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紙の本
近鉄バファローズを通じて語る日本プロ野球史の現在と未来
2006/02/07 23:58
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:子母原心 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は1958年以来、日本シリーズの全試合をほぼ取材し続けてたという大ベテラン記者だ。これまで『監督たちの戦い』『球界を変えた男・根本陸夫』など、「事実を淡々と書く」というスタンスで、優れたノンフィクションも書いてきたが、本書は「近鉄を狂言回しに、激動する球界の、今日と明日を、務めて建設的に語った」本である。はしがきで、「昔はよかった繰り言を述べるつもりもない」という決意を述べているのは、感情論と対極に立とうとする姿勢は、ジャーナリストとしての意地、矜持かもしれない。
近鉄バファローズは、1949年設立当初は、長期にわたって下位に低迷してきた。1958年にはプロ野球史上、最低記録の勝率を記録した「最弱軍団」だった。スポーツの世界では、「巨人」や「西武」などの王者のチームの戦略をたたえる書物は多い。だが、著者は、こうした「最弱軍団」のチーム模様からこそ、組織論の教訓が得られるのではないかと考えて、こうした書物の出版を出版社に掛け合ったが、にべもない反応だった。
近鉄が属したパリーグは、長らく巨人と阪神の二大人気チームが所属するセントラルリーグの後塵を拝してきた。これを事実上後押ししてきたのは、マスコミが人気チームを追い掛け回すというところにも原因があるといえる。1978年、阪急ブレーブスの今井勇太郎が完全試合を達成した。ペナントレースの真っ最中の8月、その価値は高いはずだが、翌日のスポーツ新聞の一面は、阪神タイガースの掛布雅之の1試合3本塁打だった。この年阪神は球団史上初の最下位だった。その1988年、近鉄バファローズの伝説的試合「10・19」でさえ、日本経済新聞ではなんと著者一人で取材をしたのいう。
とはいえ、仰木彬の下でバファローズは、当時全盛を誇った西武ライオンズに真正面からぶつかった。仰木は「西武VS近鉄」を、パリーグの「巨人VS阪神」になぞらえたのは明らかだろう。それは正しい戦略だったし、実際この両者は1988、89、91年と苛烈な優勝争いを演じて、パリーグの隆盛に一役買ったのだった。
だが、ようやく日の目を見たかに見えたバファローズも、球界を取り巻く経済環境の前に苦境に陥っていく。FA制、ドラフトの自由獲得枠導入は、球界全体で経費上昇を招き、ついには2004年のような再編騒動にまで発展してしまう。某球団のオーナーの独裁政治を止める力は働かなかったのか。それが当然のことだと、マスコミまでが感覚麻痺に陥っていなかっただろうかと、自戒を込めて著者は振り返る。
そして、現在は球界全体がプチ・パリーグ化する危機に瀕している。メジャー・リーグだ。1995年の野茂英雄の成功に続き、長谷川、イチロー、松井秀喜まで、日本のトッププレーヤーの一挙一足が日本のスポーツニュースに流れ、それが日本のプロ野球のニュースを掠める結果になりはしないのか。著者が最後に述べているように、今こそ、球界は「攻めの経営」に転ずる時期であるといえるだろう。