トップ > 第4回ビーケーワン怪談大賞
| 選考結果発表(3/5頁)
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| 加門 私は個人的にとても気に入ったのが『マンゴープリン・オルタナティヴ』(不狼児さん)。
東 空海と北朝鮮を強引に結びつけちゃう話ですね(笑)。 加門 私、これ、すごいと思ったんですよ。この迫力は何だろう? と(笑)。800字という文字数の中に、平安時代からから2000年代までが詰め込まれているスケールがまず、すごい。地理的にも元、北朝鮮、高野山と広がるし、アイテムも横浜ベイスターズから、テロ、即身仏、弾道ミサイル、放射能とあって。それらがすべてマンゴープリンひとつに集約されていく。その迫力は、ちょっと他にないなって思ったんです。
東 私も最初は候補に選んでいたのですが、怪談大賞の趣旨からすると、不狼児さんの場合、他にも優れた作品があったので……。 加門 『マンゴープリン・オルタナティヴ』は未来への不安という感じにおいて、ある意味、実話怪談かなと思ったんですが(笑)。 あと、ストレートな話だけど、気持ち悪かったのが『んんーげっげ』(有坂さん)。どこにでもある怪談なんだけど、「んんーげっげ」っていう言葉の使いかたが上手い。 東 私は『修学旅行写真』(有坂さん)のほうを入れてますが、これもありがちなネタだけれど、「親指が外側を向いてたんだ」という一点で、怪談としてのツボを上手く突いている感じがします。 他に私が印象に残ったのは『山手線は廻りつづける』(向井野海絵さん)。文芸サイドからの怪談へのアプローチの一典型というべき、文体で読ませるタイプの作品ですね。ビーケーワン怪談大賞の場合は、こういう作品もアリじゃないかなと思いました。同じような意味で、『カオリちゃん』(惰門出さん)の試みにも注目したい。本格的な怪談詩の試み(笑)。必ずしも成功しているとは云いがたいけれど、こうした方向性は大切にしていきたいと思います。 福澤 『ブラキアの夜気』(小栗四海さん)や『ボコバキ』(澁澤和宏さん)も近いものがありますね。 東 そうですね。『ブラキアの夜気』もちょっと気になりました。独特な雰囲気がありますね。『ボコバキ』も「ボコバキ」という擬音語一発で(笑)、強烈に印象に残る。 加門 私も『ボコバキ』は気になったんだけど、リアリティとしてどうか、と。つまりね、猫は食べても美味くないんですよ(笑)。漢方薬にはしますけどね。食べた人、数人知ってるんですけど、すごくクセがあるそうです。 東 は、はあ……(汗)。福澤さんが挙げている『祖父のカセットテープ』(黒 史郎さん)はどうですか? 祖父の遺品のカセット・テープが出てきて、わけがわからないことをしゃべったのが録音されているという話ですが。 加門 黒史郎さんも投稿数が多いほうですが、惜しい作品が多かったですね。 東 この方は、それこそ「これぞ」という作品に絞って投稿したほうが良かったのかもしれないですね。『赤い口の女の子』(黒 史郎さん)なんて前半は、同じネタで怪談文学賞に応募しました、という前置きじゃないですか。果たして計算ずくの技巧なのか、素でやってるのか(笑)。加門 東さんへの個人的なメールかと思った(笑)。 東 では、ここまでに挙がったものを最終候補作にして、1作品ずつ検討していきたいと思います。 ★『吉田爺』(Flackさん) 加門 3人全員が候補に入れたのはこの作品だけ。じゃあ、この作品が大賞でいいかというと、ちょっと躊躇しますね。 福澤 怖さという点では、それほどでもないんですけどね。 加門 超常的なところはない。サイコホラーとも言い難いけど。 東 すべて実話です、といわれても不自然ではない。 加門 たしかに、このお爺さんはドキっとさせられる存在ですけどね。どこまでわかってるんだろう、っていう。 東 書き方を変えたら、老人問題とか福祉問題の裏話にしかならないかも。 加門 福祉裏話(笑)。 東 それを怪談的に書いたことによって、絶妙の効果を上げている。Flackさんはこの1作しか出していないので得をしているところもあるかもしれませんね。 加門 「比較にならない“良い笑顔”だったからだ。」っていうところが気持ち悪いんですよ。 ★『矢』(ユメさん) 加門 美しい話だと思いました。 東 文章が際立って巧いですね。 加門 「細い靴音を鳴らして」とか「抜いた矢の長さ分だけ女の影はのびのびて」とか、言葉の使い方が上手い。イメージもきれいです。 東 他の作品も読みたいな……と思ったら、ユメさんはこの作品だけだった(笑)。 加門 「上等な矢」という抑えた表現も、すごくいい。詳しく説明しない分、イメージが広がりますね。 福澤 ぼくのメモだと「内田百閒*風」って書いてますね。(* ひゃっけん=門構えに月) 東 この息の長い文体は、吉田健一風でもありますね。百閒や吉健の文体って、安易に模倣しても悲惨な結果になるだけなのですが(笑)、この方はちゃんと自分のものにして、自分なりの世界を提示している。扱われているテーマも、日本的怪談の王道をゆくものですしね。とても感心させられました。 ★『軍馬の帰還』(銀峰さん) 東 銀峰さんの作品は他に『呪いと毒』と『魚怪』があって、どれを採るかちょっと迷いました。おそらく作風からして御年配の方なんじゃないかと思いますが……もしも十代だったら、天才かも(笑)。 加門 私は東北の人間じゃないんで、はっきりとは言い切れませんけど、方言を上手に使っていると思いました。最初の「まっこ、けえってきた」の一言で、見事に地域色を出している。動物好きとしてはたまらない話ですね。マジ泣きしましたから(笑)。 東 泣いたのかよ!(笑) 加門 馬でもなんでも動物が好きな人にはたまらん話ですよ、実際(笑)。飼い主側の切なさや馬のいじらしさがよく出ている。 福澤 これもきれいなお話ですよね。怖さはないけれど、なんともいえない温かさがある。ちょっとした短篇のような読後感がありますね。 加門 戦地で亡くなった人が帰ってきたとか、このテの話は実話として沢山伝わっているんですけどね。「沢山の馬を率いて来たような気持ちになった」っていうところで泣けて泣けて(笑)。 東 戦争にまつわる怪談話の定型を、兵士ではなく馬を主役にしたことで、新鮮なものとしてリクリエイトしている。中国ネタの『魚怪』も凡手の技ではないですし、『呪いと毒』のディティールも一読忘れがたいものがありました。 ★『茉莉花』(我妻俊樹さん) 東 前回の大賞受賞者の我妻俊樹さん。どうしても昨年度の受賞作『歌舞伎』と較べられてしまうというハンデがあると思いますが。今回はこれ1本だけの投稿ですね。 福澤 確かに前回の応募作がどれもすばらしかっただけに、今回はちょっと遠慮がちに感じます。 加門 やはり前回の『歌舞伎』のインパクトと比べると、巧みさという点でも少し劣りましたね。ほかの投稿作品の水準が上がったせいもあると思うけど、印象が薄かった。 福澤 ラストがちょっとおとなしすぎるような。 東 短篇小説的な読み方をした場合、ひとつの世界を、巧くまとめあげて提示している。そのセンスに非凡なものがあるなと思って推しました。 ★『光の穴』(夜猿さん) 福澤 すごくストレートな怪談ですね。 東 心霊スポットにグループで出かけていって怪異に遭うという話が目につきましたが、そのなかでは、これが突出していた。 加門 実際にこの状況に身をおいたら、すごく怖いだろうなと思います。この話はまず、きちんと怖い話として成立しているという良さがありますね。 東 実際にそういう体験があるとか!? 加門 うっ(笑)。えー、私の体験としては、夜、某ヤバイ土地を歩いているとき、気づいたら話をしていた相手がいなかったということがありましたけど。 東 人間消失!? 加門 それが、ひどい話でね。後ろを歩いていた連れが、場所のあまりの怖さに途中で逃げちゃったんですよ。私はそれに気づかないで、前を見たまま、話し続けていたんです。受け答えもちゃんと成立していたんですよ。なのに「だよね」って言って、ふっと振り返ったら誰もいない。真っ暗で……。うわー! 私、誰と話してたの!? って。いや、私の話はどうでもいいんですが(笑)、この話を読んだとき、ちょっと、そのときのことを思い出したのは確かです。 東 「光は7つ、8つ、どんどん増えていく」……光の数で切迫感を出すあたりの書きぶりが上手ですね。 加門 上手いし怖いし。短篇怪談としては上出来だと思いました。 ★『猫である』(不狼児さん) 東 不狼児さんには、このほかにも加門さんが推薦した『マンゴープリン・オルタナティヴ』とか、いろいろ強烈な作品がありますね。 加門 どれも『マンゴープリン・オルタナティヴ』には、かなうまいと思ったんですけど(笑)。 東 でも、あれを怪談と呼んでいいかは、さすがに微妙でしょ。 加門 はいはい……。 東 なぜか、この応募作だけ旧かな遣いなんですよね。ふだん純文学系の作品を書いている方なんじゃないかと思うような作風です。他にもエロチックな『祭の夜』とか……。 加門 印象に残る作品群でしたね。 東 文体というものに意識的である姿勢は大いに評価したいと思います。私が『猫である』を採ったのは、今回投稿された動物ものの中でも、常套を脱しているというか、面白いアイディアがあったからで。「人間の魂は鼠よりちつぽけなので、猫が弄ぶのに持つて来ひなのださうだ」というあたり、嗚呼、文学してなあ~って(笑)。 福澤 芥川っぽいというか、あの時代を意識されて書かれたんだと思いますが、上手いですね。 ★『東京駅の質問』(ガリコのパピコさん) 東 これは都市伝説風の話ですが、実際にあるんですか? こういう都市伝説。 福澤 聞いたことはないですが、ありそうな気がするところがいいですね。 加門 聞いたことない。オリジナルかな。私が候補に残さなかったのは、都市伝説にはありがちですけど、悪い答えをした当事者は全員消えているはずなのに、なんでその詳細が伝わるんだ、という疑問が湧いてしまったからです。純然たる噂話として読めば面白い話だと思いましたけど。 東 それは確かに反論できないツッコミですよね(笑)。一種のコントみたいな感じで、絵柄が浮かんでくる作品でした。百閒の名作『東京日記』なんかにも一脈通じるような「丸ノ内、山ノ内、風のうち」という呪文めく語感が面白いし。耳について離れませんね。 福澤 ラストにもうちょっと何かが起きて欲しかった。あと、もうひとつ外国人もので『アメリカ人』(斜 斤さん)というのもありましたね。あれも奇妙な味で面白かった。 東 ガリコのパピコさんでは、もうひとつ『淳くんの匣』を福澤さんが挙げていらっしゃいますね。 福澤 ラストはちょっとありがちな感じですけど、作品の水準は高いと思います。 ★『祖父のカセットテープ』(黒 史郎さん) 福澤 実話怪談的な怖さがある作品です。イメージを喚起するだけで、意味がわから ないところが怖い。 東 結局、テープの中身が勝負の話ですよね。 福澤 「(その後、お経みたいな言葉)」あたりの描写にリアリティを感じます。必要以上に怖がらせようとしていないのも好みです。「なにがそんなに「おっかねぇ」のか」は最後までわからない。ふつうに考えたら、おじいちゃんはボケたのかな? とも思いますが(笑)。 加門 それをなぜ、わざわざカセットテープに録って残しておいたのか。不気味な感じはしますよね。 ★『ずぶ濡れの女、ブラウン管を舐める』(クジラマクさん) ★『生ゴムマニア』(クジラマクさん) ★『ガス室』(クジラマクさん) 福澤 クジラマクさんの三点セットですね。『生ゴムマニア』はけっこう怖い話だと思いますけど、ああいうオチは最近一般的になってきたのかな。 加門 最後の「済」の使い方が、前回の我妻俊樹さんの『浄霊中』にちょっと似ているかな、と思っちゃって。 福澤 都市伝説系の話にも似たようなパターンがありますね。最後になにかメッセージが残るというのは。 東 『ガス室』のモニターに映るもののチョイスが巧妙だな、と。ちょっと『リング』のビデオテープを思わせる。 加門 『ガス室』は、私は逆にくどいって思ってしまったんです。 東 『ずぶ濡れの女、ブラウン管を舐める』は、タイトルがちょっと村上春樹風で、なかなか(笑)。 加門 この作品、最終候補の手前までは残してたんですよ。ただ、こうレベルが高くなってくると、申し訳ないけど、アラを探して落とすしかない。それで「数ヶ月間、ずぶ濡れ女の訪問は続いた。」──警察行けよって(笑)。そこでちょっと引いたかな。 東 そのへんの整合性は重要ですよね。怪談としてのリアリティーを保証する部分ですから。800字という制約があるだけに、読者に少しでも不審や矛盾の念を意識させちゃうと苦しい。 福澤 『生ゴムマニア』は「目の前をバランスを崩した750ccの単車が走り去る。」みたいに現在形で書かないで、自身の体験談か、誰かに聞いた話として書いたほうが怖いと思います。『ガス室』も「Sさんは困った顔になり呟く。」だと、雰囲気が変わってしまう。ここは小説的な描写は避けて、聞き書きっぽくしたほうが怖さが伝わると思います。 東 センスはある方だと思うので、あとは文章の書き方を工夫してもらえると、ぐんと良くなると思う。惜しいですね。 |
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