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泉鏡花集 黒壁 (ちくま文庫 文豪怪談傑作選)
明治大正昭和の三代にわたり妖艶怪美の世界をひたむきに追求した泉鏡花は、文芸としての怪談を極めた巨匠と呼ぶにふさわしい。三百篇を超える作品群には、いまだ知られざる逸品も少な...
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商品説明
明治大正昭和の三代にわたり妖艶怪美の世界をひたむきに追求した泉鏡花は、文芸としての怪談を極めた巨匠と呼ぶにふさわしい。三百篇を超える作品群には、いまだ知られざる逸品も少なくない。それら文庫未収録小説の中から、とりわけ恐怖と戦慄と憧憬に満ちた怪異譚を選りすぐって成ったのが本書である。【「BOOK」データベースの商品解説】
〔「耽美と憧憬の泉鏡花」(双葉文庫 2021年刊)に改題〕【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
高桟敷 | 7-22 | |
---|---|---|
浅茅生 | 23-61 | |
幻往来 | 62-86 |
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女と暗い静かな場所——『泉鏡花集黒壁』
2006/12/18 02:07
7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:neutre - この投稿者のレビュー一覧を見る
怪談、といっても別に異形の化け物が出てくるわけではない。美しい女が夜半に誰もいない森閑
とした場所へ現れ、付属する物語が語られるだけで怪談になる。「映画の父」と呼ばれるD.W.
グリフィスはかつて「映画とは女と銃だ」と言い、それを受けてジャン=リュック・ゴダールは
「男と女と車があれば映画は撮れる」と述べたが、東雅夫氏によってまとめられた『泉鏡花集 黒壁』
所収の短篇・中篇群はあたかも「ふいに美しい女が真夜中暗く静かな場所に現れさえすれば怪談になる」
と示しているかのようだ。
実際、所収短篇のなかで最も古い作品「黒壁」で泉鏡花はこう書いている。
「しかれども敢えて、眼の唯一個なるもの、首の長さの六尺なるもの、鼻の高さの八寸なるもの等、
不具的仮装的の怪物を待たずとも、ここに最も簡単にして、しかも能く一見直ちに慄然たらしむるに
足る、いと凄まじき物体あり、他なし、深更人定まりて天に声無き時、道に如何なるか一人の女性に
行き逢いたる機会是なり。」
こうしたミニマルとも思われる設定を土台としながらも、鏡花はそこから複雑な物語を紡ぎ出していく。
生死を越えた美しさをもつ女の物語が語られ、その女に不意に邂逅して恐れを感じながらも魅了されて
しまう男の物語が語られる。そうして作品の時間が重層化され複雑さを増していく・・・
さらに、鏡花は視覚だけではなく、聴覚や触覚など他の五感を用いて恐怖や驚きを醸しだす。たとえば、
「浅茅生」の最後で団扇が突然屋根瓦を滑り落ちる凄まじい音、枕に流れた自分の長い黒髪を舌で吸い
寄せた時に感じた冷ややかに濡れた感触、「紫障子」では強烈に不快な匂いを発する黒い碁石、など
様々な感覚が登場人物と読者を刺激するのである。
『泉鏡花集 黒壁』に収められた短篇はどれもそれぞれ異なった感触をもっていて面白い。特に「高桟敷」
や「浅茅生」はコンパクトにまとまった怪奇小説の傑作短篇ではないだろうか? この二作品を読むため
だけでもこの本を買う価値があるだろう。(ちなみに『泉鏡花集 黒壁』に収められたすべての短篇・中篇
は文庫本未収録である。)鏡花作品にもっと近づきやすくするためにも少しでもいいから註釈を付けて
欲しかったという思いもないではないが、鏡花初心者にも楽しめる短篇集になっていると思う。