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第3回ビーケーワン怪談大賞
選考結果発表(3/5頁)
◎候補作品について

 では、候補に挙がった作品についてそれぞれコメントをお願いします。

高山大豆さん『怪を書いたら』
福澤 怪談を書くこと自体についての怪談です。禁じ手と言えなくもない。小松左京さんの「牛の首」的というか、肝心なことは書かない。ありがちなアイデアなんだけど、あえて怪談大賞に向けて書かれたところに惹かれましたね。創作だとは思いますが、そのほかの高山さんの作品を読むと本当に取材しているようなところもある。冒頭と結末の「実話怪談は、難しい」というフレーズのリズム感もいいですね。

加門 こういう話は、怪談収集家だったら誰もが言う話なんですよ。けど、それを結構、そつなく、うまくまとめている。とくに最後の書きたいのに書けないジレンマ。手元においておきたいけど怖い。そのへんの身もだえぶりが、面白かったです。ちょっと共感できますね。

高山大豆さん『酒の味』
加門 酒の味が鉄の味──ようするに血の味ですよね──がして、生臭い。そこまでは怖かったんですけど、私は幽霊が出てきてしまって興ざめ、という部分がありました。酒を吐くところで終わっても良かったのかな、と。説明が多すぎて、面白さが殺がれてしまった感があります。

福澤 酒の味が変わるという話は、平山夢明さんの怪談から『呪怨』までいろいろあって、ネタ自体は目新しくはないですね。ぼくは加門さんとは逆に「爺」の登場に面白味を感じました。

加門 高山さんは達者な方ですね。読み手を意識して書かれていますね。

福澤 とぼけた味わいがいいんですよね。

ナツミカンさん『流れ』
加門 身近なところで、誰も気づかない異界が出現するというところが面白いと思いました。居酒屋で、女の子が言ってることを男の人が相手にしていないあたりの雰囲気もいいんですよね。
 ただ、引っかかったのは最後の1行。「四五年以上流れているってことか」。話者が自分が小さかった頃のことで、大学生の女の子を自分の娘くらいって書いてるから45年以上前なんでしょうけど、どうしても、4、5年前って読んじゃって、一瞬、意味が分からなかったんですよ(笑)。表記の問題ですけど、これはちょっとマズい。
 内容は、地元にまつわるちょっと不思議な話という感じですね。日本には埋められて暗渠になった川もたくさんありますからね。地上と地下にそれぞれ別の世界があるという、土地の異界性が垣間見えて好きな話です。

 さすがに風水専門家の加門さんらしい着眼ですね(笑)。「流れ」は私も今回読んだ中で、なぜか後々まで印象に残る作品でした。

加門 風もないのに、笹舟だけが流れていくというイメージも美しいですね。

じがさん『こっくり婆(ばあ)』
加門 読み手が駄菓子屋のある町で育ったかどうかということも大きいと思うんですけど、私は自分の子供時代を思い出して読んだので、リアリティがありました。
 駄菓子屋というのは、子供にとってわいざつな空間で、何が出てくるかわからないところですよね。雑然として薄汚れていて、必ず爺か婆がやっている(笑)。小学校の頃の自分の記憶を呼び出すと、確かに店のおばあさんにはどこか不思議な雰囲気を感じてました。この作者にも、そういう思い出があったんじゃないかと思いますね。
 駄菓子屋さんっていう舞台設定がうまいのと、もうひとつは、最後の結末で、実際に何が起こったかはわからない。わからないけど、怖いから二度と近づきたくないというところがいい。子供ってそういうことがありますよね。何かはよくわからないんだけど、集団でパニックを起こして、そこが禁忌の場所になるという。そのあたりがうまく描かれていると思いました。

じがさん『金縛り、タイプG』
福澤 金縛りを分類するという発想が面白いと思いました。作品単体で語るのは難しいんですが、3編続けて読むと面白い。

 作品1編として考えると少し弱い。3編セットで、ということですか?

加門 私は『金縛り、タイプG』1編だけです。3編トータルで読むと確かに面白いさは増すんですが、投稿作品としては1編ずつ評価すべきで、3編セットの面白さを狙うのは禁じ手だろうと(笑)。だから読むときも、1編ずつ頭を切り換えて読みました。
 『金縛り、タイプG』を挙げたのは、蜘蛛を使ったところ。民俗学的に解釈することも可能な話で、読み手によっては背景が広がる。ちょっと面白いと思いましたね。ただ、最後の1文に続き物だと思わせる「結局」と「も」が入ってしまっているので、減点せざるをえませんでした。連続的な作品でも、独立させて書く方法はあると思いますよ。

がんてつさん『乗り移るもの』
福澤 前回の怪談大賞で佳作を受賞した(『観覧車の顔』)方ですね。

加門 オーソドックスな怪談ですよね。

福澤 文章もまとまっているし、リズムがいいですね。

加門 トントントンと読めますね。最後に、とくに因縁話をつけなかったところも好感を持てます。この方の作品はいつも、こっちがあれこれ言わなくていい安心感があっていいですね。

ぬくてるさん『ねじれた人と折れた人』

加門 マニア向けなのかな? ニヤっとさせられますね。「モリニエについては以上。」という言い切り方にすごく惹かれたんですよ(笑)。

福澤 語り口が面白い。

加門 おかしいんですよね。でも、怪談としてはどうかと言われると……。単純に面白いんですけど、モリニエを知らないとダメでしょうね。モリニエがダリだったりしてもダメだろうし(笑)。

我妻俊樹さん『浄霊中』
福澤 怖さと滑稽さの同居という感じがあります。「浄霊失敗」って言われると、ギクっとさせられるけど、なんかおかしいんですよ。実際にこんな紙が貼ってあったら気味が悪いと思いますけど。我妻さんはどれも文章が洗練されてますね。

加門 この話、好きなんですよ。最初に読んだ時には「浄霊失敗」そうですか、って感じだったんだけど、何度も読んでるうちに、夜のマンションの暗さ、人気のなさが情景として浮かんできて。都会の無機質な一角に「山伏と浮浪者を合わせたような」男が出てくる、という意表をついた怖さ。土着的な風合いとあいまって怖いと思いました。また、貼紙の字が筆文字とかじゃなくて、鉛筆書きの読みにくい文字というところも神経症的でいいですね。

我妻俊樹さん『歌舞伎』
福澤 ぼくはこれが一番だと思いました。なんとも言えず不気味な感じがする作品です。拾った乾電池をラジオに入れて、その時だけ音が鳴る。そこから微妙に話がねじれていく。文章も上手いし、これは読んでいて実に怖かった。

加門 古い乾電池、しかも砂場で拾うというのが印象的です。お兄さんがそのことを忘れていて、記憶がないというところも怖い。サイコ的な感じもありますね。弟の存在自体がだんだん怖くなってくる。意味不明なうなり声をあげる弟を見ている兄の恐怖が伝わってくる話です。ラジオから聞こえてきた意味不明の声を「歌舞伎みたいだった」と表現するところもいいですね。

 こういう聴覚経由の不気味さを、言葉で形容するのは意外と難しいですよね。そこを意表を突いて「歌舞伎」と形容したのが、うまいな、考えたなって感じですね。

加門 ここで下手に擬音なんか使ったら台無しですよね。うまくストイックにまとめていると思います。

よっちゃんさん『僕を強い男にしたくってあんなところに放り出したんだろうがもういやだよ』
加門 タイトルが面白い(笑)。

福澤 構成が異質ですよね。おかしくなっている人の言葉が突然出てきて、そこから第三者の視点に戻る。構成の異質さが怖さを盛り上げていると思うんです。

 かなり小説的な、ショートショート的な作り込みが感じられますね。

福澤 ぼくの好きな「奇妙な味」系ですね。最後の1行がまた効いていると思います。実話怪談の面白さとは微妙に違う雰囲気ではありますが。

加門 ぶっちゃけていうと、サイコものですよね。サイコ・ホラーというと大げさですが、こういうタイプのものを怪談の範疇に入れていいのかなと思ってノーマークにしたんです。

 ホラーの定義における、いわゆる「超自然原理主義」という立場ですね。

加門 うるさく言ってすいません(笑)、って感じなんですけどね。

GIMAさん『ムカサリ絵馬』
加門 これは実話ですね。同じ話を私も山形のほうで聞きました。この方はその話を知っていてお書きになったんじゃないかと思います。もしまったくの創作だったら、作者には本当に申し訳ないんですけど、実話だと知っているからこそ、そのまま書いただけでいいのか(笑)、と思ってしまったんですよね。ご当地では有名な話かもしれないので。
 実際、ムカサリ絵馬を呪詛に使うという話は聞きました。女性の方が彼に捨てられてしまって自殺したりして。そうすると、亡くなった女性の家族が、絵馬に男の絵も描いて「冥婚」にして呪いをかけるという話があるんです。どうせ書くならそこまで書いてほしかったかな。

福澤 有名な絵馬ですよね。絵のバリエーションがいろいろあるようですが、なかには怖がらせようとして描いてるんじゃないかって思えるのもありますね。作品について言うと、会話だけで成り立っているところに新鮮さがあると思いました。

ヒモロギさん『デッドヒート』
加門 私はこういう話が大好きで、怖いというよりも、ありえねえ、とニヤニヤしながら読んでしまいました(笑)。金縛りになったり、女の幽霊が出たり、幽霊が駆け回ったり、設定はありがちなんですよ。だけど、文中に「どこかズレた悔しがりよう」とあるように、「スタートダッシュ次第じゃ負けようがない」とか、「タイムを短縮できそうだ」とか、「コーナーも無事クリアし」とか(笑)、怪談とはとても思えない表現があって面白かったですね。スピーディーで一気に読めるし、洗濯機の中に吸い込まれていく描写も映像的。好きな1編です。

福澤 最後のオチもおかしいですね。

加門 いったい、いつまで白粉臭いんだろう、この洗濯機を使う限りずっとだろうか? というか、幽霊、一緒に洗濯したのか? とか考えてしまった(笑)。

なむとらさん『カミサマのいた公園』
福澤 怪談なのかというと、ちょっと微妙なんですが不条理な怖さがある。これも「奇妙な味」系の話ですね。子供の頃に白い犬を見て、直感的に神様だと思ってしまう。その感じは、すごくよくわかるんです。それで怖い話になっていくのかなと思ったら、ぜんぜん違う(笑)。いきなり犬の首が転がっているところで、意表をつかれました。おばさんも変なこと言いますよね。「誰か肉団子でも作ったんだろ」って(笑)。最後の「カミサマたべられた」って一言も印象深いです。

 私もこの作品、好きなんですよ。白い犬が、唐突に首だけと変じる。そのへんがなんとも不条理で、しかもその不条理さを、なんとなく読み手に許容させてしまう独特な雰囲気が、作中に出来上がっているでしょう。

福澤
 でも、怪談なのかというと……。個人的には好きな話です。

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