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第6回ビーケーワン怪談大賞

選考結果発表(6/10頁)
★実感に基づいた幻想

 白縫いさやさんの『傘の墓場』は、今回3人のチョイスが重なった唯一の作品ですね。どうでしょうか?

福澤 怪談としては微妙なところもあるんですが、とにかく文章に圧倒されました。

 ただ杓子定規に、怖い作品ということだけではなく、こういう作品も入ってくる振れ幅の大きさも、てのひら怪談の奥深さだとは思うんですけれどね……。

福澤 着想と文章が抜きんでているのは間違いないと思います。

 「昔、博物館で見た翼竜の化石に似ている」――もう、この一節を読んで、「東賞はこれに決まり!」と興奮しました(笑)。破れ傘と翼竜。素晴らしいですよ、このアナロジーは。ただまあ、たしかに「傘が死んだ。」という出だしからして、今回特に多かった、レトリックだけで作られた作品と同工だろうと思われてしまうと残念ですが。

福澤 誤解されると困るんですよね。仮にこの作品が大賞を取ったら「幻想的じゃないか」という意見が出ると思うんですが、ただイメージを羅列した作品とは、根本的に異なるものです。不条理の中の条理というか、違いをわかってもらえるといいんですが。

 たしかに幻想的、不条理的なんだけど、強烈な実感に基づいてもいる。とくに後半は、われわれも子供の頃にイメージを掻き立てられた、ある種の原風景に直結している幻怪さがあって、単なる絵空事とは一線を画している、ということですね。

加門 実感がありますよね。生きている傘、死んだ傘。死んだ傘っていう表現、すごくわかるじゃないですか。

 先日の凄い雷雨の翌朝、家の近所の橋を渡ろうとしたら、ボロボロになった傘が落ちていてね、そういう傘が「墓場」に集められるというのは、すとんと腑に落ちる。

福澤 そこから翼竜になって、翼竜は六月を倒しに行く。イメージの展開が鮮烈かつ壮大です。

 飛雄さんは前回の怪談大賞で、注目された方ですね。今回も期待に違わず、読み応えのある作品を投稿してくださいました。『朝の予兆』 に2票が入っています。

福澤 展開自体はありがちなんだけど、ディテールが怖いんですよね。「母と弟の持っている箸の表皮がいきなり、蛇の脱皮のようにずるずると剥けて卓上に落ちた」 といった予兆の表現が斬新です。「瞬きのタイミングがまったく一緒」っていうのも、かなり不気味です。

★常連二人の作品

 立花腑楽さんは2作品に1票ずつ入っています。加門さんは入れていませんね。

加門 迷ったんだけど、選ぶ作品数の都合で、最後の最後でベスト20から外したんです。でも、私が選んでいたのは『肉色の森』だったから重なってはいませんが。

福澤 前回までに比べて、今回はとくに気合いが入っているなと感じました。

 これまでの作品に見える腑楽さんらしさを、いい意味で裏切って意外な展開にしていますね。

福澤 これまでは軽いタッチのものが多かったけど、今回はヘビーですね。

 『黒い果実が揺れていた』は、盛夏の田舎のけだるい炎天下、すべてのものがどろどろ溶けていくような妖しさが、実によく描かれていると思います。その果てに顕現する鴉と首くくりのダブルイメージが実に不吉でね。「鴉が歌っている。バスはまだ来ない。」という締めも効果的。

福澤 『僕は黄昏に責められる』もカラスでしたね。

加門 嫌な感じでしたね。私もベスト50の中には『僕は黄昏に責められる』も入れています。

 『肉色の森』は腑楽さんお得意の(!?)女陰ネタですが(笑)、意表を突いた展開を見せます。

加門 大地母神的なイメージがあって、神話的な展開にまで持っていくところに広がりを感じました。

 君島慧是さんも2作品に票が入っています。私が選んだ『辻の店』 は、ちょっと腑楽作品にも通ずる夏の日の幻影を、抜群のイメージ喚起力で切なく描いた作品ですね。ただ、いつもながら完成度は非常に高いのだけれど、今回はもうひとつ突き抜けるものがなかったようにも思いました。もっともっと書ける方だろうと思うので、あえて厳しい註文をつけて、奮起を促しておきたいと思います。

福澤 僕は『樹械』を挙げました。ほかの作品もそうですが、君島さん独特の豊饒なイメージにあふれています。ただ前回の作品と比べると、すこし物足りない印象でした。これだけ幻想的なことを書きながら散漫としてはいないし、ビジュアルが立ち上がってくる描写力はすごいと思うんですが。

(その後、選考委員が1票ずつ入れた作品について意見の交換。それを踏まえて、いよいよ賞を決めていくことに)


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