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草原と馬とモンゴル人 (NHKブックス)
著者 楊 海英 (著)
騎馬をあやつり、大草原を駆けてユーラシアの東西を架橋した遊牧騎馬民族モンゴルとは、どのような人々なのか。モンゴル族の著者が、英雄チンギス・ハーンの叙事詩をたどり、人々の馬...
草原と馬とモンゴル人 (NHKブックス)
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商品説明
騎馬をあやつり、大草原を駆けてユーラシアの東西を架橋した遊牧騎馬民族モンゴルとは、どのような人々なのか。モンゴル族の著者が、英雄チンギス・ハーンの叙事詩をたどり、人々の馬に対する思いから遊牧民の生き方を語る。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
楊 海英
- 略歴
- 〈楊海英〉1964年中国内モンゴル自治区オルドス生まれ。国立民族学博物館・総合研究大学院大学博士課程修了。文学博士。現在、静岡大学人文学部人類学講座助教授。共著に「チンギス・ハーンの末裔」。
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馬とともに草原を駆け抜けてきたモンゴル人の文化を、遊牧とチンギス・ハーンからみる。
2001/07/23 18:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:挾本佳代 - この投稿者のレビュー一覧を見る
チンギス・ハーンを民族的にも深く愛してきた、オルドス・モンゴル出身の著者によれば、日本ほどモンゴルという国を理解してくれている国もないそうだ。というのも、他の外国諸国ではほとんど皆無なのに比べ、日本の本屋には多数のモンゴルについての本が多数並んでいるからだという。そう言われてみれば、私たちは近い系統の民族としてモンゴルに親しみを持っている。相撲界にもモンゴル出身の力士が多く誕生しているし、その影響か、モンゴル相撲の存在を知っている日本人もかなり多い。蒙古斑という子供のおしりにできてやがて消えてしまうアザの名の由来も、モンゴルからきている。
けれど、そうしたモンゴルの人たちの文化を私たちは正確に知らない。いや、ほとんど知らないと言っても過言ではないだろう。本書はモンゴル人とウマが共に生きてきた、その紛れもない文化・歴史を、ウマを通して描写したものである。
モンゴル人はウマを大切にする。「ものを乱暴にあつかえば財産が壊れる。妻を乱暴にあつかえば家庭が壊れる。ウマを乱暴にあつかえば国家が壊れる」という古い言葉もあるそうだ。彼らは砂漠にいるウマに水をやると、死後天国にいけると信じている。ウマの寿命は14〜15年ほどだが、彼らは、使役に耐えられないほど老衰したウマを家の近くに放たれて天寿を全うさせる。モンゴル人は自らの家畜の群の中から駿馬が誕生するのを夢見ている。頭がひきしまり、耳がピンと立ち、首筋が太く、胸がたくましいといった外見が秀でていることはもちろんのこと、心臓が大きく、大腸が太いといった外見から判断される内面の力強さも、駿馬の必要条件であるという。将来性のあるウマを猛特訓を重ねて競争に出す。そこで見事、トップに輝いたウマが駿馬としての地位を獲得するのである。
モンゴルは人間とウマが草原の中で共生している。ウマは家畜であると同時に家族であり、友であり、歴史を語るものである。本書の中には人間とウマとの深い関わりをうたった歌が多数紹介されている。どれもこれも素朴で力強く、感情がストレートに出されている。いくつか紹介してみたい。「ヨモギのある草原に/馬群がとどまる/父母のいるところに/子孫が繁栄する」。「草むらのあいだにのこる/あなたと私の足跡/ウマに乗って別れるときに/鞭をふってウマを飛ばしても匂いがのこる」。「ヨモギのある草原をうしない、/愛する馬群の草がなくなった/清らかな湖をうしない、/愛する女たちの顔を洗う場所がなくなった」。父母への感謝も、恋人への想いも、すべてウマを通して語られる。ここまで愛おしい対象として、人間が生活を共にする動物のことをうたった歌があるだろうか。
本書を読む途中から、私はすっかりモンゴルの人間とウマを語った歌が気に入ってしまった。もちろんモンゴルには行ったことがないけれど、著者の描写と歌から、目の前には見果てぬモンゴルの地が広がる。美しい緑色の草原をウマが駆け抜ける。ウマには人間が乗っている。人間はウマがいなければ生きていけない。人間の目もウマの目も澄んでいる。時計に追われ、コンクリートばかり見ている目とは違うのだろう。なんだかモンゴルに行きたくなってしまった。 (bk1ブックナビゲーター:挾本佳代/法政大学兼任講師 2001.07.24)