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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2008.5
- 出版社: 東京大学出版会
- サイズ:22cm/276p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-13-023054-4
- 国内送料無料
紙の本
天皇・天皇制をよむ
著者 歴史科学協議会 (編),木村 茂光 (監修),山田 朗 (監修)
「天皇」「天皇制」を考えるうえであらためて知っておきたい、最新の歴史学研究に基づいた68のテーマを、通時代、古代、中世、近世、近現代の順に項目を立てて配列した「よむ事典」...
天皇・天皇制をよむ
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商品説明
「天皇」「天皇制」を考えるうえであらためて知っておきたい、最新の歴史学研究に基づいた68のテーマを、通時代、古代、中世、近世、近現代の順に項目を立てて配列した「よむ事典」。【「TRC MARC」の商品解説】
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紙の本
天皇・天皇制について書かれた現在望み得る最良の啓蒙書
2008/06/03 21:16
9人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
天皇・天皇制を巡る問題は、現代日本に常に大きな影響を与えている。対外的には、日本の首相や要人がアジア諸国を訪問する際には、戦時中の加害責任、とりわけ天皇制と一体になって遂行されたアジア・太平洋戦争の戦争責任が絶えず問われる。国内的には、皇室の嗣子問題や皇太子妃の精神的な病が国民の強い関心の的となっている。このように、天皇制に関わる事項は現代日本にあって大きな問題となっているが、我々は天皇制についてどの程度の正確な知識を有しているのであろうか。
本書は、天皇・天皇制を巡る問題について、戦前を思わせる内容であったり、戦後の研究成果を踏まえないで発言されていることが多いことを危惧した歴史学者たちが、最新の研究成果を集大成して編んだ歴史啓蒙書である。とは言っても、体系的に天皇・天皇制を解明するというかたちは取らずに、関係する六八の個別テーマから構成されるガイドブック的なスタイルをとっている。最初に、共時的に天皇・天皇制を理解する項目が立てられ、続いて古代から現代へと至る時代の流れに沿って問題が設定され論じられている。
本書の特色を挙げるとすれば、まず第一に、ページ数が限られているにもかかわらず、各論考のレベルが非常に高いことである。通常、この種の寄稿集は寄せられた論考の出来栄えにむらが見られることが多いが、本書に限っては、査読の際に一定のハードルを設けているためか、各論考は平易に書かれていながら水準を越える内容となっている。とりわけ、中世や近世において、公武の間の軋轢から生じた事件についての斬新な解明は教えられるところが多い。編者が「まえがき」で、現在において、天皇制についての最高水準の書物であると自負していると述べているのも肯ける。
第二の特色としては、天皇制がアジア・太平洋戦争の遂行に大きな負の役割を果たしたことを明確に示していることである。特に、昭和天皇の戦争責任に対する無答責論、つまり天皇は国政上単なるロボットに過ぎないのであるから責任問題は生じないとする見解には、実証的に反駁を加えている。
また、昭和天皇は、戦後に共産勢力の伸張を恐れるあまり、アメリカによる沖縄軍事占領は、日本に主権を残したうえで長期の貸与とするうえでなされるべきであるというメッセージをアメリカ側に送っていたことがアメリカ公文書館所蔵史料から明らかにされている。これは、後に沖縄占領がほぼこのかたちに沿って行われたことを思えば、昭和天皇のこのような行動は、象徴天皇制の枠内を甚だしく逸脱する重大な「政治行為」と言わざるを得ない。
最後の章では、天皇の日常生活や後継者問題、雅子妃のことなどの情報も盛り込まれており、天皇制や日本の歴史について関心を有する人たちにとって極めて有益な書となっている。
最後になったが、現在の厳しい出版事情にあって、また社会が右傾化する中にあって、敢て本書のような良心的で学術的な書物の刊行に踏み切った書肆に対して心からのエールを送りたい。