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優秀賞 ~第4回ビーケーワン怪談大賞~
『ムグッチョ、ムグッチョ お前の頭に火がついた むぐれ~ば 直る』/よっちゃん

霞ヶ浦につながる小野川の緩やかな流れには葦が生い茂り、真夏の風でさえ涼やかにわたりくる。炎天下、水鳥のムグッチョが点々と浮かんでいた。子供たちがムグッチョの歌で囃す。水中にもぐり餌をついばんではまた頭を出す。大正橋から見た50年も前の風景だ。

おめえが東京さ出で50年か。変わったのは景色だげではねえ。大店舗ばかりが羽振りよぐで、おらたちの商売はあがったりよ。都会からの人間が増えで、人の心も変わったど。
久しぶりに会った幼馴染は10年前ここでおこった転入中学生たちの騒動を語ってくれた。
その三人は凶悪だった。当時この橋の下には中年のホームレスが木の枝と葦で鳥の巣のような小屋を作り住みついていた。痩せたうえ禿げ上がった頭頂部の周りに申し訳程度の髪が張り付いている貧相な男は脚が悪く泳ぎはまるでできなかった。それをいいことに彼らは川に突き落とすイジメを続けていた。おぼれ、悶え、必死に這い上がってくる。土気色をした水死体のような姿を見て彼らは興奮していた。ある日、橋の上から投げ落としたらもっと面白いだろうと襲おうとした時だ。橋の上から女児が川筋の真ん中に落ちてくるのが見えた。なんの因果であろうか、彼らの一人の妹だった。しかしたちまち姿は水中に没した。少年たちが呆然とするそのとき川に飛び込む影があった。潜水したそれは禿げた頭だけをみせてものすごい速さで川向こうまで進んだかと思うとイルカのように空中高く跳ね上がり土手に着地した。腕には女の子をかかえていた。体中に巻きついた水草が輝いてまるで緑色の肌の生き物に見えたそうだ。そして女の子をおろし、自分は川へ倒れ込んだ。
それっきり浮かんではこなかった。中学生たちは凍りついたように動けなかった。
その男の死体は発見されなかったんですかと私が尋ねると、幼馴染は遠くに眼をやった。
死んでるはずはねえだ。あれはムグッチョの親玉よ。この川の主だったんだべ………。


<優秀賞受賞コメント>よっちゃん
高い評価をいただきありがとうございました。都会に隣接する田舎町の変貌を旧いものが失われつつあることに寂しさを感じる視点で作ってみました。加門さんはムグッチョをご存知だったのですね。800字はきついですね。題名は「ムグッチョの歌」としたかったのですが、あのわらべ歌を本文に含めると字数オーバーになってしまい、やむないところでした。

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