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紙の本
物語を理解することを放擲した上で700頁を踏破してみて感じたこと
2010/11/05 22:42
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
2010年のノーベル文学賞がマリオ・バルガス・リョサに授与されることが決まったと知り、早速手にしてみました。新潮文庫で約700頁という巨編です。
ペルーの地で起こる5つの物語が脈絡もなく始まり、やがてひとつの調べへと結実していく交響楽的物語、とのことですが、これはなかなか手強い小説です。
なにしろ、ひとつの場面、ひとつの時間に数人の男たちが会話を交わしていたかと思うと、突然その会話の内容が指し示す別の場面、別の時間が通例の文章手順を曲げて混入してくるという具合。実に幻惑的な時空間の瞬間移動が随所で繰り返されるのです。
199頁でフシーアが「おれはもう時間の感覚がなくなってしまったよ」と吐露する心情がまさに心に添う思いをしました。
かてて加えて、登場人物の数が半端ではなく、スペイン語圏のなじみのない人名の数々に息切れを感じつつ、フシーアという名の日本人が現れるに至っては、戸惑いという言葉では言いつくせない気持ちに陥ります。これら膨大な数の登場人物の相関図を頭に描き、それを維持しながら700頁を読み進めるというのはなかなか骨の折れる作業になります。
ですから私自身、この物語の全体像を正確に理解できたとはおよそ言うことができません。誰と誰が夫婦関係で、誰がそこに岡惚れを仕掛けているのか、誰が誰より年長で、誰が誰の部下なのか、最後まで記憶にとどめながら読みとおせたとは思いません。
それでもこの700頁をなんとか踏破できたのは、描かれる人々の住まう街の匂いやその空気圧が妙に心地よく感じられたからです。ひとつには日本から遠い地球の裏側の世界が醸し出すエキゾチズムに酔うことができたこと。そしてもうひとつは、物語の錯綜感が、理解などというものを平気で度外視しても、尽きることのない興趣を与えてくれるものだと思うことができたからです。