紙の本
炭鉱の町で起こったこと、生きること
2012/03/21 16:32
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
三井三池炭鉱の戦後史をなぞりながら
そこで働く人々、町の人々を
警官である猿渡鉄男を通して描く。
863ページ二段組みの超大作。
戦後、日本復興のエネルギー源として
あるいは戦前の負の遺産として
様々な大事故を起こし人々を苦しめる働き場として
あるいは貴重な収入源として、
炭鉱の担ってきた歴史をひしひしと感じる。
しかし、本書の大筋は炭鉱史ではなく
三池の警官鉄男が様々な事件を解決し
そこで触れ合う町の人々、
また小学生のころからの友人・白川、菅、
櫟園(いちぞの)を克明に活写する。
新人刑事として、数年後、若手のホープとして、
そして離婚、左遷と人生の山坂を越えながら
実は一本、父親の謎の死に迫る軸をとらえる。
二つの労働組合が反目する炭鉱の町で
鉄男の父親はどちらの組合人にも平等に接し
温情で持っていざこざを収めてきた。
若くして死し、その息子が警官になると
その生前の徳によって、鉄男は何度も助けられる。
そして彼自身の警官になった理由、
負っている何かが徐々に明らかになる。
この理由が今ひとつ納得しがたいものではあり
それが大きな不満であり
ラストの大きな謎の解決には驚きもしたし
この一家は何なんだろうと首をひねった。
父親がただのいい人だったというよりもいいけれど。
でも炭鉱事故でCO中毒となった気の毒な人々、
とりわけ江藤のおっちゃん、
そして流れ者のヒカっしゃんなど
歴史の表舞台にも出ず、主人公にもならない人々が忘れがたい。
彼らと接する鉄男の人生もまた、悪くないと思えてくる。
余談だが、出てくるバーの趣味がどれもいい。
また炭鉱、有明海、田舎の人々の蜜な繋がり、
幼馴染との絆。
社会的な問題点や人情物語をはらみ
一筋縄ではくくれない。
長編にしなくてはならない理由がよくわかる。
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まだ1月も終わっていないのでやや気が早いかもしれないが、「質」そして「量」ともにまさに今年のナンバー1だ。
まずはその大胆な装丁に度肝を抜かれる。全863ページ、上下二段組という圧倒的な存在感に手に取るのをやや躊躇われるのだが、読んでみるとこの装丁で発売した作家と出版社気合いを真正面から受け止めて買った甲斐があるというものだ。流石にこれだけの分量だと面白いからと言って一気読みは難しいし、通勤電車の中でも立っているときには重すぎて持てないので座れた時だけが読書タイムになるので予想外に手間取ったが、ページをめくるのがもどかしい想いで読みとおした。
物語は九州の炭鉱町である大牟田が舞台。戦後の昭和20ー30年台初頭は石炭景気に沸き活気に溢れた大牟田の最盛期。しかし黒いダイヤと言われた石炭の地位は何時しか石油に取って替わり炭鉱にも大規模な合理化の波が押し寄せる。それに抗する組合運動は激化し、組合潰しとも言える第二組合の結成で労働争議の嵐が吹き荒れる。更に追い打ちをかけるが如く発生する昭和44年の炭鉱爆発事故。事故による一酸化中毒の後遺症に苦しむ鉱夫のその後の人生の悲哀。栄華を誇った大牟田の街も炭鉱の没落と共にさびれ時代も昭和から平成にそして現在に繋がっていくのだが、大牟田の炭鉱の栄枯盛衰とは無縁では居られない。まさに昭和から平成への大牟田史というか炭鉱の街の一大叙事詩とも言える物語だ。
そんな大牟田を舞台にする物語の主人公は大牟田で生まれ育った警察官・猿渡鉄男。父親もやはり地元で警察官だったが、ヤクザ・新旧組合員・中毒患者など誰に対しても分け隔てなく接していたことから地元では伝説の警察官として慕われていたが、あの炭鉱爆発の有った日に何者かに殺害され殉職。鉄男は警察官への道を歩むものの捜査の一環として秘密資金の謎に触れようとしたことから警察の出世コースから道を踏み外してしまう。地元・大牟田の派出所勤務などの傍流を歩むものの、駆り出された捜査の過程でもつれた糸をほぐすかのように現れる父親の旧知の仲という人物達を通して事件を解決していく。彼らとの繋がりから大牟田の歴史に向き合い、そして何時しか父親殺しの犯人探しをするようになるのだが果たして犯人は見つかるのか。
尚、冒頭で「今年のナンバー1」と述べたが、実は発売日が昨年の12月20日。なので恐らく年末にあちこちで発表されるであろう「今年のベスト本」の対象外になるであろう事が残念でならない。
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かなりのページ数だが、面白い。
時代によって、四部に分かれている。
第一部 昭和49年(1974年)
第二部 昭和56年(1981年)
第三部 昭和64年平成元年(1989年)
第四部 現在
それぞれの時代を生き抜く人々を
事件を追う警察官、猿渡鉄男を通して描いている。
ハードボイルド小説的なスピード感を感じながら、
また推理しながら、
近代史というまでもない、ついこの間の世相が懐かしく頭に浮かぶ。
たくましく生き抜いた人々のエネルギーを感じ、力が湧いてくる。
ラストの犯人探し・・・滑走するように引っ張られる。二転三転して、
「えぇぇ~~~」と心地よい驚きが!
読後感は、爽やかで希望に溢れている。
ドキドキワクワクしながら、この本を読み終わった時、
この町の住民でなくても、すっかり町に詳しくなってしまって
ぜひ訪れて、目で確かめてみたいと思うだろう。
小説の舞台となったは、福岡県大牟田市。
昔、三池炭鉱で大変繁栄した産業都市である。
三池争議、爆発事故、石炭産業の衰退など
今の日本の縮図のような過去をもつ。
そして高齢者の割合も随分多い。
見方を変えると、
日本社会の”最先端”そのもの。
現在大牟田市では、
この炭鉱施設を世界近代化遺産へ登録する運動をしている。
この作品、炭鉱町の様子や人物、時代的な雰囲気をしっかり描いた映画化を期待したい。
小説のラストの感動的な箇所を引用しよう。
~~~~~~
だが未来があるのは、海の彼方なんかではない・・・
未来はここ、目に前にある。
海よりも美しく輝く、少女の瞳の中にこそ。
だからこそ俺は、全力で守らなければならない・・・
~~~~~~
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見事で、読み応えのある分厚い本。
松本清張が書いた青春の門みたいな雰囲気。
すごくパワーを持った作品。
引っかかった点は、
その後の行動や人となりを考えると、
少年時代の行為に著しく違和感を覚える事。
ところどころに、当時の世相のガイドを入れるのは苦手。
史実のガイドは良いのだが。
2011 年 第 30 回日本冒険小説協会大賞受賞作品。
2012 年 第 33 回吉川英治文学新人賞受賞作品。
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九州・大牟田、三池炭鉱の町に生きる人々の歴史が丁寧に描かれている。警察官を主人公に、自身の身の周りで起こる事件事故を町の歴史に絡ませストーリー展開していく。西村さんの言葉「おっちゃん、おばちゃんが動いて書かせてくれた」読み応えのある一冊。
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大牟田。炭鉱町版『警官の血』。もの凄く分厚い本で、読むのに躊躇してしまう人も多いだろう。しかし読んでみれば一気読みの面白さだ。ただし僕でも読了に2週間かかりました。ミステリーであり、主人公や主人公の周り、そして町の一代記であり、特に三毛炭鉱の労組、事故の証言小説でもある。又回顧の形をとる、少年小説でもある。ネタバレになるので詳しくは書かないが兎に角読んでもらいたい一冊だ。ちなみに本書は今年(2012年度)吉川英治文学新人賞を受賞した。
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863ページ、上下2段組、主な登場人物の紹介だけでも59名と、縦置きしてもビクともしないで自立するほどの迫力。
しかし、読み始めると飽きさせることなく、一気に斜陽化する炭鉱の町・大牟田での話に引き込まれてしまった。
気が付けば、当初危惧された大量の登場人物にも違和感なく、主人公・猿渡鉄男と共に時代を過ごした気分になる。
残念なのは、第四部途中で鉄男の父を殺害した犯人が朧げにわかってしまったこと。もう少しぼやかして、謎を引き延ばして欲しかった。
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今までに経験したことのない昭和の生への賛歌と、炭鉱の炭塵の臭い。
本分は二段組みで、しかも863ページに及び、登場人物は60名に迫るという圧倒的なスケール。舞台は日本人なら誰でも知っている大牟田の三池炭鉱。日本高度経済成長の象徴の地だ。この地で人々は昭和の時代をどう生き抜いたのか。その生き様が一人の警察官を通じて語られる。人々のバイタリティ、煩悶、生への執着が炭塵の臭いとともに読む者の心に染みる。なんといっても圧巻は本物の九州弁(大牟田弁)。これは九州弁を覚えるための教材かと思わせるほど、全編に生の九州弁があふれかえっている。この九州弁が、炭鉱で生きる人々の生々しさを一際引き立てている。炭鉱の街を描いたものに「青春の門」があるが、本編はそれ以上に泥臭く、本物の炭鉱の街を活写している。物語の最後に訪れる驚愕の事実を知るだけでも読む価値がある大作だ。
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三池炭坑での労働争議の只中で少年期を過ごした猿渡鉄男と個性派の友人たち。労組間の争いが生活のあちこちに広がっていく様子がリアル。人望があった父の血を引く警察官として事件を手がけるが、彼自身も秘密を抱えている。難事件を解決しながらも、警察の閉鎖性故に出世はしない。後半父の犯人を追ってあきらかになったことは……。読み応えあり。
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本の厚さに怯んでしまい、なかなか読めずにいたが、読み始めたらグイグイ引き込まれて読了。楽しませてもらいました。
途中で少し三池炭鉱のことを調べて、時代背景など知識を補いました。
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大牟田の炭鉱を舞台に一人の警察官の半生にわたる事件を4部に分けて描いた作品。とにかく長く、特に初めは方言になれておらず読みにくい部分もあったが3部ぐらいから読みやすくなった。人生に葛藤する警察官の泥臭い生き方が読んでいても共感でき、楽しかった。
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863P...二段組。...長かった。九州大牟田の
三池炭坑を舞台にしたある警察官の半生と
その街そのものを描いた大作。
ここまでの自分の中の西村作品を大きく
覆す作品で読み応えは勿論、ズシリとした
楔をうつ作品。
昭和35年から40年の時間を順を追って
丁寧に、主人公「鉄男」の警察官としての人生、
そして人間としての葛藤、苦悩、闇、喜び全てを
内包した人生そのものを矛盾も含んだまま、
丁寧に描いています。さらには炭坑街としての
大牟田という街の背景にある過去から現在が
大きなウネリを持って、書かれているところが
今作の重みになっているのかもしれません。
「鉄男」の刑事として関わった事件、そして
その父にして街の伝説的な刑事の死の真相。
ミステリとしても読ませる、有無を言わさぬ
力強さに溢れてます。登場人物も膨大な数ですが
ほとんど混乱せずに読ませる、配置と力量が光ります。
特に、「オッチャン」と「ヒカッしゃん」なる脇役は
西村氏ならではのキャラクターで涙を誘う。
ただ、主人公「鉄男」という人間の持つ弱さや矛盾。
逆に強さや正義感。その両方があまりに混沌と人間臭く
小説の主人公としては感情移入しくい面もあるかもです。
が....自分は充分にこの作品世界に浸りました。
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私の評価基準
☆☆☆☆☆ 最高 すごくおもしろい ぜひおすすめ 保存版
☆☆☆☆ すごくおもしろい おすすめ 再読するかも
☆☆☆ おもしろい 気が向いたらどうぞ
☆☆ 普通 時間があれば
☆ つまらない もしくは趣味が合わない
2013.3.19読了
とにかく、長いです。
文章も読みやすいし、小説としても面白いですが、長い。三池炭鉱を中心の舞台として、猿渡鉄男の少年時代から現在までの流れの中で、時々の事件を四部に分けて書かれた小説ですが、かなり密接に繋がっているので、あまり年代の切れ目の四部の構成は意味がないです。
また、長くなっているのは主人公の生涯と炭鉱の歴史を綴っているからでも、同じような事件を同じように描いているので、ただ長い事だけが目についてしまいます。
これは、編集者に責があるように思うけどな。講談社さんてっ、割と分厚い本が多くないですか?
でも、それ以外では、とても良いです。小説の中にスッと入っていけるし、中の細かい人物描写も優れています。長いけど、飽きることもないです。大牟田の変遷も良く書かれているし、作中の飲食店もほとんど、もしくは全て実在するみたいです。私は大牟田に行ったことがありませんが、この小説で、行って見たくなりました。
また、読後感も良く、少し取って付けたようではありましたが、人生に希望が持てるようなラストエピソードでした。
ただ、カリウムの経口摂取では、余程のことがなければ、死に至ることはないのは、知っているものにとっては、興ざめでした。
長過ぎなければ、四つ星だったんだけどな。
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800P超え、しかも二段組という読み応え充分の作品でした。
九州の大牟田を舞台に、炭鉱に関わった人々の生き様や、主人公の鉄男の警官としての紆余曲折を経ての成長を描いています。
鉄男の殺された父親の事件を主軸にしながらも、炭鉱の歴史や背景、人々の様子が丁寧に描かれており、余り長さを気にせずに読めました。
馴染みの無い九州弁も途中からは気にならなくなりました。
ラストが感動的。「生かされている」という言葉が胸に響きます。
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三井三池炭鉱を舞台としたミステリー警察小説。
大牟田市と炭鉱の戦後史を背景に、一警官の地縁と血縁をめぐる骨太の物語。
「炭鉱節」は今でも踊るけど、やくざ映画で九州抗争はよく見たけど、地に足の着いた物語は心に深く響きます。
ただ、大作(長編)すぎること、展開がゆっくりとしているので、読了に時間がかかったしまいました。