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東雅夫選・幻妖ブックレビュー 2010年5月更新
ホラー文学のスペシャリスト東雅夫が、お寄せいただいたホラー・幻想文学への書評をピックアップ。極上の恐怖の味をどうぞ存分にお楽しみください。
東雅夫:1958年生まれ。怪奇幻想文学評論家、アンソロジスト。『幽』編集長。
→東雅夫の幻妖ブックブログ
→幻妖ブックレビュー・バックナンバー
冥談
★★★★★
ぶにゃ/ウン、ウン、……
『幽談』につづいての、『冥談』。こころざわめく表題である。帯の文章を見て、思わずニヤリとしてしまった。<荒木飛呂彦氏、叫喚『京極先生ヱヱ――――ッ』夕暮れの柳の木を見上げてなぜかそう叫びたい>そうか、かの漫画家も京極にハマっていたのかと、今更ながら、この作家のファン層の広さに感心する。もっとも、かの漫画家の代表作『ジョジョの奇妙な冒険』で活躍する個性豊かな<スタンド>たちは、皆んな、言うならば守護
怪談実話系 3
★★★★★
ぶにゃ/あなたには、アレが、視えますか?
小林秀雄の講演集『考えるヒント3』の中に「信ずることと知ること」という文章がある。これは、昭和49年に鹿児島でおこなった講演を基に、小林自身が加筆して書き下ろした大変面白い文章である。実際の講演は、新潮社CDブック『小林秀雄講演第二集「信ずることと考えること」』にその内容と会場の雰囲気が余すところなく納められている。いかにも江戸っ子らしいべらんめい口調が妙に説得力を持って聴く者に迫ってくる。繰り返
私の家では何も起こらない
★★★★
板栗香/時の流れが曖昧なような揺れている所がよりいっそう魅力を高めている美しく優雅なゴーストストーリー
実際に恐ろしい何かが起こって飛び上がるような驚き・怖さがあるのではなくて、先が読めてしまうというのでもなく、ある種の予感のようなものが働いて、こうなるのではないか?とひたひたと恐怖が忍び寄ってくるかのような怖さの美しく優雅なゴーストストーリーでした。でも、ホラーが苦手の私でも読めましたので、そんなに怖い部類の本ではないと思いますが、ひたひたと忍び寄ってくる怖さ加減がちょうど良くて、怖いんだけど先が
バイブルDX
★★★★
かつき/現在を切り取り、聖書だった雑誌へのオマージュ
2008年、ダ・ヴィンチ文学賞、日本ホラー小説大賞、ポプラ社小説大賞特別賞、電撃小説大賞銀賞と信じられない受賞経歴を並べた真藤順丈の受賞後、初の単行本です。彼の小説に共通する、常人には理解しがたい、思い込みによる自分の仕事への情熱やそれに対する切迫感を、今回も感じます。本書では、キリストのごとく「奇蹟」を起こす人々を集めたいわゆる「聖書」にも匹敵する雑誌を立ち上げるべく、選りすぐりの編集者、フリー
外道忍法帖
★★★★
萬寿生/肩の凝らない娯楽作品。怪奇ではあるが、エログロではない。
天正少年使節団がローマ法王より下賜された百万エクーの金貨を追って、15人組3群の忍者集団の三つ巴の闘争が描かれる。一組は隠れキリシタンの十五童貞女、くの一である。他は松平伊豆守の伊賀忍者と由井正雪の甲賀忍者である。奇怪な忍法が多数登場する。山田忍法帖の全忍法が登場しているかのようである。登場人物が多いために自分の忍法を披露する前に倒されてしまう者もいる。物語の最後までに主要登場人物45+2人を全員
岸辺の旅
★★★★★
佐々木 なおこ/せつなくも美しい、夫婦の旅物語
「あのね」「なに」「こういうのも、いいかもしれない」「こういうのって」「こんなふうに旅をするの」「そうか」「こんなふうにいろんなところで暮らしたことなかった。もしかしたら、前からしたかったのかもしれない」夫が好物だったしらたまを作っていたら、三年間も失踪中だった夫がいきなり帰ってきた。呆然と目を見張る妻。嬉しくないわけがない。でも、いろんな疑問がわき上がってくる。これまでどこでなにをしていたの?ど
嗤う伊右衛門
★★★★★
きゃべつちょうちょ/同じ美しさを持つ魂どうしは、呼応せずにはいられない。
読みそびれていた一冊。京極夏彦の本はこれで三冊目だが、そんな「京極初心者」の私にとってこれはかなり読みやすい本だった。「幽霊や化け物より、生きてる人間がいちばんこわい」というような趣旨のことを岩井志摩子氏がどこかで書いていたが、まさしくそれを彷彿とさせる。惨劇を生み出してしまう人間の宿命というか、生い立ちから始まってその人をつくってしまうもの。まったく同じ景色を見ていてもそれぞれ違うものを映し出し
ねじの回転
★★★★
yukkiebeer/100年以上前のこの小説がなぜか古びたものに感じられない
英国の田園地帯の古い貴族の邸宅に若い女性が家庭教師としてやってくる。幼い兄妹二人の世話をする彼女はある日、屋敷にいないはずの胡乱(うろん)な男女の姿を見かける。それは以前この屋敷で働いていた従僕クイントと前任家庭教師ジェスルのようだ。しかしこの二人は既にこの世にいない人物だった…。19世紀末にヘンリー・ジェームズが著わした幽霊譚です。100年以上も前の作品ですから、舞台設定も登場人物も大変古風です
星を継ぐもの
★★★★★
JOEL/SFの構築した世界に逃避したいならば、ぜひ手に取ることをおすすめします
日本では1980年に刊行されたものなので、今年で30年になるが、少しも古びていない。間違うことなき傑作である。ハードSFの燦然たる宝石のような存在とも言える。科学的な記述にぐいぐい引き込まれるが、科学が苦手だという人に、むしろ手にとってほしい。ストーリー展開を巧みにすれば、ここまで面白い読み物になるという事例がここにはある。ハードSFというだけでなく、ミステリーの要素も織り込んである。月面で発見さ
ウは宇宙船のウ
★★★★★
きゃべつちょうちょ/星の瓶詰め 、賞味期限はありません。
ブラッドベリが、ヤングアダルトむけに自選したアンソロジー。翻訳家の金原瑞人さんが「たんぽぽのお酒」に「夏のきらめきを閉じ込めた」と書評を寄せていらしたが、本書は「星の瓶詰め」とでもいおうか、宇宙の、時間の、不思議さと輝きが永遠に朽ちることなくそして余すところなく封じ込められている。ヤングアダルトむけといっても、大人もじゅうぶん楽しめる。いや、楽しめるという言葉が軽すぎるように感じるくらい、深遠な物
海の底
★★★★
空蝉/穿った見方もいいんじゃないか?
空の中、に続いて有川氏の作品だけあって、やっぱりSFチック・・・だけど、こちらはより現実味があった。怪物云々よりも、全国規模で「ある大事件」が起こったときの、日本の脆弱さが浮き彫りになっているため緊迫感があり、穿った見方をすれば政治批判にもなるかもしれない。いや、面白い。日本は今「平和」と自己防衛と、戦力の有無とでゆれている。いわゆる自衛隊をはじめ、戦力の保持が必要かどうかという問題だ。そんな状態
マイナス・ゼロ
★★★★
yukkiebeer/タイムトラベルものとしての楽しさもさることながら、昭和の人情噺的要素が好ましい
昭和20年、東京大空襲のさなかに浜田俊夫少年は息絶えようとする隣人の伊沢先生から不思議な頼みごとをされる。昭和38年のこの日にこの同じ場所へ来るようにと。18年後、成人した俊夫は約束を果たすべく同じ場所へやってくるが、そこに現れたのは伊沢先生が開発したタイムマシン。そして中から姿を現したのは…。昭和45年に発表された時間旅行SFということで、日本のSF文壇がまだ黎明期にあった時代の作品といえるでし
日本SF精神史
★★★★★
萬寿生/幕末・明治維新から戦後までの日本SFの歴史の紹介
幕末・明治維新から戦後までの日本SFの歴史の紹介。「精神史」とあるように、各時代毎にいかなる意識・思いでどのような作品が、今日のSFに該当するものが書かれてきたか、またどのように理解され誤解されてきたか、を分析している。作者と作品の一覧にはおわっていない。これまでの日本SF史の紹介本は、戦後以後の歴史が主であったが、本書では幕末・明治の歴史が豊富である。幕末・明治維新の危機感を反映した日本独自の科
ボンボンと悪夢
★★★★
toku/怪奇譚や悪夢のような物語が多く収録されたショートショート集36編。
怪奇譚や悪夢といっても恐怖を感じさせるものではなく、人物描写をしない星新一の作風によって、不思議な雰囲気が漂う作品になっている。椅子の持つ妖しい魅力に取り憑かれた男を描く【椅子】はその代表的な作品である。気に入った作品をいくつかピックアップ。【椅子】貿易会社に入りやり手で評判だった親友は、仕事を辞めた後、落ちぶれた表情も見せずに金を借りに来て、それっきりだった。彼の住む傾きかけた安アパートを捜しだ
天使の歩廊
★★★
伊織/秘められた願いを建物に託した造家師
とても幻想的、かつ不思議な魅力を持った1冊でした。そして、これがデビュー作だと思えないくらいの見事な構成。明治から大正時代にかけての1人の造家師を本人が語るのではなく、建築の依頼主や彼を取り巻く人たちが語ることによって読者は否応なしに彼の人となりを自分の想像力によってのみで作り上げられていきます。依頼者の心に秘めた「願い」を建物の姿に変えていく彼の人物像は非常に興味深いです。しかし、泉二自身が最後
時の旅人
★★★★★
wildcat/時空を越えた存在と共に生きるということ
時を旅する者には共通点があるように思う。今の世界では、病があって静養に来ていたり、今の人生で生きづらさを感じていたり、何か事情があって都会から離れて田舎に来ていたりする。たいてい田舎なのは、舞台としておあつらえ向きの長い長い時を記憶している場を持つからであろう。時代は変わりそこに生きている人は変わったけれども、自然や家はそのままそこに残っているような場所。本書で時の旅の舞台となるのは、サッカーズで
漂泊の王の伝説
★★★★★
うっちー/砂漠の風景、王子の苦悩、数奇な運命…なんておもしろい!出会えたことがうれしくなる物語。
これだけの深い内容を、難解な言葉を使うことなく物語として一気に読ませる。これだから、児童書を読むのは、楽しい!作者のストーリーテラーとしての力量に感謝したくなる。確かな歴史観に基づいた、人生への希望と人への信頼を感じさせる物語である。砂漠にあるキンダ王国の王子ワリードは、生まれたときに「ジン(精霊)が体にふれた」と言われるほど、外見や能力に優れ、心も美しい、申し分のない王子だった。しかし、彼がもっ
うわさの人物
★★★★
浦辺 登/男女九人の霊能者物語。
世間一般でいうところの霊能者九人をインタビューした内容となっている。霊能者といえば「オーラの泉」でおなじみの美輪明宏さん、江原啓之さん、そして、時折テレビ番組に出演される木村藤子さんだが、その木村藤子さんが二番手に登場している。しかしながら、他の八名の方々については初めてお名前を知り、九名のうち三名の方は仮名での登場となっている。このことで胡散臭いと思われる方もいるかもしれない。幼いころから母方の
妖怪天国
★★★
風紋/日常のなかの妖怪
水木しげるの故郷、鳥取県境港市の水木しげるロードには、134体の妖怪ブロンズ像が設置されている。このたび、また一体がくわわった。水木しげる夫妻のブロンズ像である。2010年3月8日、ちょうど88歳の誕生日を迎えた水木しげるは、除幕式に細君とともに出席した。夫妻ともども妖怪の仲間に加わったのである。仲間入り?いや、妖怪は、もともと水木しげるの仲間だったのだ。むしろ、水木しげる自身の分身である、といっ
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