紙の本
舌なめずりして楽しみながら書いている!
2012/07/12 07:17
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る
朝日新聞の朝刊で、もはや何の噺だったのかも分からず意味不明の学校ネタと自動車ネタを小林秀雄の晩年の講演会の如く垂れ流している奥田英朗、伊坂幸太郎。そして吹けば飛ぶよなこんにゃく文体で下らないヨタ噺を書き飛ばして原稿料を略取している重松清に失望落胆かつあきれ果てたら、この1冊を手にとってみよう。
オースターは毎年1冊のペースで力作を出し続けているようだが、これは2005年の作品でニューヨークのブルックリン界隈に棲息する市井の人々のいかにもありそうで、しかし絶対にない話を抜群のストーリーテリング術を駆使、するのみならず、舌なめずりして楽しみながら書いている! から空恐ろしい。
「私は静かに死ねる場所を探していた」
という出だしからして読む者をじゅうぶんに惹きつけるが、続く数ページでもはや読者は完璧に著者が繰り出すものがたりの蜘蛛の糸の虜になってしまうに違いない。
んなわけであるからしてあらすじ等については触れないが、晩年のカフカが公園で出会った人形を無くして悲しんでいる少女のために、なんと3週間続けて渾身の力を振るって人形からの手紙を書き続けた、という感動的な逸話ははたして本当なのかしらん。
そんな手紙は少なくとも私が読んだ2種類の全集には収められてはいなかったが、これもオースターの「天才的な」作り話だったりして。
ともあれ小説家のプロの仕事の最良の見本が、ここにある。
そんな情けない声でしか鳴けないのかニイニイゼミ 蝶人
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オースターのなかでも明るくて読みやすい作品。死ぬつもりが何だが気付けば…という話です。でも落ち着けないエンディングでもあり。
忍び寄る影を漂わせるところ、油断ならない
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近年はちょっと惰性で買ってた感もあるのだけれど、これは掛け値なしにおもしろかった。登場人物の軽妙な掛けあいが命の物語に柴田元幸の飄々とした訳文がぴったりマッチ。 個人的にいちばん好きなのは「最後の物たちの国で」なのだけれど、あれはどっちかというと彼の作品では異端。今作はNY舞台のオーソドックスなオースター節でメインストリームの読者受けもよろしいと思う。
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ポールオースター「ブルックリンフォリーズ」http://t.co/TvmpjZtn 読んだ、良かった。。。オースターには、無機質でひんやりと沈んだ世界と、温かく前向き(でもウェットさは無い)世界との2つがあると思うけど、これは後者。楽天的ってすばらしい。(つづく
辛い経験や酷い事件や悲しい出来事もあるけれど、全体は暢気。人が生きていく力強さを感じる。「本の力をあなどってはならない」には本無しの生活が考えられないわたしにはぐっときた。で、そのまま終わるのかと思いきや、最後に、ある驚きが。落とされる影に、しばし考え込んでしまった(おわり
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今まで読んだオースター作品の中で最も読みやすい物語。
主人公以下、傷ついていたり、落ちぶれていたり、苦しんでいたりしているものが、少しずつ集まっていきポジティブな方向へと進んでいく。
さまざまな人々が暮らすNYはブルックリンらしい物語。
そこに暮らす人々の語り口は軽妙でユーモアにあふれとても暖かい。
いつか訪れてみたい町のひとつ。
ラストの少しの不安を呼び起こしたうえ、それでもプラスの言葉で終わったところ、そして書物に関する著者のスタンス。
心震えました。
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離婚し退職し癌になり娘とも上手くいかなくなったネイサンの、ところがどっこい、人生まだまだ捨てたもんじゃないってお話。ユーモアと含蓄ある会話、そして何より人に対しての鋭い観察力。ストーリーも面白く、訳が素晴らしい。
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渋谷の書店でオースターの読書会があるというので、いい機会だから他のコミュニティに乱入するつもりで新作『ブルックリン・フォリーズ』を買って読んだら直前になって最少催行人数に満たなかったので中止と連絡があった。なんだがっかり。なんならふたりでもいいんだけど。いや、申し込んだのってわたしだけだったのだろうか?
でもそんな機会がなければ買って読まなかったかもしれない。内容は、保険会社を定年退職したバツイチ男性ネイサンが生まれ育ったブルックリンに戻ってきて、かつて溺愛していた甥に再会する。
英文学の大学院に進学し、将来は学者と期待されていた甥のトムは落ちぶれてタクシー運転手になり、かろうじて今は古本屋のスタッフとして働いている。ふたりは共に食事をする友を得て、トムの古本屋のゲイの店主、トムが恋焦がれるセクシーな人妻など、街の人々とも徐々に近づき、疎遠になっていた親戚付き合いも再開されていく。
徐々に登場人物が増えていくが、それぞれの人生が丁寧に描かれていて好感が持てる。甥のトムのさらに姪の少女が転がり込んできたことと、それをカフカが公園で出会った少女と重ね合わせるトム。それは場面を展開させる象徴的なできごとであること、カフカが保険局員であったことと、ネイサンがかつて保険外交員であったことも物語の中ではその共通点にはあえて触れられていないが暗に重ねている。
かつて文学を専攻しならがも学者になれなかったトム、もはや作家にはなれないと思っているネイサン、そしてある程度の本好きを想定されているのか、数々の文学者の名前が連なる箇所は読者を楽しませる。
舞台が代わり、スリルとサスペンスがあり、もしかして最後は遺産が転がり込んでめでたしめでたしってそれって『ムーン・パレス』と同じパターンじゃん!と思ったらそれでもまだ終わらなくって、主人公ネイサンが幸福を確信したその瞬間、アメリカのあの瞬間の直前まで。これはきっと、ありふれたわたしたちの物語、読者はそこに共感するのだろう。ラストの描かれ方に感服。こんなふうに生きていくわたしたちにある日とつぜんやってくる。テロや震災が。
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★★★☆☆
取るに足りない愚行と神に背く愚行
【内容】
元保険の販売員、離婚して一人暮らしのネイサン。
甥で、本屋の店員のトム。
本屋のオーナーのハリー。
トムの妹で行方不明の未婚の母ローリー。
どこかでつながっている普通の人々の、愚行を描く群像劇。
【感想】
タイトルの「フォリーズ」は「愚行」のことである。
「愚行」を辞書で調べると、「考えの足りない、ばかげた行い。」と書いてある。。ちょっと違うな。
決して、"ばかげて"はいない。数奇なといったほうが適切だろう。
群像劇で登場人物も多いので、意識しないとちんぷんかんぷんになってしまう。
登場人物たちの「愚行」は、所詮普通の人間が行う普通の出来事だ。(かわいいものだ)
ただ、本書の最終ページの「愚行」は、人間の仕業ではなく、「かわいい愚行」の世界を文字通り木っ端微塵に崩壊させる悪しき行いだ。
ポール・オースター作品はほとんど読んでいるけど、一番難易度が高かったな。
あと字が小さいくて行間が細い。。。。。なんど同じ行を読んでしまったことか。
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ブルックリン・・・
ようやくその人生の終わり近く(なんと9・11のわずか46分前)に、
価値を見出したかに見えた主人公ネイサンが、彼の生まれた街
ブルックリンに戻ってきたのは、その愚行ばかりだった人生の
終結場所としてふさわしいと考えたからだった。
今回のオースターを読んでみて、一見愚行としか思えない選択肢
を結局は選んでしまう主人公や名もない人たちの物語が、とにかく
温かく描き出されることによって、人生(愚行)を受け入れることの
幸福を素直に信じられるような、そんな読後感を持ってしまった。
この世のあらゆるファクターを包摂してやまない街ブルックリンは、
まさに「人」が生きてゆくにふさわしい街なのだろう。
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オースターを読破しようと思って、読み残していた初期作品から、近年の作品まで、とにかくオースターにどっぷりの最近。
オースターの代名詞であるニューヨーク三部作、近作の「幻影の書」に「オラクルナイト」どれも素晴らしくて、読み終わるのが勿体無く思えてしょうがなかった。
その後に読み始めた最新作の「ブルックリン・フォリーズ」、ゆっくりゆっくり読み進めよう。一語一語をかみ砕くように読もう。
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ポールオースターの最新長編。「幻影の書」以降、復活した感がある。今回も面白い冒険譚だった。
初老の主人公が、ブルックリンの愚行というだけあって、若干のスラップスティック的な展開も見せつつ、他人の人生に良い影響を及ぼしながら、成長していく。この軽妙さがいい。だが、うっすらと見える9・11。
日本語訳では最新長編でも、年代的にはあのテロの後に書かれた初の長編であって、オースターにはまだまだ未訳の長編がある。これ以降の長編では、テロの影響を感じさせる暗さがあるという。
あまりにもダメージが大きくて、このような軽妙さと、市井の人々に展開される希望の毎日、それを描く中にうっすらとテロの影を描くことしか出来なかったのか。
この後に出てくるオースターの長編が早く読みたくなる。とても面白かった。そして、この後にさらにすごい所に行こうとしている事が見える、そんな長編だった。
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タイトルのとおり、中年の男やもめが、故郷のブルックリンに帰ってきてからの「フォーリーブズ(=おろかな話)」である。
ストーリーが強くあるわけでもなく、うっとおしいほどの日常描写なんだけど、反面、その細かい描写というのは、語り手の人格がよほど作りこまれていない限り破綻するのである。書き手にとっては手が抜けない。
個人的な感想は「語り手が語るだけで面白い本」である。
もちろん語り口調が絶妙だからなのだろうけれど、生きているだけでいいんだよ、と思える。
この本を読んだ日に「最強のふたり」という映画を見たこともあり、いやー……生きてるのってすばらしいね、という気持ちになりました。
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相変わらずいいものを読ませてもらえた。
ストーリーが本当に面白い。
ブルックリン界隈での言葉のやり取りは、
英語のまま読むべきところなので、
少し悔しい思いをした。
ふんわりした気分を、
最後のところでビシッとしめてもらった。
うまいなぁ。
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眠りの効能について、食べ物とアルコールの楽しみについて、二時の太陽の光のなかに歩み出で体が空気に温かく抱擁されるのを感じるときに心に起きることについて語りたい。
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美しいNYの風景。
映画化されたら素敵だと思う。
ブルックリンに住む個性的な人々の群像劇なんだけど、どの登場人物も愛すべきキャラクター。
人生に不器用ながら成長していく過程に、
ウィットに富んだ会話に、こちらまで元気づけられるし、読んでいて楽しかった。
何よりも作者のブルックリンを見つめる眼差しが温かい。
誰でも文学的なことを考えるときって、多かれ少なかれ、主人公みたいな心境になること(主人公は人生こんなハズじゃなかったと感じてる平凡な中年)が多いので、作者の目の付けどころにもやられた感がある。