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紙の本
真のファンの姿
2004/12/09 22:30
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:吉田照彦 - この投稿者のレビュー一覧を見る
たしか僕が高校生くらいの頃までは、友達に「おまえ、どこのファン?」と訊けば、「俺は○○」「俺は○○」と、必ずといいほど、どこかのチームのファンである旨の答えが返ってきたものである。それが近ごろでは、「俺、興味ない」「昔は○○のファンだったけど、いまはどこのファンでもない」というような答えが返ってくることが多くなった。
プロ野球の話である。
いつから、なぜ、日本の野球が人々の興味を引かなくなったのか——そのことについてはあちこちで論じられているし、すでに議論が出尽くした観があるので敢えて触れないけれども、一プロ野球ファンとして、やはりこの現象は寂しい。
僕自身、1982年に初の日本一に輝いた年からの西武ライオンズのファンである。今年、チームがシーズン2位からの逆転で見事日本一に輝いたことは十分に嬉しかったのだけれど、十数年前、当時常勝軍団と言われたチームが日本シリーズ2連覇、3連覇を続けていた頃ほどの喜びはなかった。あの頃とは、プロ野球というものに対する思いがどこか違っていたように思う。……
本書は、往年のプロ野球ファンたちの間で「10・19」としていまも語り草になっている伝説の試合の一部始終を、熱血近鉄ファンの視点から克明に追ったドキュメントである。
1988年10月19日、「川崎劇場」などと称されて多くの名・珍伝説の舞台となった、いまはなき川崎球場において、「ロッテ—近鉄」のダブルヘッダーが行われた。ここで近鉄が連勝すれば西武を逆転して優勝という大事な試合。いつも閑古鳥が鳴くみすぼらしい球場に、ファンが溢れんばかりに集まった。第1試合を近鉄が逆転で制し、迎えた第2試合。この試合に勝てば優勝という大一番である。パ・リーグの試合としてはあまり例のない生中継による全国放送。関東で30%、関西で46%の視聴率を叩きだしたというこの試合は、結局、試合時間4時間を越えたら次のイニングには入らないという当時のリーグ規定により、4−4の時間切れ引き分けに終わり、近鉄はあと一歩のところで優勝を逃す。
本書において、著者は、ファンにとっては煮え湯を飲まされたというに等しいこの痛恨の試合を、一人の野球ファンとして温かく見守り、伝えている。中でも印象深いのは、10回の表の攻撃が0点で終了し、近鉄のV逸が決定したあとの10回裏の場面。憤激した近鉄ファンによる暴動に備えて多くのガードマンがネット裏に配備されたとき、著者は隊長らしき人を捕まえて、「絶対に近鉄ファンはおとなしく帰るよ。絶対荒れないよ」と断言。事実、試合の後、その日球場を埋め尽くした観衆の大部分を占めた近鉄ファンたちは、“敗戦”の悔しさを噛みしめながら、粛々と帰途に着いたのだった。
野球選手でもない僕が言うのもなんだけれども、ファン——それも真のファンというのは、本当にありがたいものだなと思う。
この翌年、僕の応援する西武ライオンズは近鉄とのダブルヘッダーで近鉄の主砲・ブライアントに4打席連続ホームランを浴び、優勝をさらわれた。このときの悔しさを僕はいまでも忘れないし、あの試合のことはいまでも思い出したくない。一方、本書の著者にとってみれば、あの10・19こそ思い出したくない痛恨事であろう。にもかかわらず、その痛恨の試合についてこうして1冊の本を書き上げてしまう、そして「あの試合こそプロ野球史に残る名勝負」と胸を張る。こういう人こそ、本当のファンの姿というにふさわしいのではないだろうか。そしてプロ野球界はこういうファンこそを大事にすべきである、いや、大事にしないようなプロ野球界に、未来はない。