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佳作 ~第4回ビーケーワン怪談大賞~
『吉田爺』/Flack

小学生の頃、よく友達と一緒に吉田爺の家へ遊びに行っていた。吉田爺は小さなトタン屋根の、ひどく古びた小屋に独りで住んでいる、ちょっと呆けた爺さんだ。彼は、私たちが来ると「省吾か?省吾か?」と必ず聞いてくる。当時、私の仲間に省吾なんてやつは居なかったし、私も省吾なんて名前じゃない。だけど「そうだと」言っておけば、「そうかそうか。よく来たな」と勝手に納得して、ジュースやお菓子を出してくれるし、時にはお小遣いまでくれたりする。だから私たち悪童連中は、遊びに飽きると決まって吉田爺の家に行き、おやつや小遣いをせびっていた。

ある日、学校の帰りに「吉田爺のとこ行こうぜ」という話になったが、私はその日、日直当番だったので、皆よりも多少遅れて行った。勝手知ったるで上がり込んだものの、何故か友人の姿はなく、吉田爺がただ一人、座っているだけだった。彼は例によって「省吾か?」と聞いてくる。普段は「そうだ」と答えるのだが、その日に限って、私は「違う」と答えた。
「じゃあ昭夫か? 秀文か? それとも悟か?」
ドキリとした。昭夫も秀文も悟も、私の友人で、一緒にこの家に来たことが有ったからだ。
「違うのか……なら智一だな」
今度こそ驚いた。智一とは紛れもない私の名前だ。「そうだ」と言うべきか「違う」と言うべきか、迷ってる私に「智一ぅ、そうか、智一来たかぁ……」とお爺さんは近寄ってくる。
怖かった。お爺さんの笑顔が、いつもの“省吾”を相手にしている時と比較にならない“良い笑顔”だったからだ。逃げるようにようにその家を飛び出すと、いつまでも「智一…智一ぅ」という声が背後から追ってきた。気持ち悪かった。
それ以来、吉田爺の家には行ってない。一度、母に「吉田のお爺さんって何なの?」と聞いてみたが、「知らない」と苛立たしげな口調で言われただけだった。

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