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兵士であること 動員と従軍の精神史 (朝日選書)
著者 鹿野 政直 (著)
動員された兵士は、自分の人生を中断されたという意味で被害者だった。が、武器をとる戦闘者であることにおいては、まぎれもなく加害者だった。兵士によって見きわめられた戦場とはど...
兵士であること 動員と従軍の精神史 (朝日選書)
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商品説明
動員された兵士は、自分の人生を中断されたという意味で被害者だった。が、武器をとる戦闘者であることにおいては、まぎれもなく加害者だった。兵士によって見きわめられた戦場とはどんなものであったかを説く。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
鹿野 政直
- 略歴
- 〈鹿野政直〉1931年大阪府生まれ。早稲田大学文学部卒業。99年まで同大学に教員として勤務。著書に「大正デモクラシーの底流」「近代日本の民間学」「戦後沖縄の思想像」など。
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日本軍兵士たちの戦場での過酷な体験を軍事郵便を読み込むことによって解明
2005/01/24 23:27
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
歴史学が、アジア・太平洋戦争における日本軍兵士個人の戦争体験を研究対象とし始めたのはつい最近のことである。これまで歴史学は、軍事制度の分析や客観的な戦史、銃後の被害などに研究の重点を置いていた。1980年代になって、ようやく従軍慰安婦の存在や強制連行の問題が明らかにされ、日本軍が中国で行なったとされる細菌戦・毒ガス戦・アヘン密売政策なども、近年研究者によって史料に基づいて跡づけられるようなって来た。ところが、戦争に出征して行った兵士たち一人一人が戦場で何を体験し何を行なったかということは、これまであまり歴史学の視野には入っておらず、やっと最近になって、オーラルヒストリーという方法の確立もあって、研究の対象になって来た。
本書は、そのような歴史学の流れを受けて、日本軍兵士たちの「従軍と動員」をめぐる問題が4章に渡って多角的に論じられている。この中で重点的に論じられているのは、日本軍兵士たちがどのように召集され、中国戦線でどのような出来事に遭遇し、何を行なったかということについて述べられた「村の兵士たちの中国戦線」の章である。著者は、中国の戦場から家族や恩師に出された兵士たちの多数の軍事郵便(葉書)を丹念に読み込み、彼らの体験を辿ることで、いくつかの特徴を抽出している。
まず挙げられているのは、兵士たちの故郷・家族・生業などへの強い思いである。生業を中断して後ろ髪を引かれる思いで、生還の目処も立たないまま出征して行った兵士たちの心情は軍事郵便からいたいほど伝わってくると著者は指摘している。
次の特徴として、兵士たちの多くが中国軍の手強さと戦闘の激しさを訴えていることである。中国軍と言えば、弱兵とのイメージがあるが、戦闘に加わった兵士たちは強敵として見ていて、激戦の様子を繰り返し伝えている。
また、兵士たちが厳しい戦争体験を重ねて行くうちに、人間的な感情を失い、中国民衆への無情な行動もいつしか日常のこととして行なっていることも郵便から覗うことができると著者は指摘している。これには、圧倒的多数を占める中国民衆から絶えず包囲されていて、いつ攻撃されるか分からないことへの恐れも背景になっているという。
軍事郵便は、検閲されていたこともあり、言いたいことも制限されていたようであるが、それでも、兵士一人一人が直筆で書いたことに変わりなく、否応無く戦争に動員された兵士たちの置かれた厳しい状況が伝わってくる。
著者は、以上の兵士たちの軍事郵便を分析して、兵士たちは生業を断ち切られて強制的に召集された点では被害者であるが、戦場で軍事行動を行なった点では、中国民衆に対して紛れも無い加害者であったと結論している。
本書は、以上のように重い内容であり、正直言って読後感は決して良いとは言えない。心の中に深く澱のようなものが沈んでいくような気持にさえなる。それにもかかわらず、書評に取り上げたのは、一般向けの歴史書には類書が無いこと、著者の事実を曇りない目で見る姿勢に共感を覚えたからに他ならない。昭和史に関心のある方、とりわけ若い方に読んでいただきたい本である。
なお、本書には、画家浜田知明の戦争体験に深く裏打ちされた版画作品や歌人の宮柊二の出征から戦場体験までを詠んだ短歌が紹介されている。浜田や宮の作品からは、人間としての悲痛な叫びが聞こえて来て、今なお戦争の悲惨さや軍隊の非人間性を訴えて止まない。