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商品説明
フランス児童文学の誕生から今日まで、各年代の代表的な作家と作品を詳しく紹介するとともに歴史的な流れを概観したガイド。また児童文学の流れに入らない「青春文学」に関し、独立した章を設け解説した。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
私市 保彦
- 略歴
- 〈私市保彦〉1933年生まれ。東京大学大学院比較文学修士課程修了。武蔵大学教授。著書に「ネモ船長と青ひげ」「幻想物語の文法」など。
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紙の本
中世から現代まで、知られざるフランス児童文学の世界を概観した興味深い文学史
2001/05/07 18:16
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:平岡敦 - この投稿者のレビュー一覧を見る
フランスの童話といえば、誰でもまっ先に挙げるのが『星の王子さま』だろうが、さてその他にどんな作品があるかというと、案外思い浮かばないのではないか。もちろんフランスにだってすぐれた童話、児童文学はたくさん存在するし、翻訳されているものも少なくないのだが、例えばドリトル先生シリーズやナルニア国物語、指輪物語、ゲド戦記のように、ロング・セラーとして日本で広く読まれている作品があまり見あたらないのも事実だ。繰り返し再話され現代に生き続けているペローの童話(「赤ずきんちゃん」や「眠りの森の美女」など)、エクトール・マロの『家なき子』やジュール・ヴェルヌの諸作品あたりがせいぜいだろうか。というわけで、知られらざるフランス児童文学の世界を紹介するべく、中世の伝承やからル・クレジオやダニエル・ペナックら現代作家まで概観したのが、本書『フランスの子どもの本』である。
当然のことながら、ここでは普通の文学史では取り上げない作家や作品について詳しく触れられている。それだけでもフランス文学を学ぶ者としては大いに参考になるのだが、作品を生み出した歴史的背景に関する分析もまた興味深い点だ。例えば、17世紀に大流行した妖精物語。その作者である「女流作家たちの送った不幸な私生活は、おそらく当時の宮廷生活と華やかなサロンにひそむ悲惨な現実の写し絵であったのだろう。だからこそ、彼女たちが現実を忘れるために紡ぎあげる夢の世界が、多くの人々の心をとりこにした」というわけだ。なるほど、不幸なヒロインが妖精の魔法によって最後は幸福を手に入れる妖精物語とは、17世紀の女性たちにとって「ハーレクイン・ロマンス」のようなものだったのか。
あるいは、普仏戦争の敗戦により祖国愛が高まるなかで書かれた『家なき子』は、「ナショナリズムの高揚が叫ばれ、それまでのメロドラマ風みなし子物語から脱却して旅と冒険をとおして力強く働くといったモラルを確立する教養小説としての特徴をもとめられていた、当時の時代的な要請にこたえるものであった」という指摘も、子どもの頃に親しんだこの作品に対する見方を新たにするものだ。
とはいえ、いくつか残念に感じる点もあった。ひとつは、せっかく挿絵作家、絵本作家についても紙数を費やしているのだから、実物を示す図版がもっと欲しかったということ。もうひとつは、取りあげた作品に邦訳があるかどうかが網羅的に示されていないこと。「駄洒落が連発され、魔女も巨人も悪魔もじゃれのめされて爆笑を誘うといった話ばかり、大人も十分楽しめる」と言われればどうしたって読みたくなるピエール・グリパリの『ブロカ街の童話集』が、『木曜日はあそびの日』というタイトルで岩波少年文庫に入っていることは、読者としてはぜひ知りたいところだろう。 (bk1ブックナビゲーター:平岡敦/大学講師・翻訳家 2001.05.08)