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佳作 ~第3回ビーケーワン怪談大賞~
『カレンダー』/彫川玄琢さん
 妻は、病弱で、よく寝込んでいた。どこが悪いというのではなかった。私達は、軽いうつ病だと思っていた。
 それをよいことに、私は不倫をしていた。相手の女にも家庭があったので、逢うのは一月に一度ぐらいだった。
 ラブホテルで別れるときに、次に逢う日を決めていた。二人だけの秘密だった。
 女と逢った夜は、普段通りの時間に帰宅するようにしていた。その日も八時頃には、家に着いた。妻はいなかった。いや、そう思ったのは部屋が真っ暗だったからで、よく見ると妻はいた。真っ暗の部屋に、私に背中を見せて座り、月を見ながら洗濯物をたたんでいた。妻の背から、禍々しい雰囲気が漂っていた。
 (浮気がバレたのかしらん)と、ドキッとしながらも「どうしたの?」と聞くと「ちょっと、気分がすぐれないので、暗くてごめんなさい」という。

 「いやいや、それならいいけど」と言いながら、ネクタイをゆるめていると、突然、妻は私に向き直り「あなた、来月の九日は、会社を休んでください。一日中私といてください」と静かに言った。目は据わり、今にも飛びかからんばかりである。その日は、つい数時間前に不倫相手と約束した逢瀬の日であった。二人以外、誰も知らないことである。ぞっ、とした。
 「………いいけど、どうして?」とごまかすより他はなかった。
 「わたし、おかしくなったみたいなんです」と彼女は泣いた。「なぜだか判らないんですけど、カレンダーを見ていたら、その日付が、バッと飛び出て来て………、それにその日から血が出ているように思えたんです」。そうして、私を窺うようにジッと見るのである。私の全身は、冷や汗で水をかぶったようになった。
 「いいよ、そうする。約束する」と言うと、妻は安心したように、そのまま眠ってしまった。当然、私は不倫相手と手を切った。それからの女の消息は知らない。
 それから妻は三年寝込んだ。
 三年後、大分の出張から帰ると、妻は晴れ晴れとした顔で玄関に立っていた。
 そして「わたし、治りました」と嬉しそうに言った。
 私は、またぞっとした。
 出張中に大分の地方紙・大分合同新聞で「美人局で殺人」という記事を見たからである。美人局とは男に情事をもちかけて、金を巻き上げることだ。女にはヤクザの情人がついていて、トラブルから被害者を刺殺したという記事だった。女は、かつての不倫相手だった。
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