紙の本
願えば本当になるかもしれない。
2004/09/18 18:52
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オクヤマメグミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
短編集だが、共通して「なかちゃん」という男の子が登場する。でも連作ではない。読み進めるうちに所々で「なかちゃん」が顔を出し、まるで「なかちゃん探し」のようだった。
著者の小説は、読んでいるのに目の前に映像が浮かぶという不思議な体験が出来る。関西弁の会話のテンポも然り、特別な人ではない自分の周囲にいそうな登場人物が普通の生活をしている。だから側で見ているようなのだ。
『やさしさ』の中の、夜道をちょっといいな…と思っている人と二人で歩く場面は大のお気に入りだ。微妙な空気がこちらまで伝わってきて、良かった。
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な。ほんまやったやろ。
この人の安定感。
わたしだって思うもん。
一緒のものを見て、一緒にいる人がどう思ったか、自分と一緒もいいけど、違ってもわくわくするのとかおもしろいやろ。
そういうのに気を取られてたら違う方からひょいって呼びかけられて、それ、今そんなに思ってなかったのにうれしいことやったりしたから。
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表題作の他、やさしさ・パーティー・ポラロイドという4つの物語。
今まで読んだ柴崎さんの作品の底に流れる危うさは何なのだろう、と考えてみた。
この本を読んで、それが少しわかったような気がする。
いまここで楽しくやっている自分がいて、それはそれで自分なのだけれど、ふっと意識が遠くへ飛ぶ瞬間、本物の自分はその飛んだ先にもっと確かな存在として生きているような心地がして、ここにいる自分の実態があやふやに思えてしまうような感じ。
違う次元に生きている本物の自分と、今ここにいる自分の間を自分の中身だけがふらふら危うい感じで行き来しているような。
不思議だけれど懐かしい空気感に包まれる。
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話の筋は忘れてしまったけれど、この本に収録されている「ポラロイド」のあるセリフに励まされることが今でも度々ある。自分の原動力というか、大事にしていること。
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これって、やっぱり髪型じゃなくて近道的な意味でのショートカットよね、たぶん。
遠距離恋愛とか、距離感みたいなものについての短編集でした。
なんだか、ちょっと切なかったり、でもちょっと前向きに希望が持てたり。
終わり方が好きだなぁ。
まだつづきがありそうというか、この人の作品は全体的にストーリー自体にはっきりしたおちみたいなものがある性質でもないので、なんだかさっぱり終わります。
まだ描写し続けようと思えば続く感じがするのがいい。主人公たちが物語が終わった先でも生きて生活してそうな感じがする。
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不思議感をそのままぼんやり残したまま終わる、短編集(連作…みたいな感じもする)。柴崎さんは、こんな風にも書けるのか、あともうちょっと頑張ればもっとおもしろい、と期待。
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柴崎さん初読。でも読みやすかった。
やっぱり関西弁は可愛いな。
そのせいかな。文章が丸っこい人だなぁと思いました。
ちょっと他のも読んでみよう。
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短篇4つを含む短篇集。この人の文章に心を委ねるのは非常に気持ちよい。僕の思う理想的な文章がここにはある気がする。「読んでいる」その瞬間瞬間が非常に面白い。東京と大阪っていうのが柴崎さんのこれまでの作品におけるいつものキーワードで、さらにはそれに伴って、距離が近い遠いではなくって、距離なんて他愛もない、どうってことないやん、ていうのが底にある。気がする。(07/2/17)
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そういえば私はこういう作家が好きだったのだと再確認した一冊。時間が伸びて趣深く描写された濃密さに、感覚を刺激されました。遠距離恋愛にまつわる短編です。
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遠距離恋愛をしてる人は読んでて納得すると思う。
特に「やさしさ」は心に染みた。
遠距離の彼から毎日かかってくる電話になれちゃって、それが何とも感じなくなっちゃってる主人公にはっと何か気付かされた。
やさしさを無駄にしてはダメですね。
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浪人時代に柴崎友香を知ることができたのは本当に良かった。
どこにでもいそうな人たちが、どこかにありそうな場所で淡々と暮らしている様子は他のどんなことよりも私を勇気づけた。
これは短編集なのだけど、どの話にも出てくるあるひとりの人物「なかちゃん」彼がいい味出してる。なんか憎めないんだよなぁ。
なかちゃんの言うとおり、会いたいと思えば会えるって信じたい。
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1/18 わざとっぽくなりそうな話なのにそうならないのは会話部分のさわやかさゆえだろうか。作者の前向きな感じが伝わってくるところもよかった。嫌いじゃない。
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関西弁で綴られる『距離』や『時間』なんかがほんのりテーマになっている気がする、なんとなく恋愛にまつわる、作品の短編集。
柴崎さんの、なんとも捉えどころのない文章が好き。なんだかふわふわしている感じ。でも、どこか繊細で、リアル。
ある共通の人物が、複数の話に出てくる。
リアルなんだけど、不思議な話たち。
個人的にはこのなかの『やさしさ』って話が好き。
『ー真夜中にいるから思ったことがほんとうになったのだと思った。片野くんが言ったみたいに。わたしが、強く思ったから。』
この辺が好き。
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柴崎友香の語り口が好きだ。とにかく、彼女の物語はぽつぽつと語られる。ぽつぽつ、としか語られない、と言い直してもよい。饒舌に何かを一気に語るような熱を感じる訳でもなく、世の中のことに冷めてしまった遠い目をしているようでもない。ただ当たり前のように、そこにいて、隣に居る人のことを考えていたり、信号が変わるのをもどかしく待っていたりする主人公。柴崎友香は、そんな人物を、ぽつりぽつり、と言葉にしていく。しかし本当のところ、主人公はその場に居ない人のことを考えていたり、自分の気持ちにじっと浸っていたりする。決してつよい口調でそう語られるわけではないけれど、小さなものごとの変化の描写を通して、主人公がここではないどこかに行ってしまいかけていることが、巧みに語られる。読者は、信号が赤から青に変わることを読んでいるだけで、主人公の気持ちが変化していることを、いつの間にか柴崎友香に告げられてしまう。その語り口に、くぅ、となる。
「ショートカット」には4つのばらばらの話が収められている。4つの話の主人公はいずれも若い女性。いずれも遠距離恋愛をしている(二人は、過去形)。彼女たちは、遠距離恋愛というもどかしい関係に、不安を抱いている。そしてその不安が現実のものになる予感を持っている。そんな不安を抱きながら、目の前に居る男性と、束の間の擬似恋愛といっていいような関係にある自分に気づいている。そして、自分の気持ちの変化に気づいている。擬似恋愛、と言ったけれども、実際には、恋愛直前の関係、と言った方がよい。その時、人は一番相手と自分の関係について敏感であり、不安であり、そして期待感に満ちている。少しだけ苦しいけれど、幸せなひととき。そんな時に感じる、何でも起こりそうな予感、とでも言ったらよいものが4つの話には溢れている。
この本は「きょうのできごと」と少しだけ構成が似ている。「きょうのできごと」では、ある下宿に集まった若者の各々の物語が、前後する時間の中で語られる。各々の物語は下宿で開かれているパーティという一点において繋がっているのだが、その一点の置かれ方が、単に共有している時間ということよりもっと強い有機的な結線の集合点であるように、読み終わると感じるところが特徴だ。一方「ショートカット」も、4つのばらばらの話、と言ったけれど、どの話にも一人だけ同じ人物らしい男性が登場する。その人物が、なかちゃん、である。なかちゃんの存在と、各物語の主人公の置かれた位置の似かよりで、なんとなく全ての話は、どこかで繋がりを持っていると思うように受け止めるしかなくなる。その繋がりの描かれ方が「きょうのできごと」同様、うまいと思うし、くぅ、となる原因でもある。
狂言回しのような、なかちゃんは、とても非現実的な人物のようでもあり、それでいてとても人間臭くもある。表題作である「ショートカット」では、主人公がなんとなく参加した合コンで初めて知り合った可笑しな話し相手、という主要な登場人物として描かれる。2つ目の「やさしさ」では、自転車を押して歩く男性と一緒にいる内に出会うけが人として登場するのだが、それがなかちゃんであることは4つ目の話を読むまでは伏せられている��また、3つ目の「パーティー」では、変なカメラマンとして、主人公とその友達を困った状況に追いやる人物となり、そして最後の「ポラロイド」では、大阪から出て来た女性のもとに、偶然掛かってくる電話の相手として、なぜ主人公となかちゃんがカメラを手にしているのかに、一応の説明を付ける役回りを担っている。なかちゃんと出会うことで、どの主人公も自分の中で何かが変わることを体験する。あるいは、本当はもう起こっていたはずの変化に気づかされる。なかちゃん自身の物語は、1つ目の短篇で語られたきり表に出てくることはないのだけれど、あたかも4つの短篇を通してなかちゃんの中で起こったであろう変化が、うっすらと見えてくるようにも思える。そんな不思議な登場人物だ。
印象的な登場人物である、なかちゃん、に比べ、4つの短篇に登場する女性は、皆同じような透明の雰囲気を醸し出している。そのはっきりと何をしたらよいのか解らないながらも、少しだけ前向きな気持ちを持ち続ける女性に、共感に近い好もしい気持ちを覚える。多分、自分はその女性たちに柴崎友香の顔を当てはめながら読んでいる。決して幅広いとは言えない登場人物の個性ではあるけれど、柴崎友香の描くその人物たちに、何度でも愛おしさを覚えてしまうのだ。つまり自分は柴崎友香に惚れた? 多分、そういうことなのだろう。それは、ただし、柴崎友香が「ショートカット」の中で描いて見せた、擬似恋愛、もしくは、恋愛直前の感情、のようなものにも、とてもよく似た感情であることも間違いない。
柴崎友香はこれからも、そんな人物達を描き続けていくのだろうか。描き続けて欲しい気もするし、彼女の異なる面を読んでみたいとも思う。それは、ファンとしてどんな作家、あるいはもっと広く創作者に対しても感じるジレンマでもある。似たような作風を期待しつつ、マンネリにもなって欲しくない。そんな相反する感情だ。そして、恐らくそれは作家自らも感じていることでもあるだろう。特に、まだ枯れるには程遠い年齢の彼女のことであれば。果たして柴崎友香は、この後その壁を乗り越えるのだろうか。できれば、川上弘美のように、書くもの書くものに似たような匂いを残しつつ、異なる物語を描き出せるような作家になって欲しいと、心から願う。
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忘れてしまいそうな
胸の奥の小さな隙間に落としてしまっていた
大事な大事な事を
くすぐるように思い出させる
そんな短篇集
キーパーソンは なかちゃん
「なあ、おれ、ワープできんねんで。すごいやろ」