紙の本
虫ってすごい
2006/09/07 12:46
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:HN - この投稿者のレビュー一覧を見る
6億年以上も前にわれわれと共通の祖先動物から枝分かれしたのちに地球のすみずみにまで適応し、大繁栄をとげている昆虫。昆虫のユニークな姿、形、行動は今や子供だけでなく、大人をもとりこにしている。ところが、昆虫の多様な行動をうみだすのが、たかだか1ミリ四方しかない小さな白い脳だといわれると驚かれるであろう。本書は“微小脳”の名付け親による昆虫の神経行動学の入門書である。
ファーブルが昆虫記を世に送り出して100年、フリッシュがミツバチのダンスコミュニケーションを発見して50年、今や神経行動学のメスは高次行動をつかさどる微小脳の機能解明へと入りつつある。昆虫が哺乳類にも似た認知能力をもつことが次々と明らかにされ、動物共通の神経原理を追求するのに格好のモデルとなりえることが示される一方で、微小脳の構造は複雑で、一筋縄でいかない部分も垣間みえる。本書ではバッタの飛翔のようにそのしくみを単一神経細胞のレベルで理解できる行動から、ゴキブリの場所学習、ミツバチやチョウの視覚認知に至るまで研究のトレンドが余すことなく解説される。日本の神経行動学者の奮闘ぶりをみて頂きたい。
ポケットブックにしては図が多く、キーワードやキーフレーズが太字で示されていることから、流し読みでも十分楽しめる。また、たとえ話、こぼれ話が満載で、科学読み物としても楽しい。本書は高校生物程度の知識があれば十分に楽しめる内容となっているが、とくに動物行動のしくみに興味のある方、将来神経科学者を志す大学生に一読を薦めたい。読み終える頃には昆虫もわれわれと同じ“地球のなかまたち”として親近感を覚えるのか、それともその卓越した能力に怖れを抱くのか、読者自身で感じとって頂きたい。
紙の本
生物学の研究は面白い
2006/11/18 14:48
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
神経生理学の進歩、最新生物学の成果には仰天させられた。昆虫の脳は人間の脳に比べれば無いに等しい大きさである。その微小脳で行われる、視覚認識、方位認識と他の個体への伝達、臭いの識別と学習と記憶、飛行運動、のしくみがここまで解明されてきているとは。感覚器の情報がどの神経細胞からどのような系統を伝わって、脳のどの部分でどのような情報処理が行われ、認識されているのか。それらをどのような手法でどのように解明しているのか。著者の研究経験、研究成果をもとに生き生きと解説されている。読んでいて興奮し、感激し、生物学の研究は面白いものだと思わざるをえない。自分の経験を自分の言葉で率直に語っていることが、迫力を生む。それにしても微小な脳の微小な神経細胞にどのようにして信号検出用のプローブを刺すのであろうか。自然科学の実験研究では、頭脳だけでなく忍耐力と体力と職人技も必要になる。それらは徒弟制度による経験によって身に付けるものなのだろう。
投稿元:
レビューを見る
非常に専門的で、難しい。昆虫が好きでそのすごさには感動するので、何とか読み進めていけたが、脳と昆虫と両方に興味があってしかも理系の人じゃないとかなり疲れると思う。
投稿元:
レビューを見る
興味深い本だった。面白い、というには読むのに努力が必要だ。専門用語が山のように登場するためだ。そこはまあ仕方がない。神経に関わる言葉、化学的な用語、略称の山。それはまあ読み飛ばすつもりでも大丈夫ではある。
冗長性のあまりない小さな昆虫の脳がいかに優れているのかがよく判る。そしてほ乳類い代表される大型の、冗長性の高い脳のあり方との違いがよく判る。
虫の眼で見た世界が自分の見ている世界とどう違うのか、この本で初めて理解出来た。複眼の歴史の本やらいろいろ出会ったことはあるけれど、ここまできちんと書いてくれないと判らない。もちろん専門用語は今でもよく判っていないのだけれど。
しかし、昆虫には自分のことを考える余裕はなさそうだ。残念ながら。
投稿元:
レビューを見る
わずか一立方メートルにも満たない昆虫の脳に着目した本。
報酬系や短期記憶、長期記憶など、自分が元々興味を持っていた分野は、実験手順からも哺乳類との共通項などを感じ、大変面白く読むことが出来ましたが、それ以外の分野では自分の不勉強さを実感させられました。むつかしー!勉強し直さないと全部を理解することは到底出来なそうです。とは言え、昆虫の大きな目<複眼>の間にある、小さな目<単眼>や、景色の記憶に関わるキノコ体など、今まで知らなかった昆虫の構造を知ることが出来た本でした。
いやー、しかし、この本を読んでると実験体として扱われるワモンゴキブリがさすがにちょっとかわいそうに思えました。がんばれ!(?)
投稿元:
レビューを見る
第1章 昆虫の繁栄を支える小さな脳
第2章 ファーブルから現代まで
第3章 複眼は昆虫の何をものがたるか
第4章 単眼はどんな働きをしているか
第5章 空を飛ぶしくみ
第6章 匂いを感じるしくみ
第7章 キノコ体は景色の記憶に関わる
第8章 匂いの学習と記憶
第9章 ミツバチのダンス
第10章 ハチやアリの帰巣と偏光コンパス
第11章 微小脳と巨大脳
投稿元:
レビューを見る
複眼や視力のくだりが面白かった。
ハエからみると人間はスローモーションである、といったような。
後半難しくて読み飛ばしてしまいました・・・
投稿元:
レビューを見る
(アリ飼育者向けのレビューです)
直接アリに言及しているのは「第10章 ハチやアリの帰巣と偏光コンパス」くらいだが、この章がなくても十分に読む価値のある本。
昆虫がどのように周囲の情報を受容し、処理し、活動しているのか、研究の最前線を紹介しつつ、一般向けに解説した意欲的な新書である。
個別の昆虫についての話ではなく、ゴキブリ・トンボ・ハエ・コオロギ・ハチなどトピックによって使っている昆虫は違うが、昆虫一般に共通する内容を取り上げているようだ。
昆虫の行動を見て「ちっこいくせに、ちょこざいな!」と思ったことのある方で、どんな仕組みになってるのか興味があるなら、必読。
読んでみてまず、昆虫が思ったよりも「賢い」ことにびっくりした。
「ムシは学習しない」と思い込んでいたが、ゴキブリやコオロギやショウジョウバエでさえ「学習」や「記憶」ができるとか。ムシの能力を見くびっておりました。ごめんしてね。
また、昆虫は人間に比べて非常にコンパクトな設計の神経系なのに、必要な情報だけに絞って素早く処理するルートを持っている。ハエを叩こうと思ってもなかなかうまくいかないのは、ハエの視覚は画像解像度は低いけれども時間当たりの処理量がバツグンに多い(素早い動きを見切れる)ためだとか。
ニューロンだのキノコ体だの、難しい単語がバンバン出てくるし、誰々がどこそこの研究室で、といった話も多いが、ついていけるところだけ飛ばし飛ばし読んでも非常に刺激的な内容。
「誰がどのようにして解明したか」といった話は、たいがい自慢話みたいでつまらないように思うが、この本に関しては、「ひー、そんなめんどくさいことを!」と言いたくなるような研究(ムシの脳のニューロン1コ1コに電極を刺すとか)ばっかりなので、そういうことをしてくれた研究者の方々にひたすら頭が下がる思い。あの、今まで「なんでアリの研究はちっとも進んでないの!」とかほざいてましたが、もう言いません。この本読んだら言えません。すごく当たり前のようなことでも、それを科学的に証明しようとすると、ものすごーく面倒な手順が必要になるということを知った。
アリ飼育においても、非常に実践的に役立つ本である。
まず、「アリをあんまりバカにしちゃいかんな」という戒めになる。
そして(こっちがメイン)、餌にするハエなどを確実に捕まえられるようになる。
上述したように、ハエの視覚は時間処理速度は高いが画像解像度は低い。周囲の状況はうすぼんやりとしか見えていないが、素早い動きをするものには間違いなく反応できる。この本を読んで以来、飲食店などでブーンとごちそう(アリの)が飛んできてテーブルに止まると、「いらっしゃーい!」という気分になる。まずそっと捕獲容器(管ビンや円筒ケースなど)を準備する。そして極力ゆっくりと容器をハエにかぶせる。もうね、百発百中。最後の瞬間にシュパっと動きたくなるが、そこも我慢。最後の最後までスローモーションでやれれば、ハエは全く気づかない。明暗はけっこう分かっちゃうみたいなので、容器は透明なほうがいいのかも。容器の下に紙などを差し込んで持ち��げてから蓋をすれば、可愛いアリンコちゃんたちへのお土産ができる!我が家のアリンコたちの食糧事情は、おかげで少し改善されました。
あ。でも、飲食店であまりにも奇異な動きをしているとご迷惑かも。行動目的が「ハエの捕獲」であることも含めて。なるべく目立たないようにやることをおすすめします。
投稿元:
レビューを見る
[ 内容 ]
ヒトの脳に比べてなきに等しい昆虫の脳。
ところが、この一立方ミリメートルにも満たない微小脳に、ヒトの脳に類似した構造が見られることが明らかになってきた。
神経行動学は、ファーブルやフリッシュを驚嘆させた「陸の王者」の能力を、精緻な実験によって脳の働きと結びつけ、ダンスによる情報伝達、景色記憶、空間地図形成能力など、昆虫の認知能力の解明に乗り出している。
本能行動の神秘に迫る最新生物学の成果。
[ 目次 ]
第1章 昆虫の繁栄を支える小さな脳
第2章 ファーブルから現代まで
第3章 複眼は昆虫の何をものがたるか
第4章 単眼はどんな働きをしているか
第5章 空を飛ぶしくみ
第6章 匂いを感じるしくみ
第7章 キノコ体は景色の記憶に関わる
第8章 匂いの学習と記憶
第9章 ミツバチのダンス
第10章 ハチやアリの帰巣と偏光コンパス
第11章 微小脳と巨大脳
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
投稿元:
レビューを見る
バイオロジーのバックグラウンドがないと全てを理解するのは難しいが、説明にも手抜きがない力作。長年、真摯に昆虫研究に打ち込んでこられた様子が垣間見えて好感が持てる。C.Elegansのように、全ての遺伝子、ニューロンの配置が解明された生物もあるが、昆虫は1ミリ立方の脳に100万個程度のニューロンとそこそこ複雑だ。霊長類のような大型の動物との違いはもちろん多く、色覚など紫外線、青、緑に感受性があり(赤はない)、短波長側にずれている。体が小さいため視力も0.01とか0.02程度で空間分解能に劣る。その代わり明暗の検出や時間分解能は優れており、ハエには蛍光灯のちらつきも見えているそうだ。神経回路は単純で、バッタの羽のニューロンは2-3個しかない。面白かったのは、相違点よりも類似点の話。これには記憶におけるCREBの役割など、古くから保存されてきたものもあるが、動きの検出回路などのように、単眼と複眼では全く違うハードウェアにも関わらず大型動物と同じ原理のものがあり、これが異なる進化の過程を経て同じものにいたる収斂進化の好例となっている。カニッツァの三角形など、錯視も起こるそうだ。また、ゴキブリのニューロンに電極を刺す苦労や、ハチのダンスが正しく解読できたかどうかロボットを使って確認する話など、実験の現場の話もとても面白かった。■行動のしくみを一つ一つニューロンの働きに還元して理解したい
投稿元:
レビューを見る
昆虫は、地球上で最も繁栄した動物群である。その繁栄の秘密は、彼らの小さな脳(微小脳)にある。本書は、新書ながら、昆虫の神経科学についての知見を網羅した教科書的な本である。
とても勉強になったが、厳密性を追求するあまり、決して読み易いとはいえないのが残念だ。一般向けの読み物というよりはむしろ、専門家を対象とした巨大な総説である。執筆には相当の労力を費やしたと思われる。(実際、5年もかかったらしい。)航海中の船は、幾度も難破しかかった。
大気によって散乱された太陽光が偏光していることは、知らなかった。レイリー散乱によるものである(空が青く、夕焼けが赤い理由)。ハチやアリの複眼は、偏光方向を検出する能力がある。偏光が最大である方向と、波長の長短の情報から太陽の位置を割り出し、その情報を使って正確に帰巣することができるのだ。
ハチやアリのもつ偏光検出器は、様々な向きに配置された偏光板のようなものである。一体、いかなる分子的メカニズムによって、レチナールの向きを揃えて光受容体を発現させることが可能なのだろうか?
投稿元:
レビューを見る
ムズイ!論文を読んでいるよう。これで平易に解説をされているとは・・。でも昆虫は人間が思っている以上に高度な脳をもっていることが大変よく分かりました。
投稿元:
レビューを見る
第1章 昆虫の繁栄を支える小さな脳
第2章 ファーブルから現代まで
第3章 複眼は昆虫の何をものがたるか
第4章 単眼はどんな働きをしているか
第5章 空を飛ぶしくみ
第6章 匂いを感じるしくみ
第7章 キノコ体は景色の記憶に関わる
第8章 匂いの学習と記憶
第9章 ミツバチのダンス
第10章 ハチやアリの帰巣と偏光コンパス
第11章 微小脳と巨大脳
著者:水波誠(1957-、福岡市、生物学)
投稿元:
レビューを見る
昆虫の神経行動学がここまで進んでいるとは驚き。この知見は応用がいくらでも利くだろうし、今後の発展が楽しみ。
投稿元:
レビューを見る
バイオミミクリーへの関心から派生して「昆虫」の本を読んでみる。
そういえば子供の頃は、昆虫好きだったなと思い起こしつつ、最近の「昆虫」への関心は、1年半くらい前に宮古島でキャンプをした時にスタートしている。
自然のなかで、ボーとしたり、散歩したりしているなかで、目の前を蝶とか、蛾とか、色々、昆虫が飛んでいる。
ふと、こんなに小さなものが、どうやって飛行を制御しているのだろうという疑問が湧いた。
小さの蝶の大部分は、羽で胴体の部分は限りなく小さくて、脳もほとんどないに等しい大きさ。
こんな小さな脳でどうやって様々な情報を処理して、それを動きに伝達して、風とか、色々な条件の変化に素早く適応しているのだろう、ということが不思議で仕方なかった。
昆虫は、なんだか地球外からやってきた生命というか、高性能の工学機械のような気がした。
という感じで、この本を読んみた。
新書にしては、かなり本格的な本かな?素人的には細かいところはついていけないところもあったが、興味の対象は全く同じかな?
こんな小さな脳でどうしてこんなに複雑なことをなしているのか?
ということ。
純粋に好奇心が満たされるとともに、そのメカニズムを知ることは、色々な領域で応用できそうな進化的な知恵がたくさんあることに納得した。