紙の本
風太郎の本領発揮
2022/12/08 11:26
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
新旧入り交じって混沌とした明治初年を舞台としたケレン味たっぷりの作品である。1万円札の人 福沢諭吉を始めとして川路利良 東郷平八郎などなど著名人物を次々と登場させて活躍させる、面白くないはずがない という一大エンターメント作品である。さらに、ギロチンにフランス美女 と次々と登場させるが、同じ作者の「忍法シリーズ」のように忍術 魔術 なんでもありという荒唐無稽にまでは陥っていない所が良い。いずれにしても、風太郎の本領発揮 といえる作品である。
紙の本
『妖異金瓶梅』と双璧をなす人気作
2024/02/16 16:55
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:栄本勇人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ミステリ的趣向は今となっては珍しいものではないが、『妖異金瓶梅』と同様に小説として面白い。物語最終盤の展開は哀しく、また愉快でもある。
投稿元:
レビューを見る
明治になったばかりの時代、役人の不正を捜査する弾正台に務める主人公が、様々な殺人事件を追いかけるという連作ミステリ。山田風太郎って忍者小説だけじゃなかったんだ。
キャラがすごい。
主人公の相棒(?)はフランス人の金髪美女で、日本に来てから巫女の修行を積んだため、被害者の霊を呼び出せられるという。「俺はこうやって殺されたんだ……」って被害者本人が直接説明してくれる画期的な推理シーン。もちろん主人公にベタ惚れで、熱烈なヴェーゼをかましてくれる。
主人公には日本人の許嫁もちゃんといて、フランス娘に嫉妬したりもする。ハーレム要素!
主人公のライバルは、のちに初代警視総監になる川路利良。主人公と手を握ったり肩を寄せあったり、ちょっと匂わせる描写もある。なんという全方位のサービス! 来月あたりガガガ文庫とかで出そうな設定だ。
ミステリ部分もかなり本格的で、毎回豪快な物理トリックがあるし、他の話でちょっとずつ撒いた伏線をラストで一気に回収したりもする。すごい!
投稿元:
レビューを見る
政治の安定しない混迷の明治期。
日本がどのようにどこへ向かうのか手さぐり状態の「空白の時代」が舞台です。
役人の不正などを取り締まる為に復古された警察機構「弾正台」に所属する香月経四郎と川路利良を中心とした連作ミステリとなっています。
このコンビが奇怪な事件を次々と解決していくわけですが、その方法がおもしろい。香月を慕って来日したフランス人美女エスメラルダは、なんと修行の成果により死者を呼び出すことが出来、事件の度に被害者を呼び寄せては「自分は誰々にこんな風に殺された」と教えてくれるのです。推理もへったくれもありません。
しかし各話のトリックは凝っています。歴史上の人物達がちらほらと登場したり、当時の逸話も挟まれていて楽しいです。
ユニークな展開におもしろおかしく楽しんで読んでいたので、最後の展開には度胆を抜かれました。
とんでもなく秀逸なミステリ小説でした。
ネタバレ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【断正台大巡察】警察としての役割である邏卒の5人が、人々から小金を巻き上げてやりたい放題。小物っぷりが憎めません。香月と川路に出会う話で、最後はぞっとしました。邏卒の「日本がどうなろうとしったこっちゃない」というセリフが妙に印象に残っていましたが、この言葉も最後に繋がっていて驚きました.
【巫女エスメラルダ】香月と川路の正義の政府についての論争や、エスメラルダを巡っての香月の態度も大きな伏線になっています。
【怪談築地ホテル館】このトリックは非常に楽しかったです。築地ホテル館という舞台も趣があり、この時代とこの場所ならではという感じがします。
死者を呼び寄せる描写もばかばかしくも恐ろしい。
邏卒たちの小悪党っぷりが活かされてます。
【アメリカより愛をこめて】このトリックを弄する前提の壱岐守の行方に関してはおもしろいです。この事や幽霊騒ぎという経緯があるからこそ、このありえないトリックもまさか、と思わせてくれました。
ここでの俥の合体も、後で登場する戦車に似ています。
壱岐守の人を食った逃亡の足跡とその後の彼の人生を知ると「アメリカより愛をこめて」というタイトルがとても洒落ているように感じます。
【永代橋の首吊人】まさかまさかのトリックでした。これはおもしろい。容疑者は2人。しかしどちらにも犯行は不可能という状況が一転する一大トリックです。
谺国天の策謀は実際にあったことのようですが、それに対する川路と吟香の解釈の違いも興味深いものでした。実直な薩摩人の川路ですが、こういった所にも彼の思想が見えています。
谺国天が都合よく船まで行ったことや、すぐにお店を出てしまったことなどの「想定外」が、後に大きな意味を齎していてうまいです。
吟香というのは掴みどころのない魅力的な人物ですね。
【遠眼鏡足切絵図】一見関係のない事件が次々と起こりますが、それが繋がっていくのは見事で��。この話はそんな偶然が都合よく、とも思うのですが、それも作者の想定の範囲でした。いつの間にかいなくなった俥夫にもきちんと触れられているのに、誘拐騒ぎで忘れていました。
【おのれの首を抱く屍体】首の入れ替えトリックにはすぐ気付くと思いますが、その痕跡や証拠がなく、しかも最後まではっきりしないまま終わってしまいました。これまでの話すべてに、曖昧だったり偶然だったりする事があってそれが後々繋がっていくわけですが、本作ではそれが明示された終わり方でした。
【正義の政府はあり得るか】ここで明かされた真相には驚愕です。川路が最初から香月の危険性について述べていますが、それがこんな展開に繋がるとは。
そして、最初から自分で言っている通り「正義の政府はあり得ない」という考えのもと、西郷の提案を呑んだ川路という男の人間性もまた見た気がしました。
しかしなにより驚いたのは邏卒たちです。彼らもまた明治という時代に生きる一人の人間であったのだと今更ながら気付かされる思いです。最初のケチな小悪党の印象をがらりと変えて、ひた走る最後の彼らの姿には胸が熱くなりました。
エスメラルダは最後まで謎の人物でした。彼女がなぜ毎回お縫に語りかけていたのかも気になります。
エスメラルダは経四郎の狂気に加担しましたが、経四郎を平穏の愛で包むことが出来るお縫に、彼女もまた親愛を持っていたのかもしれないと想像しました。
投稿元:
レビューを見る
明治初期を舞台に、水干姿の美青年&薩摩弁鮮やかな侍のコンビが金髪碧眼巫女の口寄せによって謎解きする。一つずつの事件を描いた短編にちりばめられた疑問が、最終話で一気に収束するタイプの連作もの。
時代の熱さなのかな、登場人物それぞれ(主役の二人はもちろん、加害者被害者、ダメ邏卒たちに至るまで:終盤はむしろ胸熱であったけど)がそれぞれの方向に突っ走る様は爽快でもあり、最終話ではもの悲しくもあり、読む側のテンションを上げてくれる一冊でした。
山風先生はここまで読んだのが忍法帖を少し、柳生十兵衛少し、短編少しだったのですが、幕末妖人伝が面白かったのと、ミステリー小説だという話だったので(昔ミステリー好きだったので)この本を手に取りました。
ちょうおもしろかったー! レビュー的なことは他の方のものが詳しく、そのとおりと思いましたので書かないけど、ほんと面白かった。他の明治物も読みたいと思わせられました。つーか読む。
投稿元:
レビューを見る
明治初期を舞台とする連作短編集です。第1話と第2話は謂わばプロローグで、主に登場人物及び舞台の説明です。本格的な話になるのは第3話からで、それぞれ奇怪な事件とその解決が描かれています。
そして最終話では驚愕の真相が待ち受けています。怒涛の展開と何とも言えない余韻の残るラスト!間違いなく傑作といえるでしょう。
投稿元:
レビューを見る
明治維新直後の混乱期、政府は平安朝の監察機関・弾正台を復活させた。フランス帰りで水干姿の美形担当・香月経四郎と、後に初代警視総監となる川路利良のふたりの大巡察が究明甚だ困難致し候事件を解決する連作短編。奇抜な不可能犯罪と物理トリック、金髪碧眼の巫女が死者を口寄せする解決編、いつもキャッキャしてる邏卒五人衆、と笑いながら読んでいたから最終話「正義の政府はあり得るか」での急展開に愕然とした。さすが山風。最終話までの違和感が解決するだけでなく、命をかけて何事かを成し遂げたいと切望した男達の最後の疾走が感動的。
投稿元:
レビューを見る
個人的に歴史モノは苦手でしたが、あまりの評判の良さに
やっと手に入れて先ほど読了した次第で・・・。
あまりの面白さに読む手が止まらず・・・・
小難しい部分は殆ど無く徹底的にエンタティメントで
それでもって本格で史実に則ったミステリで・・・。
これは確かに凄いですね、キャラは立ってるし、
時折挟まれるユニークな味わいもアクセントになってグイグイ引き込まれます。
各エピソードは無理やりなトリックを使ったりと荒唐無稽な部分もあるけど、それが最後の最後で・・・・
いやぁ~これはやられました。
香月経四郎・・・・・格好いい!
投稿元:
レビューを見る
異国の美女エスメラルダを探偵役に据え、香月と川路、愉快な羅卒たちが織りなす明治時代を舞台にした連作ミステリです。
幕末が倒れ、新時代の幕開けかと思いきや、体制は未だ整っておらず、混沌とした世界が鮮やかに書かれています。
そんな時代を背景に起きる事件は、どれも奇天烈なものばかり。それを一種の物憑き状態となった異国人巫女のエスメラルダが解き明かします。
披露されるトリックはどれも単純なものですが、それを支える舞台、伏線が非常に良くできています。中でも「怪談築地ホテル館」は大胆なバカミス風のトリックが味わえます。
そして本書の特筆すべきところは、事件を颯爽と解き明かしていった末に迎える、最終章にあります。
個々の解決したかに思われた事件が、伏線として機能し、1つの物語が浮かび上がってくるのです。
ここで明かされるとある人物の思惑は、山風だからこそ書き得た、この時代だから成立する、凄まじいものになっています。
やはり天才か、山田風太郎!
投稿元:
レビューを見る
役人の不正を取り締まる弾正台、ギロチン、妖しげな金髪美女、小悪党な邏卒、相棒にしてライバルの川路など魅力的なキャラクター、キーワードを明治初期の混乱に彩った作者自身が認める時代ミステリーの傑作。
文字通り驚天動地のラストに刮目。
投稿元:
レビューを見る
文句なく面白く、夜更かし必然。
明治初年、警察組織が手探り状態の東京。
さしづめ警視庁キャリア組エリートたる香月経四郎と、同胞の川路利良が、怪事件を解決するミステリー。
香月の謎解き役となるフランス美女の巫女、へっぽこ五人組の巡査ふぜい、そのほか福沢諭吉や内村鑑三など史実の逸材が続々登場。
最初の事件のトリックはこんなんありかい!と笑ってしまった。やや時代劇風の毎回降霊で解決のパターンに飽きてくるが、読み飽きない一冊。
最終章の結末に唖然。
香月とフランス革命のロベスピエールとが重なった。
投稿元:
レビューを見る
本当に素晴らしい。本当の本格とはこれなんだな、と納得させられた。短編連作の形式をとってはいるが、これは長編本格推理小説。どこかのんきな邏卒たちと、エスメラルダの口を借りて明かされるカタカナ謎解き短編のテンポの良さにすっかり騙されてしまった読者としては、最終章の展開に凄みと寒気を感じると同時に度肝を抜かれた。
歴史上に実在した登場人物たちを虚実入り交じりながら登場させるテクニックも一流なら、それまでの世界観を暗転させるテクニックもやはり一流。そしてテーマがこれまた重厚。
前に読んだ「太陽黒点」といいこれといい、今まで山田風太郎を読んでこなかったことを激しく後悔する傑作である。
投稿元:
レビューを見る
明治の初期に4年ばかりあった弾正台という組織が舞台。水干姿の主人公香月経四郎と川路利良が謎を追い、巫女姿のフランス人エスメラルダが憑依の口寄せで事件をする連作推理の開花もの。明治政府の暗部を糾弾し、意表をつく壮絶な最終章で、さすが山田風太郎と唸ってしまいます。ただ、他の開化もの傑作群と比べると、主要人物の人間描写に浅さがあります。
投稿元:
レビューを見る
歴史上の有名人が多く出てきて、尚且つそれが不自然で無いような登場に感心しきり。本当にすごい。
最後、エスメラルダを逃がすために死闘を繰り広げる邏卒たちのかっこよさ!に対して香月経四郎はいくら時間稼ぎの必要もあったとは言え、お縫さんの前で「好きだった」といいながら自らギロチンにかかるなんてひどくない?お縫さんに一生物のトラウマ植え付けてまで自分のことを忘れさせまいとする男の純情とでも言うつもりなのか?
投稿元:
レビューを見る
『死刑執行人サンソン』を読んで、本書を読み返したくなった。文春文庫版をようやく発掘してひもとく。
星5つでもよいのだが、山風の明治ものは傑作がひしめいているので、『幻燈辻馬車』や『地の果ての獄』に比べて星4つにとどめておく。
サンソン家の末裔の美女が巫女姿で口寄せをする。ライトノベルを先取りしたような趣向に唸ってしまう。
もともと推理作家として出発した山風の、特にミステリ色の濃い連作小説。ノックスの十戒を持ち出すまでもなく超自然的な謎解きは禁じ手なれど、全体を貫くトリックが最後の最後で暴かれる。まさに大団円。