Ｊ・Ｒ・Ｒ・トールキン 或る伝記 新装版

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指輪物語を書いたトールキン教授の伝記。
いかにして傑作小説が生み出されたか、エルフ語の創作にまつわる話や、ナルニアの作者ＣＳルイスとの親交なども語られる

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○　家族や知人の全面的な協力のもとに、多くのインタビューを交えて作成された、唯一の公認伝記。
　　本名　ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン (1892-1973)

○　ガンダルフの起源
　　1911年の夏休みの旅行中に得た絵ハガキ：ドイツの画家J.マデルナー作「ベルクガイスト＝山の精」
　　松の木の根元の岩に座る老人を描いたもの。
　　白い髭を生やし、つば広の丸い帽子をかぶり、長いマントをはおった老人が、自分の手のひらをくんくんかいでいる子鹿に話しかけている。 老人の表情はユーモラスだが愛情にあふれ、遠景には岩だらけの山並がのぞいている。

　　この絵ハガキをトールキンは大切に取っておいた。
　　そしてずっと後になって彼は、絵ハガキの包みの上にこう書き記した。「ガンダルフの起源」と。

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いや～、ある程度は想像していたことではあったんだけど、やっぱりトールキン先生は変な人でした。　　あ、でもここで言う「変」というのは決して悪い意味ではなく、「人並み外れた」とか「一般人とは多くの面でかけ離れている」というほどの意味なんですけどね。

生い立ちから始まり、交友関係、奥様との出会いから結婚、時代背景、学問上の功績、作品の出版の経緯ととにかく詳しく描かれているんですけど、その折々で思わず苦笑してしまうようなエピソードが満載です。　　あの素晴らしい作品群はこういうどこか偏屈で、どこか極めつけのマイペースさを持った人であればこそモノにできたものなんだなぁ・・・・と妙に納得してしまいました。

KiKi にとって何よりも驚きだったのは、あの一連の作品の中で使われていたクゥエンヤ語やシンダール語と言った私製言語を言語学者となった後で作り始めたのかと思いきや、それよりもはるか昔、まだ少年期と言ってもいいような時代から作り始め、それを所謂ライフワークの如く老年に至るまで創成・ブラッシュアップし続けたという事実です。

しかもこの伝記の著者によれば、その作業はトールキン先生にしてみると「作り出している」というよりは「見つけ出す」作業だと本気で思っていたらしいという点がかなりの驚きでした。　　「見つけ出す」という言葉にある心理の中には「発掘する」というようなニュアンス、つまり過去には絶対に存在していたものを探り出す、存在そのものは疑いのないものという確信があるように感じるんですよね。

　　　　

我が日本国でも例えば「古事記」などを読んでみると、「これが同じ日本語かいな？」と思えるような音の使い方・文字の使い方に出会うことがあるわけだけど、それを文化圏という観点や自然音と絡めながら、この地に生まれ、暮らしていた人たちが古代に使った言語はこうであったに違いないと推論していく作業にそれこそ人生の大半の時間を使うな～んていうのは、KiKi にしてみれば正気の沙汰とは思えません（苦笑）　　残されていたものを鑑賞し、愛でるというだけならいざ知らず・・・・・。

トールキン先生は「ノルマン・コンクエスト」を単なる歴史的出来事という以上に古代の時代にイングランドの地に息づいていたはずの言語・文化・生活の尽くに対して及ぼしたであろう影響に関して、どちらかといえば「憂い」に近い感情を持っておられたようです。　　その憂いの感情から始まり「本来伝承されたであろう古来のものはどういうものであったか？」に執着する姿はいかにも学者的ではあるけれど、見方を変えれば何か滑稽さ、思い込みの激しさ、執念深さみたいなものも同時に感じずにはいられません。

でも、そんな彼の確信が、探求が、あの素晴らしい物語・現代神話を生んだことには感嘆と驚異と大きな恩恵を感じ、「ありがとう！」と声を大にして言いたいと感じているのも又事実なんですけどね。（笑）



それにしても・・・・・



トールキン先生、やっぱりどこか普通の人と比較してズッコケたところを多々お持ちだったようで・・・・・。

資料��しやら改訂作業の合間についつい脇道へそれてしまい、どちらかと言えば些細なところにこだわる余り、いつまでたっても完成という日の目を見ない作品の数々。　　特にそれが顕著なのはあの大作「指輪物語」を出版するに際し、「シルマリルの物語」も出版するという確約を出版元に求め続け、ようやくその約束をとりつけたにも関わらず、結局彼の生前には完成させることができなかったとは・・・・・。

まあ、今とは出版事情も異なるのだろうし、トールキン先生が「シルマリルの物語」に費やした年月の数だけを数えれば莫大なものだから、「ライフワークを世に出したい」という気持ちはわからないじゃありません。　　そして恐らく彼の中では「物語の Vision」 みたいなものはかなり明確になっていた（あとはそれを言語化して整理してタイプを打つだけだった？）のだろうから、出版に拘るところまではいいんですよ。　　でも、その後のトールキン先生の生活描写を読む限りでは「さっさと完成させろよ！」と言いたくなるほどの、牛歩の歩み・・・・・・　^^;

だいたい肝心の作品の執筆よりもファンレターの返事書きに没頭してしまうなんて、「ファン・サービスの鑑」とでもいうようなエピソードかもしれないけれど、KiKi の立場からしてみればそれよりは未完の作品を仕上げることに精力や時間を費やしてほしかったと思わずにはいられません。　　まあ、でもそのおかげで著作権という権利の所在が曖昧だった当時のアメリカで発刊された非正規版「指輪物語」（権利の所在が曖昧だったため厳密な意味での海賊版にはあたらないらしい）の普及を妨げてくれたのはファンの行動だったという何とも素敵なエピソードがついてくるわけですが・・・・・。

今、この時代の日本に生きる私たちは彼の息子、クリストファー・トールキン氏の努力のおかげで「シルマリルの物語」を読むことができます。　　因みに KiKi はこの物語に関しては拾い読みはかなりしているけれど通し読みという観点からは何度も挫折しています。　　今回、この伝記を楽しく読了した今、久々に「シルマリルの物語、完全読破」に挑戦してみようかと考え中。　　なんせ、1人の人間がほぼその一生をかけて探求した創作神話の物語集なのですから。

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映画「トールキン　旅のはじまり」を見て、もうすこし詳しく知りたいと思い図書館で借りてみた。

1967年の春、著者はトールキンを訪ね話をしている。思ったより小さく並みの人より小さかったと記している。

年譜
1892.1.3　南アフリカ　ブルームホンテンに生まれる
1894（2才）　弟ヒラリー誕生
1895（3才）　春、母と弟でイギリスへ帰国。母の実家へ。
1896.2（4才）　父死亡。夏バーミンガムのセアホール・ミルに引越。（田園地帯）
1900（8才）　母カトリックへ改宗。バーミンガム郊外モーズリーに引越。9月キング・エドワード校に通学開始（父も昔通っていた）。トールキン一族の叔父が学年12ポンドの学費を払ってくれた。年末、通学の便のため、キングズ・ヒースに引越（モーズリー郊外の広い道路に面していた）
1901（9才）　消防署建設のため家が取り壊され、すぐ近くのキングス・ヒース駅の裏手に引越（母の実家のほど近く）
1902（10才）　エッジバーストンのオリバー通りに引越。セント・フィリップス・グラマー・スクールに転入（キング・エドワード校より学費が安くカトリックの教育を受けられるため）
1903（11才）　セント・フィリップ・グラマー・スクールを退学（水準が低かったため）、母が自ら教育する。キング・エドワード校の奨学金を得、秋同校に復学。
1904（12才）　初頭、母糖尿病と診断、夏ロナルド兄弟はレドネルに滞在、11月母死去（34歳）遺言でフランシス・モーガン司祭を後見人にする。司祭は実家のシェリー酒販売からの収入があり、母の残した額面800ポンドの株を増やし二人が不自由ない生活ができるようにした。
1905（13才）　兄弟でスターリング通りのベアトリス叔母さんの家へ移る。秋、学校でクリストファー・ワイズマンと出会う。
1907（15才）　年末？16歳の誕生日のすこし前に最上級の学年となり校長の息子ロバート・ケアリー・ギルソンと出会う。
1908（16才）　兄弟でダッチェス通りのフォークナー夫人の家に移転。フォークナー夫妻、娘のヘレン、女中のアニー。そして下宿人としてエディス・プラットがいた。少年たちの部屋は3階、エディスの部屋はその下の階。エディスは私生児で母の死後、音楽教育に熱心な寄宿学校に送られ、バーミンガムに土地を相続しており生計を支えるに十分な収入があった。卒業後、下宿の主人が音楽好きならとこの下宿にいた。
1909（17才）　エディスとの交際が司祭の知るところとなる。オックスフォードの奨学金試験に失敗
1910（18才）　1月、兄弟は新しい住居に引越。司祭にエディスとの交際を21歳まで禁じられる。３月エディスはバーミンガムを去りチェルテナムに移転。１２月、オックスフォードのエグゼター学寮の自由奨学金試験に合格。
1911（19才）　夏、T.C.B.S成立。学校図書委員メンバーが源、当初図書室でお茶の会を始めたが、街の喫茶店バロウズに集う。4人目のメンバーとしてジェフリー・バッチ・スミスが加わる。トールキンよりほぼ3才下。キング・エドワード校卒業。夏、弟の働いていたスミス農場の一家と共にスイス旅行をする。伯母も含め総勢12人。秋、大学に入学。
1913.1.3（21才）　21歳になったのでエディスに手紙を書��、1.8チェルトナムでエディスに会う。エディスはジョージ・フィールドとの婚約を破棄する。夏学期に古典専攻から英語専攻に変える。秋、G.B.スミスがオックスフォードのコープス・クリスティ学寮に入学、英語を専攻。（ギルソンとワイズマンはケンブリッジ）(
ギルソンとスミスは第一次世界大戦で戦死）
1914.1（22才）　エディスと正式に婚約　6.28サラエボ事件、8.4イギリスはドイツに宣戦布告。
1915（23才）　夏、最終試験で優等。ランカシャーフリージア連隊に配属。
1916.3.22（24才）エデイスと結婚。6月連隊の少尉としてフランスのソンムに派遣、大隊通信将校として秋まで戦闘。11月「塹壕熱」でイギリスに送還。
1917（25才）　春、ヨークシャーに配属、ほとんど病院で暮らす。11月長男誕生。
1918（26才）　中尉となりハンバー駐屯軍に配属、スタフォードシャーへ。11月停戦。オックスフォードへ戻り「新英語辞典」の編集スタッフとなる。
1920（28才）　リーズ大学の英語講師となる。次男誕生。
1924（32才）　リーズ大学の英語学教授となる。
1926（34才）　C.Sトールキンと知り合う。
1930（38才）　「ホビットの冒険」を書き始める。
1937（45才）　秋「ホビットの冒険」刊行。「指輪物語」を書き始める。
1945（53才）　オックスフォードの英語英文学マートン教授職に選ばれる。
1949（57才）　「指輪物語」脱稿
1954（62才）　「指輪物語」最初の2部刊行
1955（63才）　「指輪物語」第3部刊行
1959（67才）　教授職から引退
1973.9.2（81才）　死去


著者ハンフリー・カーペンターは1946生。父親が学寮長だったオックスフォードのケーブル学寮で英語英文学を専攻。BBC勤務後この本の執筆をしフリーに。執筆当時は30歳とある。原著は1976あたりに刊行か。

1982.2.10刊