四つ角を右に曲がると小柄な人影が細い靴音を鳴らして前方より歩いてきた。不安定な街灯が女の顔を照らし出す。地味な格好の娘だが長い黒髪の艶やかさに少しはっとさせられた。目が合ってしまった為にそのまま何もせずにすれ違ってしまうのは失礼な気がして、軽く会釈をした。すると女は唇を弧に形づくって微笑んだ風に見えた。女は私の目の前まで歩いてくると涼やかな声で言った。
「矢を抜いていただけませんか」
くるりと後ろを向くと後頭部に上等な矢が一本、髪を割って刺さっていた。女は痛がる様子もなく血も流していないので、これは随分前に刺さった矢なのだろう。ぞっとしたもののこのままでは女が哀れに思えて、言われるままに矢を掴みそうっと抜いてみるがこれがどれだけ引いても抜けきらない。一体どれだけの長さなのか矢尻の現われる気配は一向に感じられなかった。私は必死に手を動かしながらこんな面倒は本当に嫌だと思った。矢はいつまでたっても抜き終わらず私の息が上がるばかりである。これ以上は付き合えないと正直に言うと女は心底悲しげな目付きで、
「貴方も無理でしたか」
と、言って去っていった。抜いた矢の長さ分だけ女の影はのびのびて、私の足元を離れるまでに時間がかかった。
<優秀賞受賞コメント>ユメ
受賞の知らせを受けた時、「夢って真昼間でも見るものなのね」と大変驚きました。どうぞ醒めない夢でありますようにと、願うばかりです。
悪夢だったら飛び起きるところですが、どうも有難うございました。