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紙の本
松浦武四郎という一人の偉大な先人の生き方を教わり、自らの怠惰な心を戒めてくれました
2016/02/29 12:47
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:大阪の北国ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
これは内容の充実したすごい本だというのが読み終った第一印象。直前に読んだ更科源蔵氏の松浦武四郎伝が余りにも退屈だったため再度入門しようと読み始めたのが本書だったが、初心者の私にも松浦武四郎の事跡を平易に、しかも次々にエピソードを挟むことにより活き活きと描き出してくれ、大変解り易かった。武四郎の足取りを詳しく追っているだけに盛り沢山で大著なのだが、ストーリー展開が面白く読者を飽きさせない。また文中に豊富にアイヌ単語が散りばめられており、これを覚えてアイヌ語教科書にしようかと思った程である。
しかも本書は単なる伝記ではない。自然を畏敬し、先祖を尊敬し、親や老人を大切にし、この世に存在する動植物に感謝を捧げるというアイヌの皆さんの生き方を改めて教えてくれる。また、その中でわれわれの先人である和人が働き、かつ隠蔽してきた数々の悪事をも教えてくれる。一例として特に印象に残ったのは、「川を遡る鮭を和人が下流に仕掛けた網で一網打尽にしたため、上流に住むアイヌが餓死してしまう。アイヌは自らが必要とする以上の獲物を捕食したりはしない」というシーンである。(この考え方は北東アジアに居住する狩猟民族であるエヴェンキなどとも共通するもののようで、当たり前のことながら、大自然の厳しさを知り、その恩恵を受けている人類なら従わざるを得ない哲学である。) その他、松前藩の時代から、先住の人々を「土人」として獣以下に見下し、誘拐や搾取により私腹(この場合は金銭欲のみならず性欲も含む)を肥やし、見下された方の気持ちを一顧だにしなかった、われわれ和人の先人たちの、恥を知らない生き方を悲しいまでに淡々と描いてくれる。「衣食足りて礼節を知る」われわれが、今しなければならないこと、また過去のしてはいけなかったことを冷静に見詰める時機がきていると教えてくれた。
私はもとより政治運動家でも、特定のイデオロギーに染まった人でもなく、一読書人に過ぎないが、終章で著者の仰るとおり、「アイヌ問題はアイヌ問題ではなく和人問題だ」という考え方に同意するし、武四郎もそれを訴えて改善したかったという思いに共感する。
但し文中に時折顔を出す「糾弾」という言い方を私は好まない。「糾弾されて然るべき」行為がそれ以前にあったため使うコトバ、と仰るのだろうが、私が学生時代から聞いてきたこのコトバには、暴力的に報復し、服従させるという印象が強い。「静かな大地」を求める先住民の皆さん、そして「原罪」を抱えるわれわれにとって、糾弾ではなく、過ちを反省し、今からでも自発的に悔い改める心こそ必要なのではないかと考えるところである。
この本を読了し、武四郎の基本を学び、自らの怠惰な心も見直すべきとの示唆をいただいた。