紙の本
刑法入門の新定番
2009/06/15 19:32
12人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:半久 - この投稿者のレビュー一覧を見る
法学分野のなかで、「いちばんむずかしい」との声が学生からよく聞かれるのが刑法だ。その刑法を、一般人むけの新書という器で、いかようにして「入門」してもらうか。さらには、複雑なものには図解があるにこしたことはないが、それを使わず文章オンリーでどこまでやれるか。
かなりの手腕が要求されるところだ。それに、著名な刑法学者の山口厚氏が果敢に挑んでいる。
【刑法に詳しくない一般人にとってはどうか?】
オススメしたい。専門用語を使わないわけにはいかないが、できるところは日常言語でソフトにわかりやすく語ろうとしてくれている。
テーマを、以下の4つにしぼって基礎的な解説を充実させている。
1.犯罪とはなにか。2.刑罰とはなにか。3.犯罪はどのようなばあいに成立するのか。4.犯罪はどのようなばあいに成立しないか。
できれば知っておきたい事柄だ。後半にややこしいところもでてくるが、これはやむをえないだろう。
【法学を学んでいる学生さんにはどう?】
お勧めしたい。とくに詰まっている人や刑法なんてつまらないと感じている人に。基礎から見直してみるのにちょうどよい。
【刑法を教えている立場の人、法律専門家にはどうかな。いらないでしょうね?】
いえ、お薦めしたい。実はこういう人たちにこそ「効く薬」なんじゃないだろうか。本書を参考にして「教えかた」や「論じかた」をさらに磨いてほしい。なんか、えらそうな書き方になってしまいすみません。
ところで、いくらわかりやすい説明でも、刑法は奥深い。理論的な対立点や現実の犯罪事例にどう応用していくかなどについてのむずかしさは変わらない。それらについては、先行研究を参考にしながら自分で答えを模索していくしかない。
ひとつには、刑法の解釈としての「拡張解釈」と「類推解釈」の問題がある。通説では原則的には類推解釈は許されないことになっている。
著者は、老朽化した木製の橋に、「牛馬は通行を禁止する。違反者には罰金を科す」と注意書きした立て札が設置してあるケースを例にとる。この警告の理由・趣旨は、重いものが通ると橋が落ちる恐れがあるから禁止するということだ。
拡張解釈によると、ここでの「牛馬」とは、文字どおりの牛と馬だけをさすのではなく、落橋の恐れのある体重の重い動物までをふくむと解釈する。したがって、象やカバなども通行禁止の対象になる。
類推解釈によると、「牛馬」は文字どおり牛と馬のことになる。しかし通行禁止の趣旨からは、それ以外の体重の重い動物や、さらにはそれよりも重い重機などにも当てはめようと解釈するのである。
ここから、微妙な話になる。『基礎から学ぶ刑事法 第3版』でも同じような例を使って説明している。老朽化した橋は同じだ。だが、ここの立て札に書かれているのは「馬の通行を禁止する」なのだ。著者の井田氏によると、拡張解釈によればロバなら馬と同じあつかいができる。ところが、牛は類推解釈にされてしまうのである。
さて、困った。たしかに「牛馬」なら、一般的にも「牛や馬などの重い動物」という解釈はできそうだ。「馬」単独では、拡張解釈ではせいぜいロバなどの近縁種しか認められないという考え方もありうるのかもしれない。現実に牛を通らせたが、とがめを受けたくない人はそういう抗弁をしてくるだろう。
しかし、ここでも通行禁止の趣旨は「重いものを通すと危険だから」ということなのだ。ならば、牛を拡張解釈の対象としてもいいのではないかと思えるわけである。
橋を管理する側としては、できるだけ対象を明確に規定するという対処をしたほうがいいのだろう。「牛馬などの体重の重い動物、これは通行を禁止する」というように。
しかし、未来に起こりうるトラブルなんて、予測できるのは一部にすぎない。だから法律とそれを解釈する法律家は、時にはうとまれたりしながら、これからも活躍し続けるのでしょうね。
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罪刑法定主義を中心に、その道の第一人者が丁寧に書いた一冊。他行為性など、法に疎い人にも魅力的な概念が面白かった。
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2008/12
刑法とはどのような法律なのか。条文の解説ではなく、法というものはどんな意味を成しているのか、丁寧に書かれている。刑法だけでなく、法律を学ぶ上でまず読んだほうがいいと思われる一冊。
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一言で言うと‘犯罪とは何か’が書かれている著書。色々な具体例を出し、犯罪とは何なのかについて、読者は考えさせられる。具体例が多かったので、イメージしやすかったので、堅苦しくなく読める。刑法だけに法律に寄っているいる著書なので、法律に興味のある人には良いと思う。
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どう考えても,裁判院制度の発足を前にして,一般市民向けに刑法の基礎を普及すべく企画され,書かれた本である。刑法の本だから,必然的に犯罪とは何かということがテーマとなっている。大学の講義で言う刑法総論の入門といってよい。
刑法入門としてはとても分かりやすかった。実際に本人の講義を受けたことがあるけど,その理解にはかなり役立った(当然か)。ただ,一般市民向けとういことを意識するなら,実定法だけでなく手続法についても説明される必要があろう。ぜひ岩波書店からは,『刑事手続入門』なるものを出していただきたいものである。
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犯罪とは何か。刑罰はなぜ科せられるのか。
どのような行為が犯罪となるのか。
このような疑問にわかりやすく答える一冊。
現在、裁判員制度の導入により、刑法に関する理解が求められている。
その基本を非常に明快に知ることができた。
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『刑法入門』(山口厚、2008年、岩波新書)
本書は刑法をわかりやすく解説した入門書です。やわらかい文章で、専門用語もわかりやすい説明がされており、読みやすく理解もしやすいと思います。
犯罪とは何か。どういう時に犯罪になるのか。また、どういう時に犯罪にならないのでしょうか。たとえば、人殺しは殺人ですが、Aさんとけんかをしてけがをさせ、救急車で病院に運ばれている途中に救急車が事故にあって、その事故によってAさんが死んだ場合、けんかをした人は殺人をしたことになるのでしょうか。またならないとすればなぜならないのでしょうか。
またBを殺そうとして発砲したところ、実はBではなくCを殺してしまった場合、狙ったのはBなのにCをわざと殺したことになるのでしょうか。
本書はそんな刑法の疑問にこたえ、裁判員制度導入による市民的な常識となる刑法の知識をわかりやすく解説しています。
(2009年2月11日)
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東京大学法学部教授(刑法学)の山口厚による刑法入門書
【構成】
第1章 犯罪と刑罰とは何なのか
1 罪と罰
2 刑事手続きのあらまし
3 法的な禁止の対象-犯罪
4 法的な禁止の手段-刑罰
第2章 犯罪は法律で作られる
1 罪刑法定主義
2 法律で罰則を定める
3 罰則は制定前に遡って適用できない
4 許されない罰則-内容の適正さ
第3章 犯罪はどんなときに成立するのか
1 犯罪の成り立ち
2 犯罪被害-結果
3 行為と結果の結び付き-因果関係
4 犯人の行為とは
5 犯人の意志-故意・過失
6 犯罪のかたち-未遂と共犯
第4章 犯罪はどんなときに成立しないか
1 犯罪の成立が否定される場合
2 違法性がなくなる理由
3 正当防衛
天下の東大法学部の教授が私のようなど素人でもわかるように平明な文章で刑法の概念を説明してくれる。「刑法学が何を考える学問なのかがわかる」という点については非常に優れた新書である。
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実際に行われた犯罪を、刑法の示すどの罪状にあてはめるのかというのは、時としてすごく微妙で難しくなる(たとえば殺人罪か過失致死か、とか)。そういう時に一般的にどういう物差しで考えればいいかというのが主眼になっているように感じられる。裁判員制度で狩りだされた人のための手引きとしてとても有用であろうと感じられた。
裁判員制度時代の一般教養として必読と言っても良い。内容も平易。
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2008年の新書大賞で宮崎哲弥氏が推薦していたので読んでみました。犯罪とは何かといった前半の一般的議論はたいへん面白く読めました。後半は各論的な部分は事例がどうも学問的すぎるからか少し退屈でした。こういう問題にエンターテイメント性を求めるのもアレですけれど。
売春は法律で禁止されているけれども、その行為自体には罰則が無いのは何故かといったところ目からウロコでした。
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全くの初学者の私には、正直このレベルでも難しい。
初学者は是非にと勧められたが、むしろ最初から入門者用教科書なり予備校本を読んだ方が良いかもしれない。
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新書だけあって初学者向けというより、むしろ一般向けに近いこの本。とてもわかりやすい反面、刑法の学習と捉えると物足りないといったところだろうか。導入にはもってこいだと思われる。
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[ 内容 ]
犯罪とは何であり、なぜ犯罪者には刑罰が科せられるのであろうか。
また、「罪が犯された」と言うためには、どのような条件が必要なのか。
刑事裁判に市民が参加する裁判員制度が導入されるなど、私たちも刑法の基本を理解することがこれまで以上に求められている。
刑法学の第一人者が、犯罪と刑罰をめぐる考え方を解説する。
[ 目次 ]
はしがき
第1章 犯罪と刑罰とは何なのか(1 罪と罰 2 刑事手続のあらまし 3 法的な禁止の対象―犯罪 4 法的な禁止の手段―刑罰)
第2章 犯罪は法律で作られる(1 罪刑法定主義とは 2 法律で罰則を定める 3 罰則は制定前に遡って適用できない 4 許されない罰則―内容の適正さ)
第3章 犯罪はどんなときに成立するのか(1 犯罪の成立ち 2 犯罪被害―結果 3 行為と結果の結び付き―因果関係 4 犯人の行為とは 5 犯人の意思―故意・過失 6 犯罪のかたち―未遂と共犯)
第4章 犯罪はどんなときに成立しないか(1 犯罪の成立が否定される場合 2 違法性がなくなる理由 3 正当防衛)
あとがき
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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タイトル通り、刑法の意義、役割、適用について概説した本。社会科の授業でも登場した罪刑法定主義、法の不遡及の原則という基本的な部分から詳しく解説する。
参考になったのは、
・「拘留」(軽犯罪法違反に課される短期自由刑(1~30日)と「勾留」の違い
・そもそも「犯罪」とは倫理違反(悪いこと)なのか利益侵害(迷惑なこと)のどちらなのか
・刑罰を正当化する論拠は何か(応報刑論と目的刑論)
・犯罪成立の要件(メルクマール)は、1.犯人の「行為」、 2.行為の「結果」、3.被害としての結果、4.犯人の犯罪意思 であること
・犯罪正当防衛、緊急避難などの事由で「阻却」される場合がある
といったこと。穿った見方をすれば刑法は人の自由の剥奪を正当化する法律であるため、思っていたよりも厳密に条文が定められ、犯罪や刑罰の意義にも鋭い論争があることが印象に残っている。
刑法の基礎知識が1冊に網羅されている良書だった。具体的事例、判例について勉強するなら、他の本が必要になるだろうが。
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そもそも刑法とはなんぞや?という記述や、犯罪の成立要件など刑法入門の入門といったかんじです。
が、結構、難しかった。法学はどの分野も独特な学問(論理学的?)で、ある一定の理解に達するのに時間がかかります。
個人的な興味では、共犯、教唆、幇助のあたりが面白かった。
本書にも、ちょこちょこ出てきましたが、次は刑法の各論を押さえておきたいな。法定されている一つ一つの罪が面白かったから!