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商品説明
都内の麻薬取引ルートに、正体不明の勢力が参入している—。裏社会の変化に後手に回った警視庁では、若きエース安城和也警部も、潜入捜査中の刑事が殺されるという失態の責任を問われていた。折しも三顧の礼をもって復職が決まったのは、九年前、悪徳警官の汚名を着せられ組織から去った加賀谷仁。復期早々、マニュアル化された捜査を嘲笑うかのように、単独行で成果を上げるかつての上司に対して和也の焦りは募ってゆくが…。【「BOOK」データベースの商品解説】
警視庁の闇を呑んだ男、加賀谷が復職した。再び対峙する若きエース、安城警部。裏社会の変化に後手に回った安城たちを嘲笑うかのように、加賀谷は単独行で成果を上げる。安城の焦りは募ってゆき…。『小説新潮』連載を書籍化。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
佐々木 譲
- 略歴
- 〈佐々木譲〉1950年北海道生まれ。「エトロフ発緊急電」で日本推理作家協会賞、山本周五郎賞、日本冒険小説協会大賞、「武揚伝」で新田次郎文学賞、「廃墟に乞う」で直木賞を受賞。
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紙の本
悪徳警官の汚名のまま追放された最強の捜査官・加賀谷仁が戻ってきた。不条理世界で生きるこのニヒリストに警官の誇りはあったのか。
2011/10/19 00:02
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
2011/10/17日経紙「春秋」にこんな記事があった。
暴力団が用心棒代(みかじめ料)を要求すると公安委員会は「やめるように」と命令をだし、従わない場合は罰則があるというのんびりした対応だ。ところが都道府県条例ではこうした時に会社や商店が暴力団にカネを払うと名前を公表されたり処罰されたりする。市民は生身のまま暴力団と対峙することになっている。心配なのは暴力団からの反撃だ。暴力団の襲撃が絶えない北九州市で雰囲気を尋ねると「『警察と暴力団のどちらについた方がいいか考えている人もおる』と、冗談ともつかない答えも聞かれた。次は当然、国や警察が踏ん張る番である。」
私は、警察官の使命はなによりも市民の生活・安全を守ることにあるのだと思う。この小説の主人公たちと同様、現実の警官も使命感を持って踏ん張ってほしいとの思いをあらためて強くした。
佐々木譲の警察小説には2007年に発表された『警官の血』 がある。警察官の使命とは何か、正義の追及とはなにか、を問いつつ、戦後から現代までその時代とともに生きた警察官の一族、親(安城清二)と子(民雄)と孫(和也)の人間を描いた大河小説である。本著『警官の条件』はこの名作の続編に当たる。一般には「続編」というものは「本編」よりもレベルが下がるものだが、この作品は違っていた。深みを増したシリアスな人間ドラマに前作に劣らぬ共感を覚えた。
それだけではない。捜査・追跡・捕捉活動のスリリングな展開と過激な暴力というエンタメ性が加わっているだけ、より魅力的な作品として完成している。
警察が組織ぐるみで裏金をつくり、そのカネを情報収集のためにふんだんに使い、組織暴力摘発の実績を上げていく。一匹狼・加賀谷仁は服務規程を無視し、違法な捜査も辞さず、暴力団の幹部たちと貸し借りの関係をつくりながら、裏社会と密着、独自の情報ルートを作り上げ、抜群の結果をだしていた。彼は高級マンションに住み、外車を乗り回し、一流のクラブの上客でもある。
ところが時代は変わった。警察批判の高まりからこうした体質は改善がせまられた。加賀谷の捜査をバックアップしてきた警察庁の大物も失脚、警察内の新勢力は腐敗体質のシンボル・加賀谷の追い落としを画策する。加賀谷の部下として配属された安田和也は加賀谷の人物に心酔するが、加賀谷のスキャンダルを告発する内命を受けていた。和也の働きで加賀谷は覚せい剤所持容疑で逮捕される。
これが『警官の血』のラストと重なりながら物語のスタートにあたる。警察とは、上位の命令に服従する硬直的官僚組織、上層部の権力抗争、キャリア・ノンキャリアの差別社会、内部犯罪に対する隠蔽体質、仲間内の強烈な結束と露骨な足の引っ張りあいが両立する競争社会、犯罪組織との情報交換が必要悪として成り立つ正義遂行の機関、権力に弱いが権力を振るえる暴力装置である………と。そういう特異体質の組織で、捜査プロセスが正か悪か自ら確信できないままに、本来の任務を果たそうとしてもがく安田和也。この不条理の世界で、警官個人の寄って立つ根本精神はどこに?
物語の背景をドキュメンタリータッチで叙述する、簡潔でしかも濃密な幕開けだ。
ところがマニュアル化された捜査からは肝心な情報が得られず、警察全体に焦燥感が高まってきたのだ。汚れた英雄、多賀谷待望論が沸き起こる。
「都内の麻薬取引ルートに、正体不明の勢力が参入している。裏社会の変化に後手に回った警視庁では、若きエース安城和也警部も、潜入捜査中の刑事が殺されるという失態の責任を問われていた。折りしも、三顧の礼をもって復職が決まったのは、9年前、悪徳警官の汚名を着せられ組織から去った加賀谷仁。復帰早々、マニュアル化された捜査を嘲笑うかのように、単独行で成果を上げるかつての上司に対して和也の焦りは募ってゆくが………。」
「交錯する不信、矜持、ラストシーンでほとばしる激情。」
いささかまだるっこいスタートなのだが、「正体不明の勢力」が現れるあたりから、物語はヒリヒリする緊張感がラストまで張り詰める展開を見せる。絶対不敗が前提となったスーパースターが活躍する冒険活劇ではない。ディテールを積み重ねたリアリズムに徹している。潜入捜査官が見破られるシーンにゾッとする。携帯電話のGPSによる追跡のリアリティに手に汗を握り、その尾行がまかれるところで不安感に襲われる。
哲也が率いる組織犯罪対策部第1課2係と第5課とは角つき合わせて同じターゲットを追う。ここに哲也とは因縁が深い加賀谷の単独捜査が加わる。それぞれに裏社会の情報提供者がおり、情報は錯綜する。「正体不明の勢力」は既存組織と対立関係にある。情報提供者には二重スパイもいるから情報は敵を利するものかもしれない。この複雑な構図で加賀谷の行動が光るのだがその内心はまったく表現されない。つまり読者は八方塞の謎に翻弄されることになる。とにかく上質のサスペンスフルミステリーだ。
「警視庁の闇を呑んだ加賀谷仁。彼を部下として告発した安城和也。9年後、再会した二人を駆るのは憎悪か誇りか………」
女性が絡らむ二人の微妙な人間関係のドラマがあって、一般の警察ミステリーを越えたところの文芸作品の香りが漂う。
『警官の血』から『警官の条件』まで「ホイッスル」(警笛、呼子のことで今でも警官への支給品になっているようだ)という小道具が実に印象的な使われかたをしている。哲也は祖父の代からのホイッスルを携行している。それは祖父が目指した駐在所警官、市民の生命と安全を守ることをもっぱらの使命とする警察官の誇りのシンボルである。市民の支持がなくては使命を全うすることはできないという生き方に徹しようとした祖父の象徴的形見なのだ。使命遂行が難しい不条理世界で一線を越えることがあっても、それを矜持とすることが「警官の純血」であり「警官の条件」だと語りかけている。
この作品の主人公は多賀谷仁である。
多賀谷仁とはなにものであったのか?
和也が吹くホイッスルがすべてを語る感動のラストに心が震えた。