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商品説明
文字研究70年の著者がまとめる字源字典。日常不可欠の漢字7000余の成り立ちを探る。甲骨文・金文・篆文など、文字資料を多数収録。項目は検索に便利な五十音順配列。見出し字を約200追加した1984年刊の新訂。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
白川 静
- 略歴
- 〈白川静〉立命館大学名誉教授。98年文化功労者として顕彰され、翌年勲二等を受章。2004年度文化勲章受章。著書に「白川静著作集」「字訓」「字通」など。
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紙の本
文字は歴史社会的条件の産物であるという視点の魅力と説得力
2006/11/02 10:44
10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:相如 - この投稿者のレビュー一覧を見る
私は漢字の専門家では決してないが、昔から漢字の字源というものには興味を抱いてきた。その字源を扱った字書で、ダントツに魅力的であるのがこの白川静さんの「字統」である。しばしば誤解されているが、単に白川さんの解釈が個性的で面白いから魅力的なのではない。学問的に見ても非常に説得力があるから魅力的なのである。
字源を古代の呪術的な儀礼に求める白川さんの研究は、「真っ当」な歴史学者や言語学者から「実証性」を欠いているとされてきたらしい。しかし結局白川さんが最も説得力かつ魅力に富んでいると評価できるのは、甲骨文や金文の文字資料の読み込みの丹念さでは追随を許さないことと、他の学者とは違って文字の成立する歴史的、社会的な背景を重視しているからである。漢字がもともと、殷代における「神との応答」の言葉から発している以上、呪術にその来歴を求めることは実証性の面からもむしろ的確な視点であると言うべきだろう。もちろん、想像力を働かせすぎたきらいのある解釈も少なくないが、資料の希少さが宿命である字源研究には多かれ少なかれ想像力が不可欠である。重要なことはそうした想像力を働かせるに足りうる説得性のある根拠が提示されているかどうかであろう。
確かに、口(サイ)を祝祷の器と解する白川さんの解釈はやや突飛かもしれないが、この解釈がそれなりに納得できるのは、文字の成立した歴史的背景が呪術的行為であることや、口を持つ字に「しゃべる」という意では解釈できないものが実際多すぎる(「谷」「害」「善」など)からである。例えば、「古」は「十代にわたるふるい言い伝え」と解釈されてたのを、白川さんは「楯(十)で聖器である祝祷の器(口)を固守する意と解した。後者に説得力があるのは、このほうが甲骨文の歴史的背景を踏まえた説明であるし、なにより「吉」(鉞[士]で守る)「吾」(蓋[五]で守る)と他の文字との関係もが理解可能になるからである。前者の解釈は正しいか間違っているとか以前に、歴史的な背景や他の文字との関係が一向に考慮されてない点で全く説得力を欠いている。結局のところ、実証性うんぬんの話で言えば、白川さんの研究はかなり高い実証性を持っていると評価すべきなのである。
白川さんがその研究を通じて示唆するのは、第一には一つの文字はそれ自体で独立したものでは決してないということだろう。文字は様々な歴史的な背景や社会的な関係性の産物なのであり、また他の様々な文字との関係の中で成立するものなのである。第二には、文字は単に人々の発話や思考を表記する道具ではないということである。むしろ、もともと神への応答文を原義とする漢字は、むしろ文字が織り成す神話的な世界へ参加することそれ自体が目的であった。現実の社会においても、文字によるコミュニケーションを可能にしているのは、文字によって表現しようとする思想や理念の共有によってではなく、文字の世界それ自体を形作っている社会的な関係に参加することによってであろう。文字世界の共有ではなく思想理念をコミュニケーションの条件にしてしまったら、互いに異なる「正義」を言い合う両者が、相互のコミュニケーションが不可能であるとして一方の殲滅を目指す暴力的な闘争を正当化することになる。その意味で白川さんの漢字研究は、単に漢字好きのための魅力的な議論を展開しているだけではなく、コミュニケーションのあり方を考える人にとっても大きな示唆を与えるものと言えよう。
*この書評は1999年版『字統』にお寄せいただいたものの再録です(ビーケーワン)
紙の本
古代のケータイ文字の作り方
2006/11/02 10:40
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くにたち蟄居日記(ビーケーワン) - この投稿者のレビュー一覧を見る
常々 文字は思想であると思っているが それを強力にバックアップしてくれるのが 本書である。
本書で展開される漢字の成り立ちを読んでいると 昔の人が いかにして 天と地と動物と植物と そうして 人間を見つめてきたかが分かり ある意味で感動的である。なんというか 漢字というものが 非常に科学的であり 哲学的であることが本当に身に沁みるのだ。
その意味で古代の人のたぐいまれな 知性というものが はっきり分かる。ケータイ文字を発明した現代の若者の創造力も 決して悪くないなあと思う反面 古代の人の創造力は それを遥に凌駕していたこともわかり 現代人たる小生にして 「痛快」であり「爽快」である。
多くの方が仰っている「読むための辞書」という言葉は 本書に誠に合っていると思う。ちょっと高いかもしれないが 一家一台ではなかろうか?
*この書評は1999年版『字統』にお寄せいただいたものの再録です(ビーケーワン)