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佳作 ~第3回ビーケーワン怪談大賞~
『デッドヒート』/ヒモロギさん
「寝不足? おいおい、新しい彼女でも見つけたか」
「いや、毎晩お化けと追いかけっこしてんだよ」
「なんだお前、お化けに追われてんのか」
「いや、俺が追いかけてんだ」

 冗談かと思ったが、友人は本当に幽霊と追いかけっこをしているらしかった。

 誰かが部屋中を走り回る音で友人は目を覚ますが、金縛りのせいで身動きがとれない。薄暗がりの中、和装の若い女が狂ったようにドタドタと部屋中を駈けずり回っているのが見える。この喧騒が毎晩続くのだそうだ。生来幽霊など怖がる性分ではない友人は、怒りと好奇心のため金縛りが解けると同時に起き上がって女を追いかけるのだが、その頃には女の狂騒の舞台は廊下に移っている。友人の家は由緒ある旧家で、部屋も広ければ渡り廊下もべらぼうに長い。必死で女を追うものの、廊下の曲がり角でいつも撒かれてしまうのだという。 「スタートダッシュ次第じゃ負けないんだがなあ」  どこかズレた悔しがりようがなんともおかしい。僕は金縛りの解き方のコツを教えてやった。これならタイムを短縮できそうだ、と友人は喜んだ。

 次の晩、僕の教えた方法で金縛りの早解きに成功した友人は走り去る女を猛追した。曲がり角のコーナーも無事クリアし、依然風呂場のほうに逃げ去る女の姿を捉えている。後を追う友人が脱衣所に飛び込むと、脱衣所脇にある洗濯機のドラムから、女の脚が天を衝くように真っ直ぐ突き出ていた。友人が近づくと、バキバキという音と共に直立した脚が大きく左右に揺れ、青白い生足はみるみる洗濯機の中に吸い込まれていった。友人はこの様子を「蛇腹が畳まれていくように」と形容している。程なく脚は洗濯機の中に消えた。いくら豪胆な友人といえども、その中を覗き込む気にはなれなかったという。

「でも、それから出なくなったんだろ」
「代わりに洗濯物がこうだ」
 友人は着ているシャツの袖を僕の鼻先に突き出した。強烈な白粉の匂いがぷんと鼻腔を突いた。
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