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佳作 ~第4回ビーケーワン怪談大賞~
『猫である』/不狼児

 猫と云ふ生き物は仕返しをするさうだ。忍びやかに、陰険に、己に加へられた理不尽な仕打ちに対して必ず復讐するのだと云ふ。いやはや。猫は仕返しなんかしやしない。それを仕返しと呼ぶものぢやない。月の光を浴びると野良猫の奴めは薄汚ひ毛皮から抜け出して肌色の、うとうとぬらぬらとした太り肉の女の二の腕のやうな透通つた一本の蛭になって、仇人の体内へ潜り込む。朝起きて見ると君は吾身が猫になつてゐる事実を知つて愕然とするだらう。其が死んだ天才よりも霊感に満ちてゐる猫の遣り口なのだ。

 すると彼は云つた。貴公はよもや猫ではあるまいね、と。
 貴公とは誰のことだね。鏡の中に映つてゐる自身の顔に向つて話しかけてゐる君の姿を御母堂も見て、案じて居られたよ
 母だつて。僕に母などあるものか。
 母の居らぬのは君ではないよ。ひよつとすると、まさかとは思ふが、おとつい竹藪であの母猫を縊り殺したのは君なのか。
 では……まさか……
 気をつけたまへ。人間の魂は鼠よりちつぽけなので、猫が弄ぶのに持つて来ひなのださうだ。君はもう魂を持たなひ猫の脱け殻なのかも知れぬ。

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