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商品説明
現在の若者たたきは果たして妥当なものなのか? 友人関係・音楽生活・メディア利用・自己意識・社会意識に焦点を当て、若者の肯定的な可能性を見出す。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
若者論の失われた十年 | 浅野智彦 著 | 1-36 |
---|---|---|
若者の音楽生活の現在 | 南田勝也 著 | 37-74 |
メディアと若者の今日的つきあい方 | 二方龍紀 著 | 75-114 |
著者紹介
浅野 智彦
- 略歴
- 〈浅野智彦〉1964年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。東京学芸大学教育学部社会学教員。著書に「自己への物語論的接近」など。
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紙の本
「若者論の失われた10年」を超えろ!
2006/05/26 23:33
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:後藤和智 - この投稿者のレビュー一覧を見る
若い世代を口悪く罵った本——『ゲーム脳の恐怖』『ケータイを持ったサル』『下流社会』など——が定期的に出版されては、瞬く間にベストセラーとなり、若い世代の「病理」を「証明」するための資料としてさまざまなところで引き合いに出されるようになる、という状況を見るにつけ、若者論の研究家としての私はつくづく嫌気がさしてくる。そもそもこのような本を書く人たち、あるいは嬉々として読む人たちは、若い世代の「実像」や「現実」を見ようとはしていないのではないか。むしろ、マスコミで喧伝される「今時の若者」的な「記号」をバッシングし、それによって自分は「あいつら」より劣っていないんだ、と安心感を得たいのではないか、と思えてくる。
しかしそのような言論状況下でもまじめな人はいて、地味ながらも実証的な研究を少しずつでも重ねて、社会に通俗的な青少年イメージが本当に正しいのか、と懸命に問いかけようとしている。本書は、平成4年と平成14年に、都市部の若年層に行ったアンケートと、その統計学的な分析で成り立っており、テーマもまた「メディアと若者の今日的付き合い方」「若者の友人関係はどうなっているのか」「若者の道徳意識は衰退したのか」など、マスコミが好んで採り上げそうなものが並んでいる。
しかしその結果は、「記号」ばかりを採り上げて面白おかしくバッシングする人たちとは違い、きわめて実証的なものばかりだ。疑われる向きは、本書を手にとって、まず第6章の「若者の道徳意識は衰退したのか」(浜島幸司)をぜひとも読んでほしい。
この論文によれば、「「今時の若者」は道徳・規範意識が低下している」という言説はまったくの筋違いの批判でしかないことがわかる。しかもその結論にたどり着くまでにも、しっかりとした根拠を重ねているという点が、本書とは逆の結論を出している本——すなわち、ベストセラー路線の若者論本——と違う。
本書の編者は、青少年言説のこの10年を「若者論の失われた10年」と表記する。編者によれば、80年代に若者論においては少しでも含まれていた肯定的な若者像が、90年代になると急速に後退し、否定的なものが主流を占めるようになり、青少年に対する「わかりやすい」、かつ声の大きい言説ばかりが横行するようになった。もちろん、それらの言説の中には、ある程度は的を射ているものもあるかもしれないが、全体としてはやはり、そのような言説の横行はマイナスのほうが大きかっただろう。もちろん本書は、そのような言論状況に一石を投じるものであるけれども、少々気になる点がある。
それは、この「若者論の失われた10年」が、若い世代にも影を落としている、ということだ。具体的に言えば、社会意識が高いであろう若い人たちは、投書欄に投稿しては「我々若い世代は〜」などといった物言いで、同世代をバッシングする。もちろん彼らがバッシングしているのも、通俗的な青少年言説が批判せずにはいられない「記号」ばかりである。彼らは、その言説が彼ら自身と決して無関係ではないことを知りながら、そのようなことを語っているのだろうか。
「若者論の失われた10年」を超えて、若い世代が自分を口悪く罵ってきた若者論を研究の対象にする時代が幕を開けつつある。本書がその扉を開く一つの突破口となってくれれば、「若者論の失われた10年」をはね返すことができるであろう。したがって本書は、少しでも青少年言説に興味のある人が、本屋の奥まで行かないと見つけられないような場所に置かれるべきではない。本書の置き場所は、ベストセラーの棚で並んでいる売れ筋の若者論の隣にこそ相応しい。
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