紙の本
メディアからは決して見えてこないイスラームの、もう一つの面を浮き彫りにすることに成功したノンフィクションの傑作
2009/10/06 00:03
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Skywriter - この投稿者のレビュー一覧を見る
人間は余りに多様だと思う。趣味や信条は人それぞれ異なるし、世界の認識の仕方も違う。おかげで個性豊かな集団が保たれている。
生が複雑であるように、性もまた複雑である。欲求が多い人も居れば、少ない人も居る。同性に惹かれる人も居れば、大勢の異性を必要とする者も居る。だが、そこに一つのルールを持ち込んで、ルールから外れた者を容赦なく排除しようとしたらどうなるだろうか。それが、本書で描かれている世界である。
例えば娼婦。例えば、僅かな日銭を稼ぐために体を売る子供たち。あるいは、同性愛者。彼らは望んでそうした生き方をしているわけではない。已むに已まれぬ理由があってそうしている。
しかし、彼ら・彼女らを待ち受けているのは過酷な現実である。
性器を破壊された過去がありながら、それでもどうしても男性と一緒に居たくてたまらない女性。早くに親と死に別れ、路上生活をしながら時に体を売る子供たち。この子たちは、セックスの間だけは大人と触れ合うことができるから、それを厭うことをしない。
どの話も、胸の奥深く、感情の宿るところを鷲掴みにしてくる。抑圧された性の世界の現実は、余りに重い。
著者がイスラームの世界で何に巡り会ったか。ちょっとでも興味をもたれた方は是非本書を取って欲しい。メディアが報じる画一的な世界ではない、生きたイスラームの社会が目の前に現れてくると思う。
事実によって読む者を圧倒する、ノンフィクションにおける文句なしの傑作である。見知らぬ世界を垣間見せてくれたことだけではなく、メディアとは違う世界をしっかりと見せてくれたことに深く感謝したい。
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ややフィクションのにおいが感じられる部分もあるが(現地の人の行動・セリフの一部)、久々に面白いノンフィクション。面白さに文句はなし。
イスラム教というと、どうしても遠く離れた文化のように感じてしまうが、人間が作ったシステムであることには変わりない。
どうしてその習慣ができたのか、と、理論的に考えることは可能なはずだ。
そこに純粋に切り込めるのは、無宗教の国で育った筆者の天分なのかもしれない。
一夫多妻の話は、目からウロコ。
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そもそもはイスラム社会におけるSEXとは、どうなっているのだろうか。というある種覗き見的な著者の興味があって、それを知るにつれ、底なしの暗い陰の中を彷徨う感じがよく出ているノンフィクション?だ。なぜ?をつけるのかと言えば、著者の語学力からして、多分、取材対象者の言葉としては、やたらと流暢な感が拭えないからである。ただし、そのことがこの本のよさを損なっているのかといえば、そうでもない。人はどうしてそれでも生き続けなくてはならないのか。考えさせられる一著である。
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重いテーマ、衝撃的な内容の割には、あっという間に読了できた。内容については、なんともコメントしがたいが、私は手にとってよかったと思う。
帯には体験的ノンフィクションとあったが、個人的にはドキュメント風旅行記という印象。取材といいつつ、下調べをあまりせず、個人的な興味による行動も多く、どうかなぁと思わないではないところも多く感じる。
でも、いい意味で詰めの甘さがあるからこそ、このように辺境の下層社会で生きざるをえない人々とも交流でき、このような本ができたのではないだろうか、とも思う。
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★パワーに感服★強い男とベールをかぶった女。ステレオタイプなイスラム像に不満を感じ、売春宿やスラムを訪れたルポ。わずか半年に10カ国近くを訪れ、案内役を駆使しながら現地にもぐりこんだ行動力が素晴らしい。信じられないくらいの密度だ。常に甘えてくるスラムの子供、売春を余儀なくされるアフガニスタンの男児…。現実が伝わらない下層生活を、自らを主人公に置いて描く迫力には圧倒された。ひとつ疑問をあげるなら、彼らは自らが信じるイスラムとの折り合いをどう付けていたのか。教えに反しても宗教は捨てられないのか。無宗教の日本人には理解しがたいところだけに、より詳しく知りたかった。もうひとつ、「自分で何かをしてあげたい」とも著者は思っていたようだが、ルポのために訪れた短期間でどうにかするのは無理なのは自明。その悩みは分かるが、本に長々と記す必要はなかったのではないか。それは裏でやればよい話だろう。イスラムのより深い知識と立ち位置をはっきりさせればより読み応えが生まれるだろう。
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イスラームの夜を歩く、の副題通り、筆者がイスラム世界を歩いてまとめたノン
フィクション。
戒律の厳しいイスラムの世界の性の現実を描いている。
性のことだけでなく、宗教や部族間紛争、男女格差や生活格差など
ありとあらるゆ理不尽な現実は、
恵まれたなかで生活している自分には信じがたいものだった。
想像力が追いつかず、
現実と分かっていても、物語のように感じてしまう。
明確に分かれた善と悪はなく、ひどいめにあっても国も法も守ってくれない。
そんななかで笑って生きていけるのはなんでだろう。
いくら平和を唱えても、世界を変えることはできなさそう。
人間を傷つけるのは人間でしかなくて、
困窮した現場で正論を唱えても、求められているのはそんなことじゃない。
じゃあ何ができる?
そんなことをグルグル考えさせられた衝撃の1冊。
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ノンフィクションというよりは、ルポルタージュ。
だがやはり、著者が内部まで入り込んだ臨場感がよく描かれてる。
浮浪児の女の子がお金目当てじゃなくて、抱きしめてもらう羽目に春を売るところが、
現代女性にも見受けられる「寂しくて誰かといたい」という気持ちと通じるものがあるなあと思った。
ぬくもりは誰にとっても最高の薬。
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内容(「BOOK」データベースより)
そこで見たものは、戒律から外れたイスラームの性―。辺境を探訪する体験的ノンフィクション。
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『物乞う仏陀』を読んだあとにすぐさま購入。
中盤、やりきれなくなって読むのが辛かった箇所も
あったけれど、世界の片隅におこる現実は息を呑むほど
残酷な場合もあるのだと驚愕の連続だった。
著者も私も裕福な国に住む若者。
自分に何ができるか、偉そうに言えないけれど、
ちっぽけなことしかできない私は、彼らの存在をそっと心の片隅において生活しようと思った。
強く生きる、美しき戦士たち。
叫びたくなるような痛みを、
泣きつぶれてくじけそうになるような現実を
抜け出そうとする戦士たち。
そんな人たちを石井光太は文章にして教えてくれた。
きっとそれが彼にできる、彼らへの愛なのだろう。
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どんな世界でもその人たちなりのルールがある。
それを安易に感情で他人が踏み込んではいけないのだと思った。
それでしか生きていけない人もいる。
それを幸せか不幸せかを決めるのは本人自身のみ。
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3日で読んだ。
イスラム圏の貧しい、底辺の底辺の生活を知った。
今この世界で起こっていることとは思えないことばっかり。
こちらの世界から見て、どんなひどい生活でもそれを周りがやってるとそれが普通になる。どんなことも。
教育は大切。でもそこまでいくのには、今は程遠い。どうやったら近づけるか。
今できることはないけど、まずは知ることから。
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イスラム社会の最底辺? 普通には見ることのできないすさまじい現実を白日の下にさらしてくれた。僕らと同時代を生きているとは・・・・確かにそういう現実があることは知識としてはあっても、それでも俄かには信じられない現実。道義的に、僕は今こういう生活をしていていいんだろう・・・なんてことまで考えてしまう。知らなきゃ始まらない。
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イスラム世界で夜に生きる人々を実際に作者が見聞きした話し。
娼婦、レディーボーイ、路上生活者等々。
親を亡くしたためだったり、紛争にまきこまれて、マイノリティーだったり・・・。
あまり日本人が知らないイスラム世界じゃないのかな。
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何の前知識もなく読み始めたけど、いろんなことを考えさせられた。
イスラム圏の各国を著者が実際に旅をして、表には出てこないような性にまつわる話をまとめたもの。
貧しい国のさらに貧困層の女性…とも呼べないような女の子達が、毎日を生き抜くためにどんな生活をしているか。
同性愛者の性処理の対象になっている仲の良い幼い兄弟。お互いに庇い合って、生きるために「働いて」いる。
どの国のどのエピソードもかなりショッキングな内容。
「仕方のないこと」と人々が言う。
日本がどれだけ幸せか、その格差に涙が出た。
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微妙である。
イスラーム世界の底辺でもがく人々を取材した作品。しかしまず第一に、話がまとまり過ぎている。醜い部分を“きれいに”書きすぎているのだ。
そしてなにより、著者自身が、知りたいというジャーナリスト本来の欲求を遥かに飛び越え、取材対象の現状にちょっかいをかけているのだ。もちろん、その度に筆者は反省している。しかしその反省も、なぜか心に響いてこない。従って、全体的に引っ掻き回しただけで終わっているという印象がぬぐえないのだ。