紙の本
悪とはなにか?
2001/03/03 10:26
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投稿者:桐矢 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『平気でうそをつく人たち』という本がある。生まれつき邪悪な人間がいると仮定した衝撃的な本だったが、この本の基本的なスタンスは、それとは全くことなる。これが、西洋キリスト教的立場と、東洋アミニズム的立場の違いというものなのだろうか?
偶然にも、この本には、最近再読したばかりの『デミアン』が、とりあげられている。子どもと悪を語るにはそもそも「悪」とは何かを明らかにせねばならず、そのために著者は、悪とは何か…という一項を設けている。
「ものの考え方には、対立する二つの考え方があって、どちらが正しいか簡単に言えぬ時がある。(中略)実のところ、どちらかが「絶対に」正しいなどと言えないと私は思っているが、往々にして、ある社会や文化は、片方を善とする。そうなると、それと異なるものは、悪と考えられたり、いじめの対象になったりする」
もちろん、著者は、悪…うそ、ぬすみ、暴力、いじめ、などをそのまま容認するわけではない。ただ、一方的に善と悪とを線引きして、片方を排除することなど出来るのかという問いを投げかけているのではないだろうか。私自身は、『平気でうそをつく人たち』の著者よりも、河合隼雄の主張の方がよりなじみやすい。
ただ、現場では実際に悪に対して机上の理想論が何の役にも立たないことは、臨床の場で荒れる子供達と付き合ってきた著者は、よく分かっている。そこに、辛さがある。ここからは善でここからが悪!と言い切れたら、さぞ楽だろう。
西洋で善そのものであった「神」はもう死んだ。日本で関係性の中で善と悪のバランスを保つ働きをしてきた「家族」はもう解体した。
私たちは、今、どうすればいいのだろう。
紙の本
子どもにとって悪とは
2000/08/31 15:43
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投稿者:加藤四郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
子どもにとって悪とは何か。著者は臨床心理学者の立場からこの問題に迫る。知人の話から、子どもの「悪」の経験が、その人の成長にどのように影響を及ぼしたのか、またカウンセリングの経験から、子どもの「悪」の行動が親へのメッセージになる場合など、文学作品なども引用しつつ紹介している。また現代の子どもの「悪事」が陰湿化していく現実にも触れ、偏差値教育の悪弊にも筆は及ぶ。
このように子どもと悪の関係を正面から追及した稀有な著作である。未成年の犯罪が増える一方で、社会における倫理が問い直されている現在、子どもとの付き合い方がわからず戸惑っている親も多いことだろう。そんな親たちにぜひ読んでいただきたい一冊である。
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・そもそも悪ってなんだろう?
・子どもが悪さをしたとき、どのように対処すればいいのだろう?
・その行為の中で、子どもが発露したかったその奥にある感情は何なんだろう?
こういったさまざまな疑問を考えさせられる本。
僕も人の親になったとき、また読み直して見たいと思う。
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悪を排除しようとする所から始まる子育てに疑問。
自己実現の始まりは、悪のかたちをとって現れる。
などなど、いいことかいてる。
しかし、
決して子育てのハウツー書ではなく、そこが良い。
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「悪」を頭ごなしに否定するんじゃなく、「そもそも悪ってなによ?」というところから一緒に考えてくれる本。
悪を禁止するのではなく、悪いことの中に子供が発するメッセージを読み取る必要性を教えてくれた。
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命にやさしくなるためには、命を遊んでみることが必要だ。チャンバラ、虫殺し、人形ごっこ…
自分の心を混沌のまま丸ごと引き受けること。こどものこころを裁かないこと。悪も善も、ひとところにあるもののはず。
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「悪」とは、「やってはいけないこと」に等しいのか。
でも、一見「悪」に思えることでも、後々になって考えると必ずしもそうとは言い切れないことってたくさんある。
例えば、小さいころに昆虫を殺して遊ぶこと。
「悪」だと決めつけて、全て禁止してしまったら、「死ぬ」ということがどういうことなのかを知る機会がなくなることにつながるかもしれない。
あと、「悪」の奥にあるもの。
それをすることで、子どもは何を訴えようとしているのか。
表面の「悪」を退治することだけに熱心になって、その奥の根本の問題を見過ごしてしまうことは、取り返しのつかない「悪」を招く結果になるかもしれない。
「悪」は奥が深い。
すべて悪に拒否反応を示すのではなく、悪いことは悪いこととしながらも、その意味をさぐり、時にはその必要性を認めることも考えなければいけないのかもしれない。
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すでに子育てを終え、しみじみ振り返る中でこの本を読みました。
以来、何度か読み返しています。
河合先生は、きっと多くの子どもや親御さんの相談を経験される中で、「悪」という問を立てられたのでしょう。
私たちが一般的に「悪」というモノに出会ったとき、その事象にどのように向き合うといいのかを教えてくれる本です。
「子ども」の成長や自立の中で多角的に「悪」を捉え見ていくことの大事さと、成長のすき間に入り込んで来る「悪」を通して学ぶことの何と多いことか・・・。
私たち大人は「悪」を「悪」と捉える締め付けられた視点の他に、子どもの「悪」から多くを知り学べることを認識したいものです。
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大人として子供とどう向き合うかを考えるための本であると同時に、自分の子供時代を振り返るための本でもあると思う。読みながら、私自身の思春期の様々な葛藤が思い出され、またそれを黙って見守ってくれた両親の有難さを噛みしめた。やわらかな文章が胸に沁みる。
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子どもの創造性と悪には密接なつながりがあるのではないか、というお話。
作家や学者などの子ども時代の話や、文芸作品に描かれた子どもの姿などを例に、「悪」とみなされる行動が子どもにとってどのような意味をもつかを論じている。
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メモ、ー部分は雑感。
P51 悪の様相を考えると、そこに何らかの「関係の解体」が存在している
P74 プロメテウス 盗みの話のルーツ 盗みによってなされることがよく示されている
火はあかり、闇のなかを照らす 人間の意識の象徴
個人が自分を個として何物にも従属しないと意識すること、自立
しかしこのことは従属させたい側からすれば悪 ここで盗みという手段が生まれる
ヨーロッパ文化における英雄、プロメテウス 一度はゼウスと敵対し火を盗みとる必要がある
P103 ワイルドネス、暴力 による悲劇を生じさせないため、大いに関連する自分の身体について考える
P105 身体と悪 汚いものが排出される身体だから~悪 に結び付けられる 清潔に保つコントロールを子どもには大切な仕事とされる
P107 身体性を置き忘れた子 →アレルギー疾患などの増加?
ーしかし、これは化学製品に常に暴露されるようになっていることも理由のひとつかもしれない
P143 日本が西洋文化をとりいれたとき、「ウソは絶対に悪」は輸入したが、ジョークの技術をまったく輸入しなかった
P146 秘密を持つ子は暗いと決めつける人もある 何でも話す子はよいこと確信している教師や親も多い
しかしそんなに簡単ではない
P182 日本では個性的な子供がいじめられやすいことになる。教師も日本人であるので、知らず知らずのうちに異質なものを憎む態度が子供たちに伝わり、子供たちのいじめを背後から無意識のうちに支持していることが生じる場合がある。
-ひと昔まえから相変わらず、教師がステレオタイプ的よいこを好む姿をみると、学校とはどのような機関であるか思い出させてくれる。一定のクオリティの品を出荷しようとする19世紀的な工業社会のattitudeで、本来の意味での師のものではないだろう。
P218 日本の親や教師は教えたり、指導したりすることにせっかち。子どもの中から自ら育ってくるものを待つことができない。子どもの心のなかから悪とみえる形をとって芽生えてきたものが、どのように変容するのかその経過を見る前にすぐにその芽をむしりとってしまう。大人たちの善意が強すぎる。
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悪の存在についてー…
私は幼い頃、悪い子だった。
先生に歯向かい、男の子を罵倒し、悪口をいいまくった。お金をちょこっと盗んだこともある。
そのきっかけは何だったのだろう。
たぶん、自分がした優しさに胸が苦しくなったから。
初めて誰かに好かれたから。
そんなことが、苦しくなったから。その経験の反動で悪を知った。不思議なきっかけ?そうともいいきれない。
子供の心は複雑だけど、なんだか真理をついている。
悪を肯定する、訳ではない。けれど、いいこちゃんでいるという悪い子。そろそろ疲れないかな?
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子どもの気持ちに寄り添ってながら大人がスッと読める不思議な本だった。大人になりきれないまま子育てに追われた両親を思うと、不安と向き合い切れなかった苦しみも分かる気がしてくる。ほんとうの大人への道のりはなかなかに遠く、子育てもきっとその過程なんだろう。
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書かれていることについて、自分の経験を振り返っても、そうだよなぁと思う部分と、認めたくないけどたしかにそういう暗い部分があると認めざるを得ないこともあるなと思った。
悪と創造性の関係についてはすごく同意。
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子どもと悪、と大人を三角で結んでその関係を考えていく。
子どもの悪の裏に潜む事情や意図、想いをどれだけ汲み取れるか、そしてどれ程介入していくのか。悪というけれど、その先にあるものは時に創造性だったり、善だったりする。そういうふうに変えていくのは子どもの力なのだけど、大人の関わりが必要になってくる場合もある。
自分の子ども時代と重ねて子どもの視点から思い当たることも、大人になって子どもと関わる今の視点から考えさせられることもたくさん。