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東雅夫選・幻妖ブックレビュー 2007年3月更新

ホラー文学のスペシャリスト東雅夫が、お寄せいただいたホラー・幻想文学への書評をピックアップ。極上の恐怖の味をどうぞ存分にお楽しみください。

東雅夫:1958年生まれ。怪奇幻想文学評論家、アンソロジスト。『幽』編集長。
→東雅夫の幻妖ブックブログ



てのひら怪談
よっちゃん/百鬼夜行、グロテスクで陰惨な事件が日常茶飯事となった現在だからこそ生まれた異色の百奇譚
ビーケーワンでは2003年夏から毎年インターネット上で怪談を募集し、優秀作品を授賞している。昨年で4回になった。わたしは毎回欠かさず応募しているからルールはよくわかっているが、「怪談」というテーマ枠に800字で起承転結を綴るとなるとかなり手ごわい文芸競技である。本書はこれまでの応募作品から100作品を選んで収録したものだ。100もの怪しい話が紹介されていて、それらが絶妙、百様の味付けがなされている

てのひら怪談
仙人掌きのこ/てのひらからてのひらへ
たくさんの個体が集まって巨大な群体をつくる…鉄腕アトムに登場した「ロボット宇宙艇」のような生物が実在するという。深海に棲むクダクラゲである。驚いた事にそれぞれの個体は、専門の役割を担っているそうだ。あるものは捕食、あるものは生殖、あるものは移動…あたかも一つの生命体のように。この「てのひら怪談」はまさにそんな一冊である。インターネットでの公募という、地域も年齢も性別もバラバラな60名以上の語り部か

鬼仙 ★★★★★
星落秋風五丈原/中国版「ロッカーのハナコさん」登場!
ドラマ化もされた石井まゆみの人気漫画『ロッカーのハナコさん』のヒロインのように、主簿解(役所)に住みつき、時には主簿の手助けをする。その名は英華、鬼仙である。妖かしの存在ならば、ただただ人間を脅かして喜んでいる存在かと思いきや、美声年と恋仲になったりと、なかなか人間臭い。自分を追い払おうとする祈祷師を「あたしは下等な狐狸妖怪じゃないぞ!」と一喝するコワ〜い面もあれば、ご主人様を必死で守ろうとする狐

沈黙/アビシニアン ★★★★★
ねねここねねこ/美しい物語が、そこにある。
何という話たちだろう。ルコの物語、そしてエンマの物語。現実が遠のく。ページを捲る手が、すうっと冷えていく恍惚感。感想は出ない。ただ、凛とする大きなものを感じる。包み込まれている。息をする生命の鼓動がある。音楽、闇、生命。それは安堵感と、喪失感を思って感じられる。朽ちるもの、光るもの、残るもの。温度と、そして音楽。それは結晶化して、薄く留まる。特に「アビシニアン」。それは狂気でもある、純なこころ。純

綺譚集 ★★★★★
ねねここねねこ/耽美。おぞましく美しい物語
めくるめく陶酔を味わいたく、息を飲みながらページを繰る。唾を飲み込む音すらも、強く躊躇われてしまうほどに。空間の窪みに嵌り込んでしまったかの、耽美な幻想が流れている。色の付いた空流。取り巻く気体が胎動している。こっそりと、日常の隅から手をこまねく彼岸にあるようなその幻想。歪んだねじの定理。奇矯で見とれるその回転。捲れた世界にあるものが、こっそり息を吹き掛ける。現実と幻のあいだに漂う。ぎりぎりの脆い

シロツメクサ、アカツメクサ ★★★★★
ねねここねねこ/彼女のなかには少女がいる
「肉体は魂の錘なんだ」石が語るさまざまな話。少女の心に残った、奇妙で美しい思い出のこと。「過去の女」「グラスの中の世界一周」「シロツメクサ、アカツメクサ」そして上記の「語る石」。現代の美しい童謡。こんな話が書ける人は、どんな方なのかと思う。彼女のなかにある、宝石のようなものを思う。それは愛しくて遠い、少女時代の夢のかけら。自覚的な大人でありつつ、その夢を紡ぐ、真摯なやさしさ。森奈津子、エロのみにあ

時をかける少女 ★★★★
どーなつ/カバーイラストに貞本義行さん起用した新装版。ワンコインで買えて満足です♪
これまで度々映像化され、映画やTVドラマ、そして書籍など、メディアとしての露出度の高い作品。原作は知らなくても、原田知世の映画は見たぞ、って人が多いかもしれません。そして2006年にはアニメ化となり、再び注目を浴びていますね^^今回<新装版>にあたり、表紙を若者が手を出しやすいラノベ調にしたのもポイント高しかもしれない。なんといってもカバーイラストは貞本義行さんですから、店頭で表紙を見て「おっ?」

ナース ★★★★
どーなつ/救急車を勇敢(?)に乗り回し、敵陣に切り込んでいく姿はすごく勇ましい。
山田正紀氏のホラーアクションともいうべき作品。表紙の感じからだと、病院内で起こるミステリーやホラー系を連想しそうなのですが、中身はけっこうバイオハザード的なものに仕上がっています。標高1000メートルを越す山中に墜落したジャンボ機。連絡を受けた日本赤十字の七人の看護婦たちが急遽現場へ向かうことになったのですが、そこで彼女たちを待ち受けていたのは、想像を絶する未知の世界。頼りない男たちを尻目に、ゾン

千里眼The Start ★★★★
ひろし/千里眼、再び。
岬美由紀が帰ってきた!とうとう始まった、ファン待望の新シリーズ第一弾!である。その名も「TheStart」!うほー!とにもかくにも飛び込んでみて、千里眼ファンはきっとみな驚かされる。これまでのシリーズで、美由紀の得意技としてきた目の動きでその人間の心中を読んだり、幼少時への逆行を試みる事でトラウマを除去したりというのが、初手から否定されているのだ。一瞬、違和感を感じるが、ああそうかと納得。心理学の

陰摩羅鬼の瑕 ★★★★★
たむ/さまざまな楽しみ方ができるという点ではこれまでとまったく変わらない出来でした
期待していたわりにイマイチという評判を耳にしつつ文庫化を待って初読。そんなに悪くない。むしろかなり面白い。少なくともわたしは、ねっとり混沌とした『絡新婦』・『塗仏』よりは好みでした。たしかにいろいろなことを期待している側からすると、ことごとく拍子抜けの感は否めません。わたしにとってこのシリーズの楽しみは、妖怪に関する蘊蓄がけっこう大きなウェイトを占めます。ところが本書では、陰摩羅鬼にいたってはほん

道長の冒険 ★★★★
ピエロ/二人の活躍、もっと読みたいなぁ
短編集『平安妖異伝』の藤原道長と秦真比呂のコンビが再び!前作ではいまひとつ活躍の場が少なく、ちょっと不満に思っていた藤原道長ですが、本作では書名にもあるとおり、従者の寅麿を引き連れ大活躍、呪いによって春を奪われた京の都平安京と、囚われの身となった真比呂を救うため冒険の旅に出ます。道長ががんばっている分、今度は真比呂の出番が少なくなっているのが不満ではあるのですが。ストーリーはとてもテンポよく進みま

天と地の守り人 第1部 ★★★★★
あざみ/長い旅路の果てにやっと出会う『守り人』と『旅人』の物語
『守り人』シリーズの主人公は三十代、女だてらに短槍使いの用心棒バルサ。この主人公の設定だけでも、「おや?」と思わされる。シリーズの中で展開される彼女の活躍ぶりは、そこら近所の男の太刀打ちできるものではない。同性である女も惚れる強さだ。私も惚れた。そのバルサが幼い皇子チャグムを助けた物語が『精霊の守り人』。チャグムは、女ならだれでもが守ってやりたくなるようなひたむき努力少年だ。バルサとチャグムはその

僕僕先生 ★★★★★
萬寿生/読んで各自の心を暖かくしてください
久しぶりにファンタジーらしいファンタジーである。第一回ファンタジーノベル大賞受賞作「後宮物語」以来だ。両者とも中国歴史を背景とした作品であるということから、そのように感じる面もあろうが。ホンワカと暖かい、ほのぼのとした、春風駘蕩、花の香りにつつまれた春風の雰囲気。欧米のファンタジーのような血沸き肉踊るようなヒーローの冒険活劇もないし、英雄の援助を待っているヒロインも登場しない。しかし、竹取物語から

真景累ケ淵 ★★★★
松井高志/ハテ恐ろしき執念ぢゃなぁ(続)
三遊亭圓朝の傑作怪談である。通常、落語や講談でよく抜き読み(長篇のため全編通しでは時間的制約があって上演できず、一部分を抜き出して高座にかけるが、それを講談の場合ならばこう呼ぶ)されるのは、発端部分にあたる「豊志賀の死」である。若い男弟子の新吉に執着する富本の師匠・豊志賀は、嫉妬と猜疑に苛まれて顔に腫れ物ができる奇病に罹る。新吉と豊志賀の間には、かれらの親の代からの因縁がまつわりついている。醜くな

最後のウィネベーゴ ★★★★★
ぼこにゃん/犬も勘定に入ります。
テレビ番組が健康情報を捏造した、という記事が新聞の一面に載っていた。その数日前には納豆の売り上げが急激に伸びて生産が追いつかなくなった、と社会面が語っていた。番組がデタラメだったことを知り納豆を買い占めた人々は大変ご立腹らしいのだが、ずいぶんさもしい話である。楽してヤセたいと思うのも図々しいが、欲望丸出しのはしたなさに対する恥じらいもなく、ムコの被害者気取りで一方的に相手が悪いと糾弾する人の姿は実

海駆ける騎士の伝説 ★★★★
うみひこ/ゴシックな島への幻想
ダイアナ・ウィン・ジョーンズが、初めて書いた物語。それは、イングランド北部に実在する島を舞台に描いた騎士たちの六巻にわたる物語だという。その殆どが失われたということだが、最後の六巻だけが独立した物語として楽しめるということで、短編集に収められたことから、ここに独立した物語としてその翻訳を見ることができた。物語は、今から100年ほど前のイギリス。セシリアとアレックスの姉弟は、海を望む丘の上に立つ農家

東欧SF傑作集 下 ★★★★
SlowBird/あの日あの場所の人々
下巻では、チェコスロバキア、ユーゴスラビア、東ドイツ、ルーマニアの作品を集めている。この21世紀にはすでに国名が存在しないものもあって感慨をそそるが、これらの国が当時ソ連とは一線を画す文学的アイデンティティを保っていたことが、巻末の長文解説「東欧SFの系譜」に説明されている。その後の事情はともあれ、そうして保たれていた文化としての一体性が民族性に凌駕されることに是非を述べる立場に無いが、せめてその


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