紙の本
「日本の礎を築く」心意気
2022/08/19 09:14
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投稿者:higassi - この投稿者のレビュー一覧を見る
明治の建築家・妻木頼黄を描いた作品。明治維新の「革命期」を経た後、本作の「日本の礎を築く」という時期の心意気に感銘します。終盤の「僕らの議院が完成したとき・・・きっとこの国は、自分たちの足取りを取り戻す。猿真似の欧化主義も、対露戦争に勝ったことで強国になり得たような勘違いも、すべて消えて、自分たちのやり方を見出していくだろう。新しい議院は、そういう話し合いがなされる場になるんだ」のセリフに全てが込められていますね。門井慶喜さんが辰野金吾を描いた「東京、はじまる」とセットで読むのが良いかも。
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強く美しく安定したもの
2022/03/15 15:26
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本の議会政治のシンボルともいえる国会議事堂。その勇躍とした姿は誰もが一度は目にしているだろうが、その建物がいつ出来上がったものかはあまり知られていないかもしれない。
国会議事堂が完成したのは昭和11年(1936年)で、大正2年(1920年)の着工開始から実に17年という長き歳月がかかっている。
しかし、実際には議事堂建設はずっと以前、明治の時代からその計画はあり、そのための多くの人材がそれにかかわってきた。
その一人が、木内昇(のぼり、と読む。男性の名前のように思えるが女性作家)の渾身の長編小説となったこの作品の主人公である妻木頼黄(つまきよりなか)である。
妻木のことを調べると、明治建築界の三代巨匠のひとりと出てくる。残りの二人は東京駅を設計した辰野金吾と迎賓館を設計した片山東熊だそうだ。
では、妻木はどんな建物の建設に携わったのか。
有名なところでは、本作の表紙にもなっている日本橋。そして、今や観光スポットでもある横浜の赤レンガ倉庫などだろう。
そして、彼が生存中にその姿を見ることは叶わなかった(妻木は1916年死去)が、国会議事堂の設計にも深く関わっている。
しかし、妻木は辰野らの在野の建築家たちと一線を画する個性派だったようで、この作品ではそんな妻木の生き方が彼に続く多くの若い人材に影響を与えたとことが描かれている。
「僕らが作っているのは景色だ。僕は、景色を汚すようなことはしたくない」と妻木は言う。昭和の時代から平成、令和と続く今の都市を見て、妻木ならなんと言っただろう。
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レビュー一番乗り
2021/12/05 12:39
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投稿者:GORI - この投稿者のレビュー一覧を見る
木内さんが得意なスジの通った職人風の物語。
国会議事堂は着工から16年をかけて昭和11年に完成。
その設計から建築を手掛けたのは、亡くなった建築家妻木頼黄に育てられた人たちだった。
江戸時代の美しい街並みを愛していた妻木は、欧米の近代建築を学びながら日本の優れた建築様式を融合し、新しい日本らしい風景を作ることを目指し、そして自分の後を引き継ぐ人を育てることに心血を注いだ。
妻木が大活躍するのが第二章
日清戦争を控え、急遽広島に帝国議会を開く議場をたった半月で建てた時の妻木の奮闘ぶりは圧巻の一言。
妻木と一緒に仕事をする大迫さん、沼尻、槍田なども個性的で頼もしい。
妻木が手がけた日本橋をしっかり眺めたくなる。それも橋を渡り、遠くからも眺め、下からも眺め、妻木さんの想いを眺めたい。
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明治の建築家・妻木頼黄を描いた物語。
さすが、木内さん。と唸りたくなるような、読み応えのある秀作です。
維新後、江戸から東京になり、何でもかんでも“西欧化”する風潮の中で、江戸の街並みを愛し日本の風土を踏まえた街づくりにしたいという、妻木さんの心意気が本書の随所から伝わってくるようです。
建物は、建築家だけでなく大工等の職人たちとの協力体制が必須で“皆で造り上げるもの”という点から、机上で作図するだけでなく、現場に赴き職人達と信頼関係を気づきあげる妻木さん(最初はその妥協を許さない姿勢からウザがられる事もありましたが)。
特に広島での仮議院造りは圧巻で、期限も予算もない中での無理難題を受けて立ち、現場の大工達や弱音吐きがちな部下達をまとめ上げてより良い建物を造ろうとする姿勢がカッコ良かったです。
寡黙ながら超一流大工の大迫さんも、いぶし銀の魅力でいい味出していました。
他にも日本勧業銀行、日本橋の装飾意匠等々・・数多くの建築に挑み多忙を極める妻木さんですが、その才能が求められると同時に“西欧化至上主義”的な人達、所謂“アンチ妻木”からの批判もありました。
妻木さん自身は欧米でがっつり建築を学び、その先端技術を巧みに取り入れていたのですけどね・・。
悲願だった国会議事堂の建設に携わる前に息を引き取ってしまう妻木さんですが、“妻木イズム”を引き継ぐ者たちが「俺らでやっちまおう」と妻木案を元にした設計で進める事を決めた時は“よし!”と胸が熱くなりました。
建築の知識も興味深く、骨太でグイグイと読ませる展開で引き込まれます。
そして、妻のミナさんが回想するラストシーンがとても美しくて秀逸だと思いました。
奇しくも、レビューを書いている本日(4月3日)は妻木さんが手がけた「日本橋開通記念日」との事で(表紙のイラストが日本橋の麒麟の意匠ですね)、こういうシンクロが地味に嬉しい私です。
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「人が造ったものが、人を殺すことがあってはならん」という言葉で建築家としての取り組み方を学べました
第二章が書き手が変わったかと感じるくらい軽やかで面白かったです
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3.8
維新後の日本において、
「国の礎となる建築」に人生を捧げた男・妻木頼黄。
大審院、広島臨時仮議院、日本勧業銀行、日本橋の装飾意匠等の建築にあたり、人との関わり方、人の動かし方を始め、仕事の進め方から妻木「その人」の人物像が描き出される。
近代日本という新しい国造りに、建築という手段をもって臨む男の崇高な矜持。
だが、
当たり前の事ながら…
川の向こう側と、こちら側ではこれ程風景が異なるのかと・・。
「東京はじまる」で、門井氏の描いた
辰野金吾と、本作での同氏の乖離…
「人の印象」というものの危うさを再認識。
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明治の建築家・妻木頼黄(つまき よりなか)の活躍を描いた作品。ちなみにタイトルの"剛心"は「物の強さの中心」を示す建築用語です。
明治の建築家というと東京駅や日銀の辰野金吾が思い浮かびますが、学会を組織し在野の立場を貫いた辰野に加え、宮内庁技師として宮廷建築(赤坂離宮など)に才を発揮した片山東熊、そして多くの建築技師たちを従えた官庁営繕組織のトップとして活躍した妻木頼黄の三人を明治建築界の三大巨匠と呼ばれているようです。。
ちなみに妻木の代表作は横浜正金銀行本店(現、神奈川県立歴史博物館)や横浜赤レンガ倉庫などが有りますが、本作ではほとんど出て来ません
面白い人物です。
旗本の息子として生れますが、両親を早くに亡くし困窮するなか、明治9年16歳で特に当てもなく単身ニューヨークに渡る。一年で帰国し工部大学校造家学科で学ぶも卒業前年に退学し、再び渡米してコーネル大学建築学科で学士号を取得。
独自の哲学を持ち、上に阿ること無く、優れた職人たちには非常に高い敬意を払う。特に部下の得手不得手を把握して良くまとめ、 部下たちからも敬慕されました。
そうした妻木頼黄や他の登場人物が明治という時代を闊歩する姿が生き生きと描かれ(ちょっと『竜馬がゆく』のころの司馬遼太郎を思い出しました)、450ページほどの大作ながら没入出来ました。大迫さん、沼尻、槍田、小林、武田等の仲間や部下、それに妻のミナなども生き生きとして良いですが、矢橋のキャラは少し異物感が残りました。
表紙は妻木がかかわった日本橋の麒麟像と獅子像です。
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登場人物が多くて追っかけるの大変だったが、地味に熱い、主人公の情熱と執念に圧倒されるいい話だった。もっとも冒頭あたり、井上馨やら伊藤博文やらは《晴天を衝け》のキャストが脳裏にチラついてたがw
東京府庁舎があった場所は、今、東京国際フォーラムが建っている場所だそう。あれ?太田道灌像があるのは何故…?
国会議事堂については参議院のHPに詳しく書かれててビックリ。議事堂周辺を同じ地点から数年おきに撮った写真があり、街の変遷が一目瞭然。さて、妻木の望んだ街になったかな。
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二年前に「木の家」を設計してもらい、昨年、ほぼ一年かかって大工さんたちが「家」を建ててくださった、
現場にはほぼ毎日通って
「木」にまつわるいろいろなお話を
設計士さんからも聞き、大工さん、左官屋さん、
いろんな職人さんから、
「木の話」「木の細工」「建てる」お話をいろいろ聞かせてもらった
ほんとうに日本の家づくりは凄い!
とつくづく思いました。
そんなわけで
設計士の妻木氏の描かれ方も素敵でしたが
右腕として描かれている偏屈棟梁(?)鎗田さんの言動が
もうたまらなく素敵でありました
ここに登場する 建物を創る人たちが
タイムスリップして
今の ハウスメーカーが主体の「日本の家」を
見た時には
どんなことを思うのだろう
と読み終わった後
しみじみ思いました。
それにしても
木内昇さんの作品は
いいなぁ
本当にハズレなしです。
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明治建築界三大巨匠の一人とされる妻木頼黄。
米独で西洋建築を修めながら和風建築にもこだわりを持ち民間に出ず官での仕事に徹し、現場や職人を重視する姿勢は、同時代人ながら辰野金吾とは対照的にも見える。
題名の「剛心」は建築用語で建物の変形に対する抵抗の中心点のこと。
周囲に左右されず自らの生き方を貫いた妻木の生き様に対する著者の称賛のように思える。
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江戸から東京、その地で日本古来の美を残しつつ新しい景色を!と建築設計をしてきた男達の物語。派閥や政治的な事柄が渦巻くその建築界では真摯にこの国の未来の姿を願っていた妻木頼黄という実在の建築家を軸にストーリーは繰り広げられる。
名は遺さずとも建築物は百年後二百年後に渡って残ってゆくという妻木の言葉が素晴らしい。
骨太な美しい小説でした。
登場した建造物をいちいちPCで検索しながらの心躍る時間、ありがとうございます。
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真に歴史を作った人たちは、表舞台に立った政治家や武将ばかりではない。城や寺院を作った人でもある。歴史に残る建物を作った人たちの世界が描かれる。
「大工はそれでいいんだ、みなでまとまってひとつのものを造るもんだ、って(中略)ごまかしのない仕事をする。全員の緊張感が合わさってこそ何十年、何百年と遺る仕事になるんだ、って。功名が先に立つとろくなことはねえぞ、とも言われたよ」
妻木の最も信頼していた大工、大迫直助から言われたことを、やはり大工の鎗田作造が、妻木の部下の小林金平に伝えた言葉である。設計者の名は残るが、大工や職人の名は、ほとんど後世に知られない。しかしそれでよしとするのが職人の誇りなのだ。市井の人たちを描き続けた、木内昇さんの真骨頂。言葉が、生き生きと伝わってくる。
江戸時代から明治へ、建造物も江戸の風情から西洋建築へと移り変わろうとするとき、江戸の街並み、建築物を愛し、東京に新しく生まれる建造物のある風景を、嘆いた建築家がいた。しかし時代は、建造物には、「剛心」がなければならない。日本の政治を司る建物を、西洋の技術と日本の文化の融合で作ろうとした男の物語。
妻木頼黄(つまきよりなか)は、読み始めは得体の知れぬ、しかしただならぬ人物として現れる。現場での仕事を重んじ、細部まで目を配り、決して手を抜かず、大工や職人への敬意を欠かさない。広島臨時仮議事堂の建設から、物語は始まる。周囲の人物たちも、妻木はどんな人間であるのか掴みきれない様子が描かれるが、職人たちは妻木に一目置いている。
第二章では、彼の人生が解き明かされる。それは巧みな構成で、第一章の出来事を、そうだったのか、と思い当たらせる。
妻木を取り巻く、そして妻木の意思を継ぐものたちの人物たちも、個性的に、活写される。建築家や学生、妻たち。その描写は微笑ましくもあり、時に凛と張り詰める。たちまちこの時代に引き込まれる。「剛心」の意味が説かれる場面も、ここへ持ってきたか、というところで、妻木の言葉で語られるので、くれぐれもネットで調べたりしないように。
建築の話だけに、専門用語が飛び交う。構造の説明もある。しかし悲しいかな、その建物の姿が浮かばない。仕方なく調べて写真を見た。人物も、個性あふれる、申し分ない人たちが揃っている。そして建物を、CGを駆使して見せて欲しい。ぜひ映画か大河ドラマで見てみたい。
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江戸から明治へ。
時代の移り変わりと共に、鎖国を解いた日本へ次々と流れ込む西欧文化。
新しい日本を造るため、古き佳き日本を捨て洗練された西欧技術を取り入れようと試みる政府に対しストップをかける一人の建築家・妻木頼黄の物語。
右にならえ、とばかりに何でもかんでも西欧建築の真似をするのではなく、日本の気候風土に適した日本古来の建築様式を巧く融合させようとする心意気がいい。
常に現場で働く職人たちに敬意を払う真摯な姿勢。職人たちに対する物腰はいつも柔らかい。けれどそこに妥協は一切ない。
強さと柔らかさをバランスよく兼ね備えた妻木の人柄がとても魅力的。
建物の揺れに対する強さの中心を示す”剛心”のように、いかなる試練を課されても全くブレない心が妻木の姿勢を崩さない。
「新たな技術を取り入れながらも、この国の、自分たちの根源を忘れずに引き継いでいくような建物にしたいと思っている。そういう建物がいくつも建つことで、江戸のような、心地いい街並みがきっとできる。子供たちの、またその子供たちの世代まで、誇りになるような街がね」
令和の時代を生きる我々の目の前に広がる景色は、妻木たち先人の強い信念が生み出した技と努力の結晶。
妻木から受け継いだ景色を、また次の時代へと引き渡して行かなければならないと強く思った。
妻木を陰ながら支える妻が更に魅力的だった。
木内作品に登場する女性たちは凛とした人が多くて好き。
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偉大なるリーダーがどのような姿なのであるかというのが長編として素晴らしく描かれている。
妻木という人物が江戸という街のに固執したのではなく、江戸という文明に固執し、明治という時代に新しい文明を作っていくためにその象徴となる建築物を作っていくという物語。
自分の中の強い意思や観念というのを持ち合わせながらも、周りの人物を見極めて、適材適所に置きながら大きな事を成し遂げていく。
周りにインサイトを与えながらうまく操っていく、それが自分のためではなく国としてどのような文化を作っていくべきか、そこに暮らす人々の顔を思い浮かべながら考え抜いたものだからこそ、その人が周りから慕われる。
1人の人物の一生が色鮮やかに描かれており、学びの深い小説であった。
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江戸の美しかった風景を残したいという妻木頼黄の建築への執念は見事だ.建築士はただ図面を引くだけでなく基礎工法から修飾まで多方面の知識が必要で,しかも職人たちとの連携にもちろん予算などストレスで寿命が縮むのもわかる.
そんなたくさんの障害を蹴散らしながら目標に向かって歩む妻木氏,そしてそれを支えた人たち,素晴らしいです.