かった「あの日」に引き戻していく。嫌いだった退屈な町、事件に関わる些細な出来事、そして他人や自分が犯した罪。
ローラ・フェイは何をしに再び自分の前に現れたのか。あの事件とは自分にとって何だったのか。
ほの暗い琥珀色を思わせるバーの片隅と、アラバマの田舎町を行き来する描写がすばらしい。
ローラ・フェイの思わせぶりな言葉の数々が、酩酊した雰囲気の中、不穏で暗鬱なものを引きずり出してくる。
「何者かになるはずだった秀才(=自分)が、結局のところたいしたものにはならなかった」という苦い感慨は、40歳前の男が抱くには少々老成しすぎているように思われ、ちょっと違和感があった。が、最後まで読むとその疑問も一応は解決される。
思いの外に明るい結末は、夜のバーから、いきなり昼の明るさに舞台が移ったかのよう。それまでの空気との違いから、少々ちぐはぐな感じを受けないでもない。だが、「この先」を様々に想像させる温かさは、余韻に満ちて救いを感じさせる。
*ミステリというよりは家族の物語。そういう意味では、前に読んだジョン・ハートの『川は静かに流れ』をちょっと思い出した。が、本作の方がさらに内省的かな。
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講演のためにセントルイスを訪れた歴史学者ルーク。しかし、会場には、再会するとは夢にも思わなかった人物が待ち受けていた。その名はローラ・フェイ・ギルロイ。20年前、遠い故郷でルークの家族に起きた悲劇のきっかけとなった女性だ。なぜいま会いに来たのか?ルークは疑念を抱きつつも、彼女とホテルのラウンジで話すことにした。だが、酒のグラス越しに交わされた会話は、ルークの現在を揺り動かし、過去さえも覆していく……。謎めいたローラ・フェイの言葉が導く驚愕の真実とは?
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しがない歴史学者が、ある女性とともに昔を振り返るというストーリー。現在と過去がゆらゆらと入れ替わり、ひとつひとつのエピソードの積み重ねが、徐々に読み手に響いてくる。
20年前の事件の真相がキーワードではあるのだが、ミステリとしての印象は薄い。印象は薄いが、しっかりミステリに仕上げてくる質の高さはさすが。
ラウンジでの会話は腹の探り合い。手持ちのカードをじらしながら見せていく駆け引きからどうにも目が離せない。そこから感じ取れるある種の悪意が、過去と微妙にリンクする。さらに先入観が加わり、じっくりゆっくりと歯車が狂っていくねじれた展開が非常によい。
地味に仕掛けたミスリード。思い込みと先読みの向こうに待っているラストは意外でも、何となく救われる。虚脱感を味わっても読後感は悪くない。これがクックの真骨頂なのよね。
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最初の一文がまさにクック。
意味深な書き出しで、初めは何がテーマなのかすらわからないが、次第に焦点があってくる独特の展開が健在。
しかも今作は、現在の主人公はテーブルトークをしているだけで、ほとんど時間が進まないという新たな試みまでされている。
そのテーブルトークの不気味さ、緊迫感が最後まで途切れないところがまたすごい。
ただまあ肝心の謎とその解消についてはいつもより深みがなかったかなぁと感じた。
■このミス2012海外18位
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うむむ、やっぱりクックは好きになれないなあ。思わせぶりが過ぎる感じがして。特に本作は遅々として話が展開せず、「真相」にも意外性がない。それでも読ませるところがクックたる所以とも言えるが。
クックといえば「文学的」としばしば評されるが、それはどうなんだろう。主人公が人生について考えればブンガクなのか?「記憶」シリーズなんかかなり下世話なお話ばかりで、大どんでん返しも含めてむしろそこが魅力なんじゃないかと思う。そういう意味でも本作は中途半端な感じ。
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今はどうだか知らないけれど、30年ぐらい前は日本もこんなことがあったんじゃないだろうか。
進学率がどんどん高くなって、親父は中卒で息子は大学卒。
親父は中卒で、しかも知能指数よりも体力が求められた時代に育ったものだから、子供が(そして母親が)どうしても上の学校へ進学したい(させたい)というのが、理解できない。そこまで無理しなくても俺の跡を継げばいいじゃん、俺も親父の跡を継いだんだから。俺も貧乏だけど、近所もみんな貧乏だ。
見てはいないけど、きっと「ALLWAYS三丁目」の世界?
大学に行こうという息子から見れば、親父のガサツさは耐え難いというのは、容易に想像できるね。
とは言え、今でもオヤジはパンツも一緒に洗ってもらえないくらい家族中から蔑まれているから、あまり昔と変わらないのかもね。
主人公もなまじインテリだから、過去を引きずっているだけで、親父並みのDQNなら、気にも留めなかったかもね。でもそうだと、結局本は書けないわけで。
息子や娘から蔑まれるのは、男としての悲しい宿命なのでしょうか?
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一つの勘違いから発展した殺人事件を、数年後に再会したものたちがお酒を交わしながら紐解いていくお話。
主人公含めみんなコミュニケーション不全すぎ。
でも単なる推理小説じゃなくて、人間模様がちりばめられていて面白かった。
あとは自分の周りに居てくれている人を大切にしようと思えるお話でした。
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この作者の中では、結構早くから結末が見えた作品かと。
読ませるけどねえ。
なんとなくどういう展開になるか、わかっちゃったんだけど。
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歴史学者のもとに、20年前の知り合いが訪ねてくる。彼女は、彼の家族が崩壊するきっかけを作った女だった。
二人は、酒を飲みながら過去を回想する。
淡々と二人で話しながらお酒を飲んでる話です。
クックらしい仕掛けがないわけじゃないけど、非常に淡白な感じ。それゆえに、切ない。
結局のところ、永遠に理解しあえることがなかった父と息子の悲劇なんだろう。
そして、父の店の店員だったローラが、花を添えるのかと思いきや、彼女は傍観者でしかない。ただ、息子はそうではなく彼女こそが物語の軸だと思ってたんだけどね。
自分が、人生という物語の脇役でしかないことを受け入れる彼女の潔さが心地よかった。
多くの間違いと、悲劇があったけれど、時間はそれらを昇華していくし、人はそれを乗り越えようと思えば乗り越えていけるのだと…。
クック、作風が変わりましたか?
たたみかけるような悲劇で読者を打ちのめしていくクックもいいけど、こういうクックもよいなと思います。
つか、何書いてもやっぱ上手い。
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「人の感情はこう描くのだ」
という手本をまたクックが見せてくれた。道尾秀介(作家)
20年ぶりに再会した女性と交わす会話は、
わたひが忘れようとしていた過去をよみがえらせる――
講演のためにセントルイスを訪れた歴史学者ルーク。しかし、会場には、再会するとは夢にも思わなかった人物が待ち受けていた。
その名はローラ・フェイ・ギルロイ。20年前、遠い故郷でルークの家族に起きた悲劇のきっかけとなった女性だ。
なぜいま会いに来たのか?ルークは疑念を抱きつつも、彼女とホテルのラウンジで話すことにした。
だが、酒のグラス越しに交わされた会話は、ルークの現在を揺り動かし、過去さえも覆していく…。
謎めいたローラ・フェイの言葉が導く驚愕の真実とは?
結局のところ、それは永遠に埋まらない父と子の確執であり、
そこに人間のちょっとした仕草、言動、行動、勘違いが契機となって悲劇は起こるのだ―
現在のローラ・フェイとの会話から、過去をゆっくりと紐解いてゆく。
「きみの人生の最終的かつ最大の希望は何なんだい?」
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もっと,あっと驚く展開かと思っていましたが,想像ほどではありませんでした。
そうとはいえ,会話だけで,人間の複雑な心理を描き出していく手法は非常に斬新です。
次第に明らかになっていく登場人物の心理にはちょっとぞっとさせられました。
ラストは前向きな感じでよかったです。
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過去への追憶、取り返しのつかない過ち、破壊された家族など、クックにお馴染みの主題。乾いた貧しい町を出て〈ここではないどこか〉〈より多くを持つ自分〉を夢見、そのためにはどんな代償をも払うと決心するティーンエージャーの〈わたし〉がぐっとくる。結局のところ〈わたし〉が果たしたのはアメリカン・ドリームなのだけれど、その影でなにを犠牲にしてなにを踏みつけにしたのかが、徐々に明らかになっていく展開がハラハラする。彼ほどの過ちは起こさないまでも、彼のように苦渋の決断をして〈死人のような様子で〉都会に出た若者は意外に多いのではないかと思う。
記憶シリーズのような打ちのめされるラストでないのも新鮮だった。たまにはこういうクックもいいと思う。